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第三十八話 《分け合うは血とチケットたった一回の、未来を変える10連》

 戦場の熱気が薄れ、仮拠点に静寂が降りた。だが、アマ研たちの脳裏には確かな不安が宿っていた。

 それは次に現れるであろう、新たな災厄。運営の手によって意図的に仕組まれる、地獄のような異常個体。それを前に、今の装備やスキルでは足りない。決定的に、届かない。


 必要なのは四十枚。それが導き出されたチケット数だった。

 各人が十連を一回ずつ回すことで、全員の強化と、寿香久夜を含めた完全リンクが達成される。そしてアマ研の能力により、その四十連すべてのスキルが全員に共有される。

 つまり一枚が、四倍にもなる。共有リンクの可能性が、全戦術構造の上書きを可能にする。まさに運命を変える十連だった。


 アマ研が必要枚数を告げた時、空気が一瞬重くなった。だが誰も異を唱えなかった。言葉の裏にある現実を、全員が理解していたからだ。

 つまり他者から奪わなければならない。

 それも、ログインしたばかりの初心者から。

 スキルも武器も知らない者たちから、未来を剥ぎ取らなければならない。


 今までは多少なりとも後ろめたさがあった。

 リスナーから奪うこと、無力な相手からチケットを抜くこと。

 すぅしぃも、愛琉-meru-も、襲撃のあとで時折口数が減った。

 初心者たちが見せる、初めての絶望に似た表情。

 けれど今回は違った。


 アマ研は、はっきりと断言した。


「チームを強くする。強くなれば災厄を止められる。世界を守れる。それが善でなければ、何が善だと言うのか」


 その言葉が、皆の覚悟を呼び起こした。

 すぅしぃはムラサメを肩に担ぎながら、どこか遠くを見やり、口元に笑みを浮かべる。


「……だったら、遠慮すんなって話よォ」


 愛琉-meru-もまた頷いた。


「ログイン直後に襲われたところで、そいつらどうせすぐ死ぬっしょ? だったら、うちらが先にチケットだけ取って未来に変える。推し活ってのはね、守りたい未来のために動くってことよ♡」


 寿香久夜はただ静かに目を閉じた。

 その背に並ぶ四体の眷属は、完全にリンクされ、もはや呼吸のように存在している。

 躊躇はなかった。覚悟はもう、完成されていた。


 今の彼らにとって、強奪は罪ではない。

 目的のために必要な工程。犠牲の上に築く力。

 この世界を変える者の手段。


 アマ研は即座に指示を出した。


「ログイン地点に即転移。照合、マッチング、確保。迷ってる暇はない」


 もはやためらいなど一つもない。

 リスボンに出現したばかりの初心者を即座に囲み、感情が芽生える前に終わらせる。


 愛琉-meru-が先行し、煽りを入れて気を引く。

 視線を引きつけている間に、カレピッピが動線を封鎖。

 すぅしぃが寿司を投げ、視線を翻させた隙にムラサメが切り込む。

 一撃で倒れるビギナー。

 その場に漂うのはチケット一枚。それを拾い上げて、即離脱。


 寿香久夜は背後から回り込み、声を出す間もなく影を落とす。

 その刃が振り下ろされると、抵抗の余地もなく、戦果は確定する。

 まるで作業のような連携。それが既に五戦分を超えていた。


 やがてアマ研が静かに呟いた。


「これで三十枚目。あと二戦。いける」


 言葉に迷いはない。誰も疲労していない。

 すでに罪悪感など感知の対象ですらない。

 目指しているのはチケットではなく、十連。

 未来そのものの書き換えなのだ。


 今、全員が確信している。

 これが正義だと。これこそが、戦略だと。


 敵は強すぎる。世界は残酷すぎる。

 ならばこちらも、残酷に徹するまで。


 最後の一人が倒れる頃、拠点の風が変わる。

 チケットが四十揃った。

 アマ研たちは、それぞれの十連へと歩み出す。


 その一回一回が、ただの強化ではない。

 四十回分が、全員に流れ込む。

 あらゆるバフ、補助、斬撃、精度、弾幕、妨害、召喚、変質、リンク

 全てが共有される。

 それは、まるで神の領域。


 アマ研は笑った。


「もう誰の引きも無駄じゃない。全ての当たりを、全員が手にする。これが、俺たちの選んだ進化だ」


 彼が最後に言い放つ。


「行くぞ。次の十連が、すべてを変える。過去も、未来も、世界すらも」


 そして、

「勝つのは俺たちだ」

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