第五十二話 《終焉を連れ歩む女王──吊られし真核、今ここに顕現す》
地が軋む。
空間がよじれ、重力が変質したような圧が辺りに広がる。
その時、上空に黒い穴が裂けた。
そこから垂れ下がる無数の縄
ぶら下がるのは人ではない、何か別のものたち。
吊られ女王・本体
ついにその姿を現した。
糸で繋がれた眷属たちを従え、天より垂れ下がるように降臨する。
首を傾けた者、顔の潰れた者、腕を切断された者
すべてが静かに吊られて揺れながら、女王の一挙手一投足に呼応するように舞っていた。
そして、彼女は立った。
その場に足を着け、ゆっくりと歩み出す。
歩くたびに、地に血のような魔法陣が刻まれ、
そのたびに新たな吊られた眷属が現実に生成されていく。
まるで彼女の存在そのものが、死者を引きずり戻しているようだった。
「……これはもう、災厄の発生源ってレベルじゃないぞ……」
しまった秀平がつぶやく。
視聴者数812人、共鳴率78%。
カメラ越しでも圧が伝わってくる。
寿香久夜が前に出る。
眷属を伴い、冷ややかに吊られ女王を見据える。
「ようこそ、お迎えする準備は、整っております」
その背後で、べるスパイダーべるんこが構える。
体中の糸が唸りを上げて震え、べるんこの瞳が赤黒く光る。
「こいつはなかなかの本気モードだもし。眷属ごと潰す覚悟でいくしかねえだもし」
吊られ女王は口を開かない。
だが眷属たちが、同時に笑い声のような唸りを上げた。
吊られた死者の数は、瞬く間に三十を超えた。
すでに異常事態だった。
アマ研はその背後で刀を抜く。
足を滑らかに踏み込み、中国拳法の円運動を取り入れた独自の構えに入る。
「もう模擬戦じゃない。これは現実だ。ならば切り捨てるだけだ」
次の瞬間、戦端が開かれる。
アマ研の居合いが、二体の眷属を同時に一閃し、後方のカレピッピたちがそれに合わせて握り寿司型ホーミング弾を次々に放つ。
すぅしぃはそれに合わせて高速で寿司を握り、投げ渡す。
「上がり五貫! そいつらの口にぶち込んでやんな!」
カレピッピたちはそれを豪速球で投げる。
魔力と料理が混ざった寿司弾幕が空を覆い、眷属を次々に薙ぎ払っていく。
愛琉-meru-はギャルパワーを全開にしながら叫ぶ。
「いっけ〜カレピッピ! ギャル魂MAXで殲滅しよ♡」
癒しの旋律が流れる。
ストラディバリウスを背負ったBeyondが演奏を始め、攻撃と回復の波動が戦場全体を包む。
香久夜はその中枢に立ち、全スキルを管理しつつ前線を維持していた。
「……あれが貴女のすべてですか? ならば、こちらもすべてをお見せしましょう」
だが吊られ女王は止まらない。
そのたびに眷属が増え、空間が歪む。
最後には空中に浮かぶ縄がいくつも垂れ下がり、そこにまだ吊られていない者たちが名指しで召喚され始める。
しまった秀平が、震える声で実況する。
「これは……配信を通してリスナーの魂すら吊るしてるのか……?」
吊られ女王はそうして、配信者の領域を超えて世界そのものを手中に収めようとしていた。
だがその時、
べるスパイダーべるんこが大きく腕を広げた。
「お前の宴はここまでだもし。終わらせるだもし!」
光が交差し、最終局面が近づいていた。
ボロボロになりながらも、吊られ女王はなおその場に立ち、すべての攻撃を正面から受け止めていた。
終わらない戦い。
だが、終わらせる意志を持つ者たちが、そこにいた。