表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/89

第十五話《【殺し合いのインターバル】仮眠と補給の拠点にて》

 東北の仮設拠点。それは、戦場という名の荒野の中にぽっかり空いた、束の間の安全地帯だった。

 簡易な防壁と、立て付けの悪そうな鉄製ゲート。周囲を取り囲むのは、迷彩色に染められたパネル型のバリケードとセンサー塔。「仮設」と呼ばれるに相応しい臨時感だが、それでも確かに“秩序”があった。

 アマ研たち四人が案内されたのは、「Lサイズルーム」。一人ひとりの生活スペースが確保されているチーム用の区画で、全員が思い思いに家具データを呼び出して設置を始める。

「ちゃぶ台に座椅子……やっぱりこれが落ち着くわ」

 なぎ店長は即座に昭和テイストな和室風を再現し、すぅしぃは寿司カウンターと木箱を並べ、いつでも仕込みができるスタイルを作っていた。

「私は……えっと、猫耳まくらと、猫柄の座布団と……これ、カツオ節の香りがするやつだょだょ……」

 moorはほとんど寝落ちしかけながら、自分だけの空間を整えていく。

 アマ研はシンプルに、木製ベッドとロッカー、そして壁に掛けた自分の愛刀だけを選んだ。

 しばらくして、部屋全体の照明がやや落ち着いたトーンに変わり、扉が施錠される。それが、ここが仮眠可能なエリアだと告げる合図だった。

「……マジで、この数日ぶりのちゃんとした天井だな」

 アマ研がつぶやくと、なぎ店長が苦笑しながら横になった。

「ま、安堵ってほどじゃないけど……死体を枕に寝るよりマシだわ」

 この仮設拠点には、いくつかの重要なルールがある。

 * 拠点を中心に半径2キロ以内は非戦闘エリア。

 * 外部から敵対的勢力が侵入した場合は、居住者全員が迎撃に参加。

 * 拠点内では、基本的に戦闘は禁止(例外イベント発生時)。

 * 最低限の一日一殺は、非戦闘エリア外で行う。

 表向きは平和。だが、その裏では日々誰かが殺され、誰かが生き残っている。「非好戦的」とされるビギナーたちがこの拠点に身を寄せているのは、あくまで“今はまだ”戦いたくないという意思表示に過ぎない。

 誰もが、「一日一殺」をこなさねばならないのだ。

「……明日から情報収集だ。どうせこの辺には、俺たちが知らねぇ勢力の影がいくつもある」

 アマ研がそう言うと、すぅしぃが寿司桶の上に腰かけながらあごをしゃくる。

「なーに、隠してる奴らなんざ、探し出して煮るなり焼くなり寿司にしてやりゃいいんだ」

 moorは座布団の上でくるくると転がってから、軽く手を振った。

「おやすみ〜だょだょ……」

 なぎ店長は黙って酒瓶を抱えたまま、そのまま横になって目を閉じる。

 仮設の天井の下、バラバラだった四人が今は同じ空間にいる。チームと呼ぶにはまだ早いかもしれない。けれど同じ明日を生き延びようとしている仲間には違いなかった。

 戦場には、珍しく静かな夜だった。一日一殺の世界で、唯一許された仮眠の時間。

 眠る者だけが、次の日を迎えられる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ