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第四十七話 《黒糸に囁く悪霊の微笑 語り継がれる、蜘蛛夜の奇跡》

 アラクネ討伐イベントが終わった瞬間、サーバー中に戦果報酬の通知が行き渡る。


 アマ研チームが、圧倒的な貢献度を叩き出し、全配信者の中で頂点に立った。


 その報酬内容は凄まじいものだった。


【イベント報酬・順位別内容】


 ■ 一位(アマ研チーム)

 ・任意復活券 ×3

 ・ランダムリスナー復活券 ×5

 ・ガチャチケット ×3

 ・染色チケット ×1(色指定可)


 ■ 二位(愛琉-meru-)

 ・任意復活券 ×1

 ・ランダムリスナー復活券 ×3

 ・ガチャチケット ×2

 ・装備ショップ70%OFF券(任意1品)


 ■ 三位(寿香久夜)

 ・ランダムリスナー復活券 ×2

 ・ガチャチケット ×1

 ・装備ショップ50%OFF券(任意1品)


 ■ 四位すぅしぃ

 ・ランダムリスナー復活券 ×1

 ・装備ショップ30%OFF券(任意1品)




「勝った……これで、また一歩、上に行ける」


 アマ研が静かに画面を見つめる横で、愛琉-meru-がピースサインをしながらカメラにウィンクする。


「ねぇねぇ、これヤバくない? ランダムリスナー5人復活とか、えぐ〜♡」


 すぅしぃは報酬一覧を見てニヤリとしながら呟いた。


「いいねぇ、運営も太っ腹じゃねぇか……ガチャ、またぶん回せるな」


 寿香久夜は微笑みを浮かべつつ、静かにうなずいた。


「おかげさまで、また一つ、命を拾うことができそうです……けれど」


 彼女の言葉が終わる前に、異変は起こった。


 倒したはずのアラクネの骸が、わずかに動いた。


 カレピッピとして傀儡化されたその肉体に、悪霊・べるべるんこが憑依したのだ。


 一瞬で変化が始まる。アラクネの身体が、雪のような白さから墨のような黒に染まりゆく。


 眼孔からは紫の煙が立ち昇り、節足が震えるように伸び、絡み、撓む。


「……ベルスパイダーべるんこ、爆誕だもし♡」


 くぐもった声が響くと、アマ研たちの目の前に、かつてのアラクネとはまったく異なる存在が現れた。


 禍々しいオーラを撒き散らしながら、ベルスパイダーべるんこは足を一本前に突き出すと、軽やかに宙を滑った。


 アマ研は即座にスキャンを試みたが、鑑定スキルではその全情報が「?????????」と文字化けし、読み取れない。


「……読めない? おいおい、マジかよ……」とすぅしぃが声をあげる。


 愛琉-meru-はスマホ型の端末を操作しながら叫ぶ。


「ログもヤバいんだけど!? なんか存在自体が想定外みたいなログ出てるんだけどぉ!?」


 寿香久夜の表情が険しくなる。その直後


 ベルスパイダーべるんこは香久夜の他にリンク中だった二体のカレピッピに向けて、糸を発射した。


 蜘蛛糸は空気を裂き、瞬時にカレピッピたちを繭のように包み込む。


「……!」


 思わず前に出ようとした香久夜だったが、そのまま糸繭は静かに震え、パカリと音を立てて裂けた。


 中から出てきたのは進化したアラクネの姿。


 新たな「アラクネピッピ」だった。


 その体格は一回り大きく、腕も足も多関節の動きで機敏に動くよう強化されている。

 魔力の流れも整えられており、明らかに前体以上の機動力と火力を誇っていた。


「これは……っ」


 香久夜はその場に膝をつくカレピッピたちを見下ろし、静かに目を閉じる。


「……進化、ですか。ならば、受け入れましょう。いえ共に、歩きましょう」


 チルバニアファミリーの令嬢はその様子をすべて目視していた。


 すでにアマ研という集団は、ギルドや組織を超越した一個の戦力単位として成立していると認識せざるを得なかった。


「……まさか、今日ここまでの流れを目の当たりにするとは」


 手元の記録端末に、彼女は記す。


 《アマ研小隊、ギルド相当の戦力有と判断。情勢観測対象ランクAからSSへ昇格》


 今、サーバー内の全配信者とリスナーがこの瞬間を目撃していた。


 語るべき何かがあった。


 狂乱の蜘蛛夜、進化する死骸、舞い踊るキラキラ寿司、突き刺さるストラディバリウスの旋律、そして黒糸に包まれた悪霊の笑み。


 それらは一夜の出来事として、各配信チャンネルで語られ、切り抜きされ、再生され、拡散され


 伝説となった。


 そして明日になっても、人々は言うだろう。


「あの夜を、俺は見てた」


「黒いアラクネ、あれがベルスパイダーべるんこだってさ」


「すぅしぃの大トロ、またぶっ壊れてたなw」


「香久夜マジ神」


「アマ研小隊、化け物すぎる」


 それが新たな記憶となり、アマ研という存在は再び、強く、深く、世界に刻み込まれていった。

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