第五十九話《召喚祈願☆ガチャの彼方に》
フルコースと呼ばれる饗宴を終えたアマ研小隊は、満腹と高揚の中で静かに息をついていた。
甘味、海鮮、納豆、柑橘。異界の素材たちは奇跡的な料理となり、テーブルの上でまるで芸術のように並んでいる。
だがその余韻に、ひとつの静かな声が影を落とした。
「……肉が、足りませんな」
香久夜が目を閉じたまま、静かに扇子を開いた。空気に小さな緊張が走る。
「甘味、魚介、発酵果実。召喚としては見事の一言。しかし肉を欠いては、饗宴としては未完でございます」
すぅしぃが湯呑を置きながら言った。
「肉がなきゃ、戦も始まらねえっての」
アマ研はスマホを取り出し、画面を静かにスクロールする。
「召喚チケットは四十枚。現状を考えると、悪くない枚数だ」
ホイップが元気よく立ち上がった。
「きゃーっ♡ それもう回すしかないやつベリー♡ 筋肉モリモリのお兄さんとか、かわいい肉の姫さまとか来ちゃう予感しかないベリー♡」
だがアマ研はそのテンションに流されることなく、淡々とした口調で返す。
「いや、まだ回さない」
「え〜〜〜っ!? この流れで引かなきゃウズウズするベリー♡ 引いちゃおうよ〜、今がその時ベリー♡」
「焦って失敗するより、まずは召喚の目的を明確にしてからだ。今回のガチャに、どんな意味があるのかを知っておきたい」
香久夜が扇子を閉じて一歩前に出る。
「まずは座敷童に運気を整えてもらいましょう。召喚前の調律は、重要な前儀にございます」
アマ研が静かにうなずくと、スキル《座敷の調律》が発動された。
空間がほのかに揺れ、座敷童が現れる。黒髪の童女は肉料理を溺愛する存在。静かに神楽の背後に座した。
画面に新たな通知が浮かび上がる。
ラッキーフィールド発動準備完了
SSR出現率+3パーセント
肉属性スキル出現率+2パーセント
ホイップが目を輝かせながら跳ねる。
「やったベリー♡ これはもう神引きの気配しかないベリー♡ すぐに引いていいやつじゃないベリー?」
アマ研は静かに首を振る。
「焦らない。まずはこの肉が、どのように我々の戦力となるかを確認する。料理で終わるか、武器として使えるか、あるいは召喚獣か。
そこを見極めてから、初めてガチャを回す意味が出てくる」
神楽も扇子を手にしたまま頷いた。
「素材か、使役か。それを誤れば、運すらこちらに振り向きませぬ」
ホイップは両手をきゅっと胸元に寄せ、ぷくっと頬を膨らませる。
「も〜〜っ♡ でも分かったベリー♡ 理性で我慢するのもギャル修行ってことでアリベリー♡」
愛琉-meru-がスマホを構えて配信を開始する。
「はい映え確定♡ こういう引かない間が最高なんだよね〜! ガチャ前のこの緊張感、尊さの極みってやつ〜!」
アマ研が画面を見つめながら静かに言う。
「残り二十枚は次に回す。それまでに肉の性能と特性をきちんと見極めておく」
再び静けさが場に戻る。
召喚チケット残数 四十枚
座敷童 召喚完了
ラッキーフィールド 準備完了
肉の神々はまだ姿を現していない。
それが料理で終わるのか、力となるのか、それとも未知の存在を呼ぶのか。
すべては、次の召喚に託されている。