第三話 《デイリーミッション:殺り合いはフォローの後で》
戦闘が終わると、アマ研は周囲に散らばるギフト、コイン、そしてガチャチケットを手早く回収した。
「まずはおめでとうってとこだな。褒めるついでに一つ教えてやるが、リアリティズムにはマイページっつう、安全地帯みたいな場所があるぜ」
頭上から、フェンリルの声が降ってくる。
「そうなのか?」
過酷なルールを課してくるこの世界にしては、妙に良心的な仕組みだ。
「いや、安全っつってもデイリーミッションをクリアしてからじゃないと使えねえ。『一日一殺』ルールは絶対でな。引きこもってばっかだと時間が足りなくて即アウトだ」
前言撤回、である。
「君に聞きたいことは山ほどあるが……まずは、どうやったらこの世界を抜け出せるんだ?」
「おいおい、俺を引いたばっかで帰りたいとか豪胆だな! ま、気持ちは分かる。ハッキリした脱出条件はないし、実例もねぇ。でもSランク配信者になれば出られるって噂はあるな」
「配信ランク……?」
「ああ。ランクはAからEまで。さっき倒したカナリオのやつはDランクだった。ギフトやコメントをもらえば上がっていく仕組みだ」
「ってことは、俺はEか……」
「そうだ。初戦とはいえ、Dランクを狩ったのは上出来だぜ。才能はあるってこった」
「待てよ、AからEって言ったのに、なんでSランクの噂があるんだ?」
「だから噂なんだよ。公式には存在しない。だがまずはAランクを目指せ。ランクが上がれば、アプリのトラッキング性能が強化されて、お前の戦闘力もフルで発揮されるようになる」
「なるほど……」
Sランクの真偽はともかく、生き残るためには戦い続けなければならない。
派手な戦闘で画面映えを意識して、視聴者を惹きつけることが重要になるのだろう。
「それと、一日一殺ルールについても補足しとく。毎日、零時にミッションがリセットされる。」
「あと……これは根本的な疑問なんだが」
「なんだ?」
「一日一殺なら、毎日配信者が半分以下に減ってるはずだろ? ログイン人口はどうやって維持してるんだ?」
「そりゃお前も知ってるだろ、アプリをダウンロードしたやつは無条件にこの世界に転送される。つまり、現実から消える」
「でも、そんな多数の人間が突然いなくなれば、現実世界で大騒ぎになって、アプリはストアから消されるはずだろ?」
「そこがリアリティズムのヤバいところだ。この世界にログインした人間は、現実では存在しなかったことになる記録からも、記憶からも完全に抹消される。帰還するその日までな」
「……そうか」
家族や友人の顔が脳裏に浮かぶ。
もし自分がこの世界で死んだとしても誰にも悲しまれず、誰にも覚えられずに消える。
それは、もしかしたら優しい終わりなのかもしれない。
カナリオにも、大切な人はいたのだろうか。
「例外もいるがな。視聴者ってやつだ」
フェンリルの声が続く。
「少なくとも、莫大な資産や強力なコネを持つ連中が、スマホ越しに今もお前を監視してる。
配信者は日本人限定だが、視聴者は世界中にいるらしい。国籍も年齢もバラバラ。こっちからは見えねぇが、あいつらの目は常にこの舞台に向いてるってわけだ」
「……それと、リスナーってのもいる」
「リスナー?」
「ああ、視聴者と似てるが、もうちょい特殊だな。ギフト、イイネ、コメントを送ってくるのは同じだが、あいつらにはまた別の仕組みがある。……今は説明しねぇ。
そのうち嫌でも分かるさ。お前が推される側になればな」
「……じゃあ、あの加速ブースターを送ってくれたのも?」
「ああ。お前が受け取ったギフトは加速ブースター価値にして百コイン。
一コインが一万円だから、日本円で百万円相当ってとこだな」
「そ、そんな高額をタダで……」
命を救われたとは思うが、あのカナリオにも大量のギフトが投げられていた。
つまり、自分にギフトをくれた視聴者も彼女の殺し合いに大金を払っていた観戦者の一人だ。
このリアリティズムという世界が成り立ってしまっているのは、そういう視聴者たちの資金力とコネクションによるものなのだろう。
「ま、今日はこれだけ覚えときゃ十分だ。
ああ、あとで俺の使い方も教えてやる。一度しか言わねぇから、集中して覚えろよ」
「わかった」
フェンリルの指示に従い、設定画面をタップしてマイページに戻る。
一通りフェンリルの戦闘方法について講義を受けたアマ研は、画面の中で横たわり、眠りについた。
目を覚ますと、すでに次のデイリーミッションが始まっていた。
本日のミッション
・100メートル圏内で特定配信者を30分間観察
・500メートル圏内の配信者15名を確認
・「コラボ一殺」を達成せよ
とりあえず外に出て確認すると、10キロ圏内に配信者が87名。
ミッション達成のため、まずは500メートル以内に近づいて鑑定スキルを使用。
倒せそうな相手なら即戦闘、無理なら次へ。
7人目を目視した直後、800メートル先に三人の集団を発見。
近づくと、正面から目が合い、怒鳴り声が響いた。
「おい、初心者丸出しのテメー! 手伝え!
相互フォローすれば共闘可能だ。こいつら共闘してやがる。
生意気な女を一緒に殺そうぜ!」
女子二人がこちらに気づき、声を上げる。
「よかった、アマ研君じゃない!
さあ、このバカを三人でやっちまいましょ!」
鑑定スキルで情報が浮かぶ。
> moor
スキル《多重人格》中国拳法
> なぎ店長
酔拳スキル
酒を飲むほど強くなる
偶然にも、この二人はかつて自分がバイトしていたBARの関係者だった。
なぎ店長、そしてキャストのmoor。
迷わず二人にフォロー申請を
送り共闘成立。
リスナーも共有しながら、
三対一のバトルが始まる!