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第四十六話 《月華葬送ラプソディ香久夜、白刃にて蜘蛛を断つ》

 

 アラクネとの戦いは佳境に入っていた。

 香久夜は静かに、そして確実に相手を追い詰めていく。彼女の視線は常に冷静で揺るがず、リンクで繋がった仲間たちのスキルを、迷いなく切り札として繰り出していく。


「愛琉さんのキラキラパワー、少しだけお借りしますね」

 香久夜の周囲にポップな輝きが広がる。可愛らしいエフェクトが舞い踊る中、その中心には鉄の意志があった。


「アマ研殿の補助スキルも拝借いたします」

 数式のような魔方陣が空中に浮かび、解析情報が戦場の全員にリアルタイムで共有される。まるで香久夜の思考が、そのまま戦術へと変換されているかのようだった。


「すぅしぃ様、少々、お力を」

 高速で握られたシャリとネタが、流れるような手捌きでアラクネへ投げ込まれる。直撃。煙と共に炸裂する光の寿司弾

 イカも、カレピッピのイカも、的確に狙いを捉えていた。


 香久夜は一歩も引かず、ただ淡々とスキルを重ねる。

 攻撃と防御、回復と支援。そのすべてを“舞”として昇華し、無駄な動きが一つもない。


 その後方では、すぅしぃが豪快に笑いながら叫んでいた。


「おらぁっ!今日は特上三貫サービスだよぉっ!」

 振りかぶった腕から投げられるのは、大トロ、穴子、うに。

 まるで爆撃のように敵陣へ降り注ぐ極上ネタの連投攻撃。


 アマ研も冷静に手を動かす。

「照準よし。照度最大。レーザー鮪、発射」

 寿司型の光線が一直線にアラクネの側面を焼き、肉片が宙に舞う。


 そのとき、戦場に風斬り音が響いた。


 キィイイン


 風を切る音と共に、空中からストラディバリウスをフルスイングで投げるBeyondの姿。

 聖属性の旋律が爆風の中心に広がり、地を震わせながら敵を弱体化していく。地面に突き刺さったまま音色を奏で続けるストラディバリウスは流石の一言である。


「おほほほほほっ!ごきげんよう、庶民の皆様♪」

 チルバニアファミリーの令嬢。ドレスをひるがえしながら、魔杖を優雅に振るい、上空から手を振っていた。


 その瞬間、上空から紫黒の雷撃が一直線にアラクネの背に突き刺さる。

 その身体が反射的に痙攣し、バランスを失う。


 香久夜はその隙を見逃さなかった。

 一気に距離を詰め、アラクネの巨体の懐へと滑り込む。


「アラクネさん、弱点は大体見えました」

 そう呟きながら、香久夜は両の指を鋭く組む。

 その手刀が、まるで時間を裂くようにして、アラクネの肋骨の隙間へと突き入れられた。


 硬質な感触を打ち破り、内側へ深く貫通する。

 ぐっ、と力を込めて引き抜かれると同時に、禍々しく輝く漆黒の魔核が香久夜の手の中に現れる。


「これが、あなたの魔核……ですか」

 香久夜は微笑んだ。冷静で、それでいて慈しみさえ含んだその笑みに、アラクネの全身が一瞬だけ震える。


「強さに自信があるのは、悪いことではありません。でも、脇が甘いですよ」


 次の瞬間、香久夜は《カレピッピスキル》を発動。

 魔法陣が彼女の足元に展開されると、その中心に魔核を投げ入れた。


 巨大なアラクネの身体が、まるで吸い寄せられるようにして魔法陣へと引きずられていく。

 その肉体は分解され、魔力に変換され、香久夜の眷属とシステムの中へと組み込まれていく。


 カレピッピ枠として変換されたアラクネの魂は、静かに香久夜の背後に立った。


 アマ研がデータログを確認して呟く。

「魔核収束完了。眷属化率、驚異の92パーセント。成功だ」


 愛琉が指ハートを作りながら言う。

「え、カレピッピ枠にアラクネとか……映えすぎでしょ♡ これはバズるわ!」


 すぅしぃが腕を組んで、ふんと鼻を鳴らす。

「粋だねぇ、こいつぁ良い素材だ」


 香久夜は再び、月を見上げる。

 静かに、静かにその場で一礼をし、こう呟いた。


「おつぐらですわ、御利益、御利益」


 月光は変わらず、戦場を照らしていた。

 その光の中に立つ香久夜の姿は、まるで月の巫女のように美しく、そして崇高だった。

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