第十六話《【イレギュラー参戦】封印解除、妖のスマホデビュー》
恐山
かつて封じられし、日本最古の妖が、静かに目を覚ました。
その名を、
琴吹神楽
安倍晴明によって幾重にも封印され、幾千年を経てなお完全には滅びぬその存在。かつての力の大半を失いながらも全ての本質を見通す千里眼は健在
彼女の白い指が、拾ったばかりのスマートフォンを優雅に撫でる。
画面には、ひとつのアプリが表示されていた。
《リアリティズム》
中身は
配信者たちがスキルと命を賭けて戦う、欲望と狂気のオンライン・デスゲーム。
「おもしろうございますこと……。これほどまでに戯れても、どなた様も封じには参りますまいねぇ?」
彼女の額に刻まれた魔紋が、かすかに赤く光を放った。わずかに残る霊力が、地脈と共鳴し、急速に彼女の体内へと巡っていく。
ゲームに参加その瞬間、霧が巻き起こるように周囲の空気が歪んだ。
世界が、震えた。
サーバーは高負荷を検出し、緊急アラートが何度も点滅。本来の管理AIさえ、彼女の存在の“概念”を捉えきれず、処理が一時的に停止する。
イレギュラー。絶対的な“異物”。世界の常識そのものを歪める妖。
かつて帝を呪殺しかけ、
山を血に染め、
百鬼夜行を率いた大妖怪
琴吹神楽は、現代の仮想空間にて、再び遊びを始める。
「よろしゅうござんす。あなた様方の現実とやら、ちいとばかし拝見させていただきとう存じますわ」
その声は、やさしく。だが、空間を捻じ曲げる力を内包していた。
その頃。
アマ研たちは、仮設拠点のLルームで深い眠りに落ちていた。疲れ切った身体を預けるには、あまりにも静かで、心地よい夜。
「…………Zzz……むにゃ……酒足りねぇ……」
「だょだょ……カツオぶし食べ放題……」
「アタシはトロ派……回ってないのしか握らねえ……」
個性的な寝言が飛び交い
無防備な寝息が重なる室内。
だが知らぬ間に、ゲーム全体がその均衡を失い始めていた。
化け物だらけの世界に、本物の“化け物”が、とうとう足を踏み入れたのだった。
夜は、まだ終わらない。