第六十話 《熊鍋前夜、ガチャは命より重い》
久方ぶりの静寂がアマ研派閥のroomに訪れる。
腹を満たし、充実した訓練を終えた彼らは、少しばかりの娯楽と余興に目を向ける。
「そいえば、ガチャチケが貯まってんだよな」
すぅしぃがひょいと画面を指差す。
現在、派閥全体で所持しているガチャチケットは合計四十枚。
ストロベリーホイップシンドロームと琴吹神楽という新たな戦力を加えた今、
このチケットの使い道にも戦略性が問われる場面だ。
そんな中、アマ研が静かに宣言する。
「まずは、神楽とホイップに10枚ずつ使ってもらおう。それが妥当だ」
全員が頷いた瞬間、room全体が淡く輝き始めた。
四十枚のチケットがふわりと空中に舞い上がり、虹色の軌跡を描く。
やがて、それらの中心に一つの影が現れる。
回転しながら現れたのは、熊型のマスコットキャラクター。
ぽてっとした丸い体に、つぶらな瞳。
くまーると呼ばれる公式ガチャナビゲーターAIだ。
着地と同時にボイスが響く。
「クマっ! みんな元気かクマ!
今月のピックアップは獅子座ガチャクマ!
火属性・肉属性・王族系スキルが出やすいクマ!
通常ガチャとどっちにするか、選ぶクマ〜?」
その瞬間、roomの空気が凍る。
琴吹神楽が、すっと前に出たのだ。
「御託は、よろしゅうござんす」
さらりと手を伸ばすと、軽やかにくまーるの首根っこを掴み上げた。
「選ばせるなど、浅はかにございますな。
わっちが望むんは、肉
それのみ、他は取るに足らぬ」
くまーるのデータ処理速度が急激に上がる。
システム内での警告アラートが連鎖し、ボイスが裏返った。
「え、えええ〜!? す、すぐに切り替えるクマ! 演出だけで、お、お許しをクマ〜!」
そのまま神楽がふわりと扇を広げ、くまーるの額を軽くはじく。
ぴしっと乾いた音が響いた。
くまーるの身体が銀色に変化する。
「おや。随分と上等な金属の匂いがいたしますな」
神楽は微笑むが、目は笑っていない。
更に、もう一度ぴんっと軽く額を打つ。
今度は、くまーるの全身が黄金色に光り輝いた。
目元にはうっすらと涙のような描写が浮かぶ。
「……こ、これが……命の危機というやつクマ……?」
マスコットであるはずのAIが、震えながら小さくつぶやいた。
全員が沈黙する中、香久夜がぽつりと言う。
「次回のガチャ、きっととんでもないものが出ますね」
神楽は一歩後ろに下がり、金色に光るくまーるを掌の上に乗せる。
「ようござんす。次はわっちの番でございますな」
roomに再び、緊張と期待の風が吹く。
すぅしぃがつぶやく。
「こりゃあ、熊鍋にはならなかったが……鍋よりアツい展開が来そうだねぇ」