第二十九話《狩りの眼、雲より鋭く》
高台から、三つの影が地上に降り立った。アマ研、すぅしぃ、愛琉-meru-。その足元に広がるのは、登録したばかりの配信者が彷徨うログインエリア。防具は初期装備、スキルは未発現、ガチャチケットさえ未使用の完全なる無垢たち。
「さあ、始めようか。今日の一殺を」
アマ研の瞳が細く鋭くなる。すでに彼の視界は、通常の感覚ではない。
《イーグルアイ》
クラウド上での観察と思考の果てに、自力で覚醒させた超感覚スキル。
本来スキルとはガチャで強引に
第六感や魂の小宇宙にまで至る力。
魂の震えと、勝利への渇望、そして推し活への執念。その三重螺旋が織り成す異常な熱が、ついに一つの能力として形を成した。
それは、あらゆる気配と魂圧を視認化する力。広大なマップの中、新規登録者のログイン位置が次々と網膜に浮かび上がる。
無垢、脆弱。だが確実に“価値”を持つ存在。
その中に、ガチャ未使用者を示す特殊な光点が混じっていた。
「……チケットをまだ使ってないな。初期配布の5枚、手付かず。倒せばそのまま回収できる」
仕様は明快だ。ガチャチケットは初期配布で5枚。使用前に討てば、そのまま戦利品として転送される。
アマ研は小さく息を吐きながら周囲を観察する。
「まずは未使用者から。価値は、チケットにある」
そのタイミングで、すぅしぃが一歩進み出た。
「見てみなよぉ、初期服で震えてんじゃねえの。こちとら味噌汁の温度で勝負してんだ、火傷すんなよ?」
手にした寿司のひとつを、あえて狙いを逸らして投擲。ビギナーのすぐ脇を掠め、地面で無惨に砕ける。
それでも相手は反応した。防御姿勢。迎撃モーション確認
セーフティモード解除
「動いたな」
その一瞬を逃さず、アマ研が踏み込む。初撃、完遂。
《初配信者を討伐しました》《ガチャチケット ×5獲得》
アマ研は静かに、だが確実に呟いた。
「…まだまだ回収させてもらう」
一人の初心者が倒れ、観戦していたリスナーがポツポツとイイネを送る。その光がまた、クラウド上に新たな火花を灯す。
この日、未使用チケットを5枚すべて回収するケースが出始めた。
だが状況は静かに変わり始めていた。中には、すでにガチャを使用し、スキルを引き当てた者もいる。彼らの動きは鋭くなり、反撃の兆しが見え始めていた。
アマ研の視線がより一層鋭くなる。
「……引かせちまったか。なら、使わせる前に沈めるしかねぇな」
作戦自体は変わらない。ただ、狙う順番とタイミングに一段と精度が求められる。
すぅしぃの投擲は時間差で相手の注意を逸らす方向へと洗練され、愛琉のギャル風エフェクトは、まるでステージの照明のように相手の集中力を削ぎ落とす。その視覚ノイズが敵の判断を曇らせる間に、アマ研が突き刺さる。
三人の立ち回りは、観察→分析→排除の流れを見事に形にしていた。
新規登録者たちはまだ知らない。この地に、一切の容赦を持たず、すべてを狙う復活者が潜んでいることを。
フォロワー数
増加48人。
だがそれは、
始まったばかりの狩りの、
ほんの序章に過ぎなかった。