第五話 《蓮撃開華:飛ぶ鎌とハムスターの女》
最初に動いたのは、“ロウ”に切り替わったmoorだった。
沈み込んだような低い姿勢から、静かに一歩。そこから爆発する。
「はッ!」
空気が鳴った。
一歩の踏み込みが風を切り、次の瞬間には男の懐へ肉薄していた。
右の膝蹴り。空振り。しかしそれすら囮。
回し蹴りへと移行し、バックステップする男の顎を狙う。
寸前でかわされたが、さらに左足が跳ね上がる。
前蹴りからの連続足技まるで蓮の花が舞うように、蹴りが流れる。
「くっ……!」男が顔をしかめ、腕で受ける。
だが、そこへ割り込むように
なぎ店長が酒の瓶を
片手にステップイン。
片足をフラリと前に出し、ふらついたかと思えば
「酔拳流・蓮乱掌!」
拳が空を裂いた。
揺らぎながら突き出されたその打撃は、見た目に反して重い。
避けたつもりの男の顔面に軽く触れたかと思った瞬間、反動で体がのけぞった。
打点がわからないまま、確かなダメージが蓄積していく。
「今だ、離れて!」
アマ研が叫ぶ。
moorが回転蹴りを空中で一閃させて間合いを離脱、
なぎ店長も後方に酒を投げ捨ててバックステップ。
「フェンリル、出ろ!」
アマ研が手を掲げると、銀色の毛並みを持つ獣
召喚獣フェンリルが
彼の背後に現れた。
もとは人と同じサイズだったそれは、魔力を吸うようにして巨大化し、肩幅はトラック並みになる。
「吼えろ、ブレスモード!」
フェンリルの口が開き、銀の魔力が渦を巻いて収束
ドゴォォォン!!
大地をえぐるような爆音と共に、銀色の熱線が男を直撃した。
土煙。地面が抉れ、地形すら変形する威力。
だが
「……ハハハ」
土煙の中から、男の笑い声が響いた。
傷だらけの姿ながら、顔はにやついていた。
「面白ぇな、お前ら。もうちょい楽しませろよ」
「なっ……!」
その瞬間だった。
斜め後方、空を切る音。
シュウゥゥンという鋭い風音とともに、巨大な影が横切る。
次の瞬間
ズバァァァン!!
男の体が真っ二つに裂けた。
時間が止まったかのような静寂の中、血が舞い上がる。
一同が息を呑む。
鎌だ。空を切り裂いたのは、巨大な大鎌。
視線を切るように、アマ研が飛んできた鎌の方向を見る。
そこに立っていたのは、どこか古風な服装の女性。
頭には、ちょこんと小さなハムスターが乗っている。
彼女は無言のまま、仁王立ちしていた。
異質で、異様で、
そして異常なまでに
存在感のある登場だった。