第三十二話《影縫いと射燐の凶弾、忍の牙は推しを狙う》
狩りの最中は、最も隙が生まれる。それはアマ研チームも例外ではなかった。
四人と一匹、フェンリルを連れた推され者たちは、今日もログイン直後の新規配信者を索敵していた。デイリーミッションの十五人観察、一日一殺。その消化が主目的のはずだった。
だが、その一歩が、すべてを変える。
アマ研が足を踏み出した瞬間、何かが足首に絡みついた感覚。全身の動きが鈍り、膝から下がまるで石になったかのように重くなる。
既視感があった。いや、これは間違いない。
厄災決戦のとき、琴吹神楽が一瞬動けなくなった原因。あのときの影縫いと同じものだ。
空間が揺らぎ、黒い帯のような影から、一人の女が滑り出る。影の中に溶け込むような衣装、鋭利な目元。忍者装束の女性が、逆手に短刀を構えたまま笑った。
かげろう。Aランク。影を操る闇の忍。
影縫い・重。動きを封じる忍術の派生強化版。すでに術式は発動している。完全な奇襲だった。
続けざまに、乾いた破裂音が横から響く。銃声。しかも単なる弾ではない、妖力を帯びた特級弾。アマ研を狙っていた。
銃口を向けていたのは、仮面の忍者
雨千羽。男でありながら長い髪をなびかせ、その指には黒い煙を纏った銃が握られていた。
「そいつ、厄災だろ?」「しかも弱体化してる。サクっと殺した方が無難だな」
射線の先で、カレピッピが光と共に出現。愛琉-meru-の召喚獣は、主の命令に即応し、全身で弾を受け止めて霧散した。
その間に、アマ研は拘束から脱し、すぐさま距離を取る。
「妖力パターンが一致している。寿香久夜……神楽のサブアカウントと断定して問題ない」
かげろうの声が、淡々とした調子で戦場に染み込んでいく。
「イベント報酬は今回は無いが、早めに討伐した方が後腐れ無いね」
忍びにとって、情けや遠慮は無意味。任務は遂行されるだけだった。
すぅしぃが前に出る。刀の鞘を鳴らし、息を吐いた。
「江戸前舐めんなよ。脇腹斬られる覚悟くらい、朝の仕込みで済ませてきな」
香久夜が影の先から静かに声を投げた。
「推された者には試練が伴う。それがどれほど苛烈でも、見守る者がいれば越えられる。この戦場に、選ばれるのは……推された者だけ」
忍と推され者、静かな地鳴りのような緊張が拡がっていく。
次の瞬間、光が弾け、全員が同時に動き出した。