第2話《コラボは血とギフトの味》
ビル群を飛び跳ねながら、アマ研は視界のマーカーを追っていた。視界のHUDにはちらつく配信コメント、ギフト通知、そして「接近中:コラボ参加」のアラート。
着地した廃ビルの屋上で、その存在は舞っていた。
いや正確には、「踊りながら誰かを斬っていた」。
廃ビルの屋上に、血の雨が舞っていた。
金切り音とともに斬り裂かれるボディ。
画面の端に「視聴者数+80」と表示され、ギフトアイテムが空から雨のように降ってくる。爆竹、風船、回復薬
「っ、うわ……」
アマ研はその光景を見て、一歩引いた。
絶対に勝てない、と直感が叫ぶ。
だがその瞬間、アマ研の足元に宝箱が出現し、虹色に光って弾ける。
> 「配信ギフト:加速剤ブースター獲得」
『突然死なれたらつまんないからな』脳内にコメントが流れて来る。
拾った瞬間、足に火がついたような加速感が全身を駆け巡る。
──その時、カナリオがこちらを見た。
「誰? 新規さん? ……まあいいや」
カナリオは女だった。
顔にはピエロのようなメイク、ギラついた目。
両手には鎖付きの扇子を携え、しなやかに体をくねらせながら距離を詰めてくる。
「初配信? ならコラボ、しよっか♡」
次の瞬間、カナリオが跳んだ。
バシュッ!
扇子から刃が放たれ、空気を裂いた。
斬撃がアマ研の学生服に吸い込まれる。
肺に息を送れないほどの激痛。
だが服は破れず、耐えきった。
(……この服、ただの学生服じゃない)
そう思考した直後には、もう動いていた。
「ちょっとだけ、見せてよ。初配信者のスキル」
カナリオの挑発に、アマ研は叫んだ。
「スキル使用:鑑定!」
視界に、カナリオの情報が一瞬だけ浮かび上がる。
> ■カナリオ
> ・スキル①:《バイブス・ブレード》
> 扇子で踊るたび斬撃を生む。ステージ演出が激しいほど威力上昇。
> ・スキル②:《サイコバフ》
> 精神不安定時、全ステータス+20%。視聴者が笑うたびHP回復。
(くそ、バケモンじゃねぇか……)
笑われるほど強くなり、踊るほど切れる。
そして今、カナリオは完全に「ノッてる」。
アマ研は決断する。
「スキル使用:モノマネ!」
紫電が全身を駆け抜ける。
一瞬、カナリオと同じ斬撃がアマ研の手に宿った。
「へぇ……やるじゃん。でもね──」
カナリオが笑う。
その瞬間、空からギフトが降り注ぐ。
爆竹型、風船型、回復アイテム──そして、地雷。
ドンッ!!!
爆風が視界を焼いた。
アマ研の身体が吹き飛び、壁を一枚貫通する。
肺から血が逆流し、口から吐き出す。
画面に「視聴者爆増中」の通知。コメント欄が笑いで埋まる。
> 『うわwww飛んだwww』
> 『配信向いてねーな新人w』
> 『やっぱカナリオ様つえー!』
アマ研は血まみれのまま、立ち上がる。
学生服についた血が、生地に吸い込まれていく。
その血の分だけ、体力が回復するのを感じる。
「……舐めんな」
右手の日本刀を構え直す。
足元に落ちたギフト瞬間硬化バリアを拾う。
「スキル・モノマネ《バイブス・ブレード》再展開!」
全身から斬撃がほとばしる。
「いっけえええぇっっ!!」
アマ研の一閃が、空間を切り裂く。
カナリオの扇子と、アマ研の刀が交差した。
ギギィン!!
重低音と火花。
斬撃と笑い声が、画面いっぱいに広がっていく。
アマ研は、一瞬だけ視聴者の笑い声とフォロー音を"力"として感じた。
カナリオの目が見開かれる。
その刹那、アマ研の日本刀が真横から振り抜かれた。
ザンッッ!!
カナリオの胴が、真っ二つになる。
上半身がゆっくりと落ちていき、踊るように崩れた。
笑い声が止み、画面が真っ赤に染まった。
> 「コラボ成功:カナリオをキルしました」
> 「フォロワー+18」
> 「初配信ボーナス達成」
アマ研は、返り血を浴びたまま刀を収めた。
血は服に吸収され、自らの力が確かに増していくのを感じる。
『おつおつ』
コメントとともに、頭上からの音声が脳内に届いた。
「……やるじゃねえか相棒。次は俺を頼らせてやってもいいぞ」
アマ研は、深く息を吐いた。
「……こういうゲームなんだな。これが」
配信はまだ終わらない。
どこかで、また新しい配信者がログインした。
空から、新たなギフトが降ってくる。