第三十六話《円環・死線・双極斬:挑むは戦闘型GMホライゾン》
空気が張りつめていた。
戦闘特化型GM
ホライゾンが、眼前に立ちはだかる。銃とナックルを使い分ける異形の戦士。戦術演算で補完されたその動きに、一瞬の隙もない。ならば、作るまで。
アマ研は仲間との感覚リンクをさらに深めた。呼吸が重なり、視界が重なる。自分の脈動と、仲間のそれが同期していく。ひとつ、またひとつと、戦意が重なっていく。
足が静かに滑り出す。踏み出した先の地面を掠めるように、彼の身体が円を描く。旋回、加速、そして重心を沈めてから踏み込むと、腕が自然に伸び、敵の脇を払うように接触する。弾かれた身体の反動を利用し、再び脚が地を打ち、重心が弧を描いてもう一度旋回する。まるで軌道が一筆で描かれているかのように、攻撃が続く。
その隙をついて、すぅしぃが飛び込んだ。投げられた寿司がホライゾンの顔面に向かい、視界を乱す。刃を握る手首が、肩ごと落とし込むように下ろされると、金属音がはじけた。刃はあえて振り抜かず、掠めるように撫でる。その軽さが逆に不気味な迫力を生み出し、ホライゾンの体勢を崩す。角度を変え、膝を落として距離を詰める。地を這うように滑り込むと、低い姿勢から跳ね上がるように打ち上げる拳
重い音が胴体に響く。
ホライゾンが反応し、銃口を向けた。引き金が引かれる一瞬前、空間を揺らすようなギャルボイスが響いた。
「カレピッピ、かばってぇーっ!」
突如として現れたカレピッピが弾道に割り込み、爆ぜるように衝撃を吸収する。舞い上がった塵煙の中から、愛琉-meru-がスキルを構え、光の球体を押し出す。見た目の派手さに反して、その威力は地面を砕き、ホライゾンの足元を割った。
揺れる視線の先、寿香久夜が滑るように出てくる。その身体から漂う気配が変わっていた。眷属の霧が彼女にまとわりつき、肌の上で蠢きながら力を流し込む。左手が自然と鎌を握り、右手の指先が魔力を掻き回すように動き始める。斜めに振り抜いた鎌の動きは風を纏い、続けざまに五、六の連続斬が斜めから、上から、背後からと飛び込むように放たれる。
ホライゾンの銃口が回る。だが、その視線の端に、旋回を続けるアマ研の姿が映る。軸足を切り替えた身体が勢いを溜め、腕が自然と重力に逆らう形で放たれる。跳ね上がった脚が胸板を撥ね、反動を利用して再び脚を地面に着けた瞬間、身体がしなるようにねじれ、掌が一線を走るように叩き込まれた。
そこに、すぅしぃの投げた寿司が次々にホライゾンの視野を覆う。ひとつひとつが正確に制御され、空気ごと切り裂くような速度と精度で飛んでいく。目を狙った握りが一発、軽く眉間をかすめる。
ホライゾンの体勢が浮いた。愛琉の視線がキラリと輝き、即座にバフが全体に行き渡る。鼓舞、加速、視覚効果上昇。寿香久夜の魔力が脈動し、四体の眷属が再び解き放たれた。
一気に押し込む。
身体の感覚が極限まで研ぎ澄まされる。アマ研は円の動きの中でタイミングを掴み、わずかな隙間に滑り込む。体重を回転の中心に落としながら腰を捻り、手のひらで突く。
ホライゾンの身体がぐらつき、そのまま後方へと吹き飛んだ。
静寂が訪れる。
眷属は主の背に戻り、ギャルのカレピッピはポーズを決める。
アマ研たちは己の限界を超えた手応えを感じていた。
このサーバーで、彼らの存在はもうただのプレイヤーではない。
戦場における、美しき破壊者たちだった。