第十九話《滅殺演舞:神楽の夜に命は舞う》
夜の帳が落ちたかのような異様な沈黙
その静寂を、死神の一閃が引き裂いた。
「……っ!」
黒く歪んだ鎌が腰の位置からフルスイングされるだけで、周囲の空気が千切れる。
八人の配信者が、音もなく血霧となって散った。
地面に落ちたスマートフォンだけが、光を放ちながら虚しく震える。
「……殺気が、段違いだ……!」
アマ研が後方で呻くのを背に、フェンリルが雄叫びとともに変貌する。
「アマ研……どぅにかして逃げろッ!」
牙を剥き、筋肉が倍化し、巨体となったフェンリルが突撃する
だが。
「遅いのう」
ただ一言、琴吹神楽が扇を軽く振る。
その瞬間、空間が歪んだ。
重力を無視するかのような赤黒い螺旋がフェンリルを一閃の光で呑み込む。
次の瞬間、巨体が四散する。
骨も肉も、塵のように解かれた。
フェンリル、戦闘不能(死亡)
「くっそ……!」
次に動いたのはすぅしぃだった。
「食らいなァッ! 特上大トロ十貫一斉投げ!!」
彼女の両腕が閃光のように握り、弾丸の如き寿司を次々と射出していく。
しかし、その瞬間。
「甘いのよぉ……?」
気づけばいつの間にか、背後にいた悪霊の爪がすぅしぃの胸を貫いていた。
「……え、なんで……?」
寿司が空中で弾け飛び、
すぅしぃは血を吐きながら膝をつき、倒れる。
すぅしぃ、戦闘不能(死亡)
「――ふざけやがってッ!!」
叫んだのはなぎ店長。
ポケットから《魔王》の瓶を取り出し、指を弾いて栓を飛ばす。
だが。
「酒とは……妾の愉しみじゃ」
琴吹神楽が、そこにいつの間にか立っていた。
その右手が、瓶を奪い取った瞬間
ズバァアァッ!!!
何が起きたかわからぬまま、
なぎ店長の胴が斜めに裂ける。
肋骨、内臓、血管が斬撃の余韻と共に崩れる。
彼女は言葉を発する暇もなく、真っ赤な花弁のように散った。
なぎ店長、戦闘不能(死亡)
「……おい、冗談だろ……」
moorは、震える手で石を拾い、歯を食いしばる。
「せめて一発、あんたに……!!」
石を投げた瞬間、
琴吹神楽の眷属「東雷門黒夜」が現れ、その腹を拳で抉った。
石は神楽に命中すらせず、むうぁは血を吐きながら背中から崩れ落ちる。
むうぁ、戦闘不能(死亡)
アマ研、残される。
「……あんたが、琴吹神楽か」
そう言いながら、
《モノマネ》を発動
その瞬間。
右目がバァン!!と破裂する。
「ぐああああああっ!!」
脳内に火花が散り、視界が血に染まる。
だが、それと同時に身体の中を異質なエネルギーが満たす。
「なるほど……神楽の力……使いこなせれば……!」
片目を潰されながらも、アマ研はその場に狐火の構えを取る。
神楽は、その様子に興味深そうに目を細めた。
「……妾の力を映すとは……やはり、異才よな。されど」
先に放つ!
アマ研の口元に血が滲む。
全身の魔力を一点に凝縮し、
巨大な狐火の球を神楽に向けて放つ。
ドォォォォオン!!!!
轟音と共に爆発が起きる
神楽の左腕が焼け爛れる。
「……なるほど。確かに妾の力。されど……」
次の瞬間。
神楽の唇が、静かに開いた。
「未熟なれば見苦しい」
刹那、地面が裂ける。
視認不能の斬撃がアマ研の右腕を断ち切り、そのまま身体ごと貫く。
肋骨が折れ、肺が潰れ、喉が詰まる。
倒れる瞬間、神楽がそっと彼に囁いた。
「汝、妾を愉しませた。褒美に、地獄にて名を残すがよい……」
アマ研、戦闘不能(死亡)
その場に立つのは琴吹神楽と、眷属たち。
死神の鎌が、なおも宙を舞い、血の夜を終わらせる気配すらない。