第五十八話 《召喚☆フルコース!リアリティ厨房に春の嵐が吹く》
リアリティズムの空間に、今日も陽が昇る。
だが、戦火も魔核も、呪詛も血煙も
今日は影を潜めていた。
「今日の戦闘予定? ないねぇ」
すぅしぃは手ぬぐいを額で締めながら、ふふっと鼻で笑った。
「こちとら江戸前の誇り背負ってるんだ。いいかい? 腕が鳴るっつーのは、包丁握る時だけで十分さ」
アマ研小隊が今回挑むのは
召喚料理。
それぞれの能力を駆使して、幻影ではなく「本当に食べられる」リアル料理を再現する。
目的はただひとつ。フルコースの完成である。
すぅしぃは、寿司職人として現実世界でも伝説を残した職人。
寿司ネタ(海鮮全般)とシャリの召喚を可能とする特殊技能の持ち主。
神楽の眷属「おれんじ」は精霊であり、柑橘類ならば自在に召喚可能。
ストロベリーホイップシンドロームは、
苺を美しく飾り立てた一皿と、ふわふわの甘いホイップクリームを演出付きで生成できるスキル持ち。
「わたしの苺はねぇ、キラキラしながら出てくるのベリー♡ 完全に映えだよベリ〜!」
さらに忘れてはならない、地味で静かな存在
ひきわり納豆。
そのスキル《発酵》は、味と栄養価を兼ね備えた「ひきわり納豆」そのものを出現させる。
すると当然、アマ研はこうなるわけである。
「ここまで食材が揃ってりゃ、やることは一つしかねぇ」
すぅしぃが口角を上げて包丁を構える。
「フルコースだよ、旦那
魂に染みる、最高のやつをな」
【前菜】
・香り柚子と炙りイカの冷製カクテル
召喚者:おれんじ(柑橘精霊)×すぅしぃ(イカ)
透明なグラスの中に、柚子香るイカと和風ゼリーの層が美しく盛られる。
「召喚された柑橘って、普通に現実より旨ぇのが解せねぇんだけど」すぅしぃが苦笑い。
【主菜】
・江戸前寿司10貫+納豆軍艦2種
召喚者:すぅしぃ×ひきわり納豆
すぅしぃの握りに合わせ、ひきわり納豆が即座に海苔に収まる。
「俺……生まれて初めて、納豆が褒められてる気がする……」と納豆が涙目になる場面も。
【デザート】
・ストロベリーとホイップの幻想パフェ
召喚者:ストロベリーホイップシンドローム
豪華な音と光の演出と共に登場。まさに「演出で殴る」系スイーツ。
「カロリー? 知らなぁ〜いベリー♡ 魂の栄養で出来てますベリー!」
叫びながら彼女はVサインを決める。
だが、問題は「肉」だった。
あらゆる手を尽くしても、主菜に並ぶ「肉料理」が足りない。
召喚スキルにも限界がある。現状、肉類を出せる者は、まだ誰もいない。
「こいつぁ、由々しき問題だね」
すぅしぃが茶をすすりながら首を振る。
香久夜が唇に扇を当てながら囁く。
「肉料理を再現するには……新たな眷属、または副生体の中に、肉師が要るやもしれませんね」
「肉師って……語感が濃いな」
アマ研が苦笑しつつも、今後の人材確保計画にメモを走らせる。
愛琉-meru-が小首をかしげながらスマホを操作する。
「でもさ〜、お肉ってリアリティ的にも需要ヤバいよ? 配信タグで#肉ギフとかつけたらバズりそう」
ギャルの直感とイーグルアイのデータ解析は、意外にも一致していた。
肉の召喚者は次なるスターの条件となる。
最後に一同でフルコースを味わい、満足げに一息つく。
「……しあわせですベリー」
ストロベリーホイップが呟き、
ひきわり納豆はそっと丼を抱えて黙々と噛み締める。
アマ研が呟いた。
「戦場では命が軽い。だからこそ
こうして味わう日常に、意味が生まれる」
静かにノートを閉じ、こう続けた。
「次は……肉、だな。召喚食材の最終ピース。必ず見つけ出す」
美食と戦術のあいだで揺れる、リアリティズムの静かな一日。
だが、次なる激動はすでに近づいていた。