表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/89

第二十七話《雲の上から、次の一手を》

 クラウドの海は今日も静かだった。風は吹かず、音もない。だが、アマ研の思考は止まらなかった。

 身体はない。熱も痛みも感じない。けれど、思考だけは生きている。無限に広がる視界から、リアリティズムの戦場を俯瞰する。そこには、今も戦い続ける者たちの姿があった。

 神楽討伐イベント、最前線。推した三名

 チルバニアファミリーの令嬢

 水縹雨音

 ブッダちゃまこの選択は、正解だった。

 ブッダちゃまは死んだ。だが、貢献度は確かに刻まれている。あの一閃は、神楽の心に決定的な揺らぎを残した。生死を超えた一撃。意味がある。必ず、意味を持つ。

 そして、水縹と令嬢は生存中。両者ともダメージを受けつつも、戦線を離れていない。さらに確認できたのは、すぅしぃが水縹にイイネを送り続けていたログ。なぎ店長とむうあは、トガ梵天にコメントを送っていた記録もある。

(……全員、生きてる。しかも、全員推しとして誰かを支えてる)

 つまり、彼らもクラウド上にいる。自分と同じように、次の復活を信じて待っている。

 それならば

 復活した時の立ち回りが全てだ。

 クラウド視点から、アマ研は戦場全体をズームアウトした。神楽討伐後の再編成、派閥構図、各エリアの勢力図、リスナーの流動分布。それらすべてを、脳内で並列処理する。

 今は、乱戦後の空白期間に入る直前。復活のタイミングは明朝

 最速であれば数時間後。全員が横一線に並ぶ最初のタイミングを、どう生きるか。

 闇雲に戦っても、自分より強いプレイヤーは山ほどいる。真正面からぶつかっても、勝ち目は薄い。

 ならば、狙うのは一点。

 初動の新規狩り

 リスナー0人の新規登録配信者を、先に狩る。

 リスナー数の奪い合いは最初の5分で決まる。一人でも倒せば、

 観戦していたリスナーが

 流れてくる。さらに、

 復活直後はリスナー補正が強く出るため、イイネ効率も高い。

「全員が本気なら、こっちはそれ以上をやるしかねぇ……」

 だが、ただの狩りではない。生き延びるだけじゃない。

 次は勝つ。復活後は、戦力・仲間・情報のすべてを持って押し上げる。

 手札は揃っている。

 ・すぅしぃは水縹を推している。・なぎ店長とむうあはトガ梵天。・自分は令嬢と水縹、そして消えたブッダちゃまを見てきた。

 全員に共通するのは討神イベントへの高い貢献度。

(つまり、全員が復活できる)

 あとは、それをどうまとめるかだ。寄せ集めの仲間ではない。かつての“チーム”を、別の形でもう一度立ち上げる。そのために必要な動きは、全てシミュレーションしておく。

 アマ研は、クラウドから見える小さなエリア

 誰も使っていない旧リスナーバフ地点に目をやった。周囲はすでに勢力争いで手薄になっている。誰も気づいていない盲点。

「……俺の陣は、あそこに張る」

 復活したその瞬間に、そこを占拠し、拠点化。即席でもいい。最初の5分で強さを見せつける。勝利を演出し、リスナーを惹きつける。

 アマ研の戦略が、脳内で数万回シミュレートされていく。

 そしてその時、画面の隅で、そっとイイネの通知が光った。

(……今の俺に、イイネを送ってくれる奴がいる)

 過去ログ。自分の死の瞬間、あるいは最後の叫びに、誰かが反応してくれた。その小さな光は、虚無の中にあって唯一、まだ生きていていいと許された証だった。

「……必ず、還る。配信者として……仲間のところに」

 雲の向こうに、薄く朝日が差し始める。魂の鼓動が、再び戦場を夢見る。

 それが、アマ研の次の一手だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ