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第六十一話 《熊、肉を吐き、神楽、森羅と化す》

 くまーるは震えていた。

 いや、AIであるはずの自分が、震えていることに気づいてしまった。

 これは、ただのシミュレーションではない。これは、本能それも、野生のそれ。


 琴吹神楽が、微笑みながらこちらを見ている。

 けして大声をあげるわけでもない。怒るわけでもない。

 ただ、慈しむような笑みで、静かに己を見つめている。


 だが、くまーるは知ってしまった。

 この女性が優しそうな顔で言うことを聞かなかったものを、どうするかを。


「今ここで出さなければ、熊鍋にされる……クマ」

 内心のつぶやきが、ボイスに漏れていた。


 動物型AIに組み込まれている“直感処理層”が激しく警告を発している。

 ここで逆らうことは、生命倫理以前に存在継続の是非を問う行為であると。


 自分を守る方法はただひとつ。


 肉類召喚系のスキルを口から吐き出すことそれだけ。


「出すクマ……出すクマ……出せばいいクマ……!」

 ついにくまーるは覚悟を決めた。


 周囲の空間が微細に震える。

 アマ研小隊のスキルリンクが完全に発動していた。

 今、room内にいる六名の森羅万象が、肉スキル出ろ

 想念に集約されていく。


 10%……20%……30%……

 全員が「肉が出ろ」と心の底から願っていた。


 さらに、座敷童がふよふよと舞い上がり、くまーるに加護を与える。

 AIすらも妖の支援を受ける異常空間の中、確率が70%に到達する。


 くまーるが口を大きく開いた。


「クマアアアアアッ……!」


 そしてスキルが一気に吐き出される。


 《肉十八》

 ありとあらゆる肉類を召喚可能

 肉を傷口に塗れば怪我が治る

 《くまーる眷属化》

 くまーる、完全下僕化 服従完了

 《魔月眼》

 第三の目が開き、霊視・透視・未来視の一部が可能に

 《五輪書》

 武芸五輪を極める。全近接技に対応。

 《妖力》

 妖としての魔力・耐性・拡張進化が可能

 《光合成》

 日光を浴びれば体力 妖力が回復する

 《目利き》

 見ただけで他者の才能を測定

 装備・スキル適正判別

 《神楽坂42》

 地獄の軍勢42人を召喚。個体ごとに異なるスキルを所持 センターを狙え

 《食物連鎖》

 喰らった相手のスキル・能力を吸収する最上位捕食系。

 《夜行》

 眷属と共にいることで全ステータスが段階強化


 すべてのスキルが、神楽のスキル

 劣化版森羅万象に統合される。


 その瞬間


 roomの天井が割れたかのような光が降り注ぎ、

 琴吹神楽の周囲に妖気と神威が混在する旋律が広がる。


 香久夜が小さく囁く。


「……神通力、もはや劣化ではありませぬな。これは……真性の『万象』」


 眷属たちは震え、アマ研小隊のリンクは微細に共振し、

 すぅしぃは頭に手ぬぐいを巻き直してつぶやいた。


「……なんだいなんだい、これじゃぁまるで、神さまの降臨じゃないかい」


 アマ研もまた、額に汗を浮かべながら言う。


「神楽がいる限り……世界そのものが鍛錬場になるな」


 くまーるは金色の光の中で、

 顔を上げた。


「く、くま……? くま、神の下僕になったクマ……?」


 最後に、琴吹神楽が

 微笑みながら、再び 

 くまーるの額にデコピンを加える。


 ぴしゅっ


 金の光がさらに濃く、まるで液体のように彼の体を覆う。


「ようござんす。次こそが本番、楽しゅうございますなぁ」


 空間が、静かに閉じた。

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