第十八話《【禁忌領域:運営室】バグか神か、それとも因果の化身か》
場所は、リアリティズム開発・運営中枢。防音加工された巨大なガラスルームの中で、現実世界と接続された運営陣が悲鳴混じりに走り回っていた。
「ログが読めない!文字コードが全崩壊してる!」「琴吹神楽!?このIDどこから入った!?」「待て、座標変動……いや、システムルールそのものが捻じ曲げられてるッ!?」
大混乱。
まさしく、異常。
なぜなら琴吹神楽は、データ上に存在していない。
「このゲーム、ベータテストすらしてなかったはずだろ!?」「それが仇になったんだよ!だから言ったろ、政治絡みで無理にローンチ日決めるなって!」
運営室の片隅には、一際異質な存在
“インコ真理教”本部からの視察者たちが、無言で座っていた。
その教団は、かつてただの新興宗教だった。
だが、バーチャル空間で「魂の再構築と転生」「霊的進化の段階測定」「輪廻トライ&エラー」といった実験的スピリチュアルAI研究に莫大な資金と人員を投じて以来
今や、政治・経済・司法すら水面下で制圧する“神格政教連合”と化していた。
リアリティズムとは元々、自衛隊の戦術訓練メタバースとして研究されていたが、インコ真理教がその技術を買収・改造し、「魂の定量化」「霊位のランク制度」「カルマ値のビジュアル化」などを組み込んだ結果
プレイヤーの死と生すら、学習素材にする狂気のシステムが誕生した。
「琴吹神楽……恐山封印群コードから割り出した名称。
我々も過去に一度だけ、土地神がシステムに干渉した記録があるが……完全に格上だ」
「妖怪じゃない。あれは“因果”そのものだ。記録上の概念コードすらバグる」
開発チーフが青ざめた声で警告を鳴らす。
「このままじゃ……今まで魂ポイントを稼いだ全ユーザーの霊的構造が破壊される!魂の保存領域もすでに3割が侵食済みだ!」
インコ真理教の幹部はただ一言、呟く。
「やり直せばよい。魂は無限。壊れるのは……物質と記録だけだ」
ゲームではない。
これは
“魂の管理プログラム”輪廻実験と神格シミュレーションの場だったはずだ。
だが今や、その器が崩れ去ろうとしている。
「いいか、最悪の想定をするぞ」
「このまま琴吹神楽が“サーバーそのものの主”になったら……」
「“魂ログ”全消去だ。」
運営の誰もが息を呑んだ。
そして、一人が小さくつぶやいた。
「これって……ゲームオーバーってレベルじゃねぇだろ……」