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第二十八話《推された死者、雲の下へと還る》

 雲の海は、どこまでも静かだった。けれど、アマ研の中だけは違った。沈黙に包まれたクラウド空間に響く通知音が、再起動の鐘を鳴らす。

 イベント終了のお知らせ討神イベント:全体貢献度確定参加者への個別特典を配布中

 淡く光るウィンドウが、いくつも重なり合う。その中に記された報酬群は、予想を遥かに上回っていた。


 染色チケット

(装備/スキルカラー変更)×3

 スキルガチャチケット ×2

 クラウドコイン ×500

 拠点家具パック:中級セット

 そして、リスナー応援者への配布通知もあった。イベント期間中に「イイネ」や「コメント」を行っていたリスナーには、それぞれに準拠した特典が与えられている。誰一人、取りこぼしはない。

 だが、最大の通知はその後だった。

 敗者復活抽選:当選リスボーン地点を選択してください復活後、60分間は戦闘行為不可

「……来たな」

 アマ研は、クラウド全体を俯瞰した。死の寸前までに組み上げた戦略が、今まさに現実となる。

 選んだ復活地点は、勢力の狭間。旧リスナーバフ地点のひとつ。目立たず、しかし流入と浸透には最適なポジション。そこを仮拠点とするつもりだった。

 まずは、メッセージを送る。チルバニアファミリー令嬢へ、敗者復活の報告と討神イベントへの感謝を込めた、簡潔な挨拶。

 続いて、すぅしぃ、なぎ店長、むうあにも個別に連絡。生存の確認と、再び手を組めるかの打診だった。

 数分後、すぅしぃから返信が届く。

 へへっ、生きてたかい? あんた死んだ時、あたしゃ悔しくて鍋ぶちまけたよ。合流場所、ウチに任せな。あそこの高台が空いてるはずだ、使わせてもらうよ。

 口調は江戸っ子だが、そこに滲むあたたかさは確かな友情だった。

 なぎ店長とむうあからは、すでに九封会と呼ばれる勢力へ合流したとの返信があった。

「……無事で何よりだ」

 だが、事態はそれだけでは終わらなかった。

 新規推し登録:

 琴吹神楽があなたを推し設定しました神楽の加護があなたに付与されます特典:鼓舞/注目率上昇/回復効果UP

「はああっ!?」

 討伐対象だったはずの琴吹神楽は、 すでにリスナーに転じていた。その 彼女が、今、自分を推した?

 続いて、メッセージが届く。

 《戦力としてはまだまだであろうが、伸びしろは感じる。せいぜい励みなされや。そなたの成長を、此度より見届けようぞ。》

 古風な言い回しと、どこか優しげな眼差しが透ける文面。上から目線なのに、なぜか拒めない不思議な温度を感じた。

 復活地点に降り立った瞬間、すぅしぃの姿が視界に飛び込んでくる。

「アマ研。……まったく、改めて仲間に誘ってもらって、こちとら脇腹がくすぐったくなるじゃないの。ま、派手にいくよ!」

 包丁を振るうように右手を鳴らし、にやりと笑う彼女に、アマ研は黙って頷いた。

 そこへ、もう一通の

 メッセージが届く。

 《送信者 愛琉 -meru-》 

「ひとりじゃまた死ぬだけじゃん?  マジで無理~。次は一緒に

 動こーね、マジ共闘

 お願いしまあす★」

 愛琉 -meru-からの、ギャル語全開の文面。しかし、その裏には確かに本気と焦りが宿っていた。アマ研は即座に了承を返す。

 三人は再合流を果たし、

 仮拠点へと向かう。

 そこに着いた瞬間、それぞれがスキルガチャチケットを使用する。表示されたスキル群から、アマ研が引き当てたのは

 戦場予測:現在位置から敵リスナー数を可視化戦術転写:任意のリスナー構成から、30秒間限定でスキルを模倣


 すぅしぃは斬撃範囲拡張とMP自動回復の組み合わせ。愛琉は火属性バフ付きの爆発スキルに、ギャル風のエフェクト演出を引き当てた。

「このスキル、エフェクト

 めっちゃ映えるじゃん★ 

 リスナーぜってー付くし」

 三人は笑い合い、

 確かな手応えを感じていた。

 アマ研は最後に、静かに呟く。

「次は、リスナーを勝ち取る。

 デイリーミッション、

 配信者15人累計30分観察。

 そして、1日一殺……」

「おうよ、やってやらあ! 

 今日からはアタシらの出番だよ!」

 再構築された小さなチーム。再び降り立った三人。今や敵ではない、推し活中の神楽。クラウド上で練り上げた戦略。

 すべては整った。

 ここから先は、奪う側ではない。選ばれる側になるために。

 三人は、再び世界の頂を目指して歩き出す。

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