第五十五話 《蘇る怪異の帝、筋トレした神楽と忠誠の糸》
イベントの余韻が残る中、アマ研小隊は静かに一つの決断を下していた。
前回のイベントで得た報酬の中に含まれていた、貴重なアイテム任意復活券。
それを、今ここで使うべきだという判断に至ったのである。
判断基準は明確だった。
最もギフトを受け取り、最も「いいね」を集めた存在。
クラウド上での貢献度は、魂そのものの成長に直結する。
「蘇るべきは、あの人しかいないよね」
愛琉-meru-がそう呟き、香久夜が静かに頷いた。
その名は、琴吹神楽。
伝説級の力を持っている大妖怪である。
「よし、使用します……復活券、投入」
アマ研小隊の誰もが、その場で静かに見守った。
上空のクラウドから「イイネ」の光が降り注ぎ、まるで星が舞い降りるかのような幻想的な光景が広がる。
それは魂に力を与える、イイネの筋トレ。
死んで強くなり、生きて鍛え、また蘇るこの世界独特の進化システム。
蘇生の光が集まり、一点を照らす。
その中心に、ゆっくりと姿が浮かび上がっていった。
圧倒的なオーラ。
風すら凪ぎ、空気が沈黙する。
彼女が帰ってきた。
「久しいな。……貴様ら、まだ遊んでいたのかえ?」
琴吹神楽。
その姿が完全に顕現した瞬間、場の空気が一変する。
ただ立っているだけで、視界が引き裂かれるような威圧感。
どこまでも透徹した視線と、絶対的なカリスマ。
その様子を見ていたべるスパイダーべるんこは、思わずビクリと肩を跳ねさせた。
「……けっ、けけけけ敬意を……あ、あらためて、ちょ、忠誠を誓うだもし!!」
即座に地面に頭を擦り付け、かつての主への恭順を示す。
あまりの切り替えの速さに、すぅしぃがつぶやいた。
「魚の目の前で正座するタコみてえだな……」
ギャルなりに感動していた愛琉-meru-も小さく拍手。
「神楽さま、マジパネェ〜♡ てかさ、あたしのカレピッピよりカリスマあるよね……!」
Beyondがストラディバリウスの弓を構え、軽やかに旋律を添える。
香久夜は静かに神楽へと向き直り、恭しく一礼した。
「お帰りなさいませ。我が主様これより、再び戦列へ」
「ふふ……戻ってきたからには、全力で踊ってやろうじゃないかえ」
その言葉とともに、琴吹神楽の復活が正式に宣言された。
だが、これが終わりではない。
むしろ、ここからが始まりなのだ。
戦列に加わるクラウド上で日々魂の筋トレを続けた伝説級の大妖怪。
再編されたアマ研小隊は、もはや国家級の戦力となっていた。
だが、同時に思い出されるのは一つの懸念。
べるスパイダーべるんこや琴吹神楽のような存在が、もしアプリの外に溢れ出たら。
この世界にとって、どれほどの災厄になるのか。
「このアプリ内は良きこと悪しきこと、どちらも鍛えられておる……」
神楽は静かにそう呟き、夜空を仰いだ。
戦火の静寂に、次なる嵐の予感が漂い始めていた。