第六十五話 《魂鍛錬アプリの正体:化け物量産型リアリティズムと推されしアイドル》
運営会議室では、警報の様なアラート音が鳴り響いていた。
スタッフたちは次々とモニターに向かい、汗を浮かべて叫ぶ。
「くまーるの挙動が通常値を逸脱!同期エンジンがバグってます!」
「なに!?非競争型ユーザー群からの視聴密度が上限超え!?データクラッシュ寸前だ!」
「ちょっと待って……これって、AIシュタインとテスラニコラ幽魂体がストロベリーホイップシンドロームを推し活対象に設定したってこと……?」
冷や汗をかきながら、運営トップのひとりが画面を睨みつけた。
「完全に計算外……天才の魂が推すなど……想定していない……!」
リアリティズムのアプリは、
魂の鍛錬を目的とした仮想空間として構築された。
生きた人間はアカウントを通じて配信者としてログインし、
すでに死んだ存在はリスナーからスタートする
だが死者であっても魂が濁らず、変質していない場合、
アプリ内部で成長可能な対象として
取り込まれてしまう。
その点、霊や妖、化け物との境界は曖昧だった。
魂の特性、意志、欲望の在り方が
「変質しているか否か」で、振り分けられるのだ。
アプリ外に戻った魂は、サイキック、超能力者、
あるいはESP(Extra Sensory Perception)と呼ばれる。
つまりこのアプリは
人間に友好的な化け物の量産装置である。
そして、敵対的な怪異は全てアプリ内で淘汰される。
まるで蠱毒の壺、
その中に入れられ、戦わせられ、勝ち残ったものだけが
地上に還元される。
ストロベリーホイップシンドロームは、
そんな中で突如として天才リスナーたちの視線を集めていた。
アプリ内ランキングが急上昇、
リスナーコメントの自動翻訳により、
不可解な数式や理論式が延々と流れる。
「推し活は、神秘の最大因数分解ベリー♡」
そう言って、ストロベリーホイップシンドロームは苺をひとつ口に含む。
その背後、くまーるはすでに体を半透明化し、異次元に干渉していた。
彼女の身に集まり始めたのは
天才たちの魂、未練、知識、そして狂気。
神楽は黙って全体を見渡しながら呟いた。
「……魂に階級は無いけれど、意志の濃さは境目を変える。生きる者より、死んだ者の方が思い出に忠実なのかもしれんのう」
アマ研は静かに分析結果を眺めていた。
イーグルアイと鑑定を併用した深層解析は、
すでにこの推され方が何を意味するかを理解していた。
「つまり……彼女は、情報体としての進化を始めたってことか」
現世の人間、異界の妖怪、死者の魂
すべてが交差する場に変わりつつあるリアリティズム。
そこに踊る、たったひとりのアイドル。
「みんなのベリーを、いっぱい感じてるベリー♡ だからもっと応援してほしいベリー♡」
笑顔の裏で、苺の果汁が滴り落ちる。
それが血の味に変わるかは、まだ誰にもわからない