第十五話《【殺し合いのインターバル】仮眠と補給の拠点にて》
東北の仮設拠点。それは、戦場という名の荒野の中にぽっかり空いた、束の間の安全地帯だった。
簡易な防壁と、立て付けの悪そうな鉄製ゲート。周囲を取り囲むのは、迷彩色に染められたパネル型のバリケードとセンサー塔。「仮設」と呼ばれるに相応しい臨時感だが、それでも確かに“秩序”があった。
アマ研たち四人が案内されたのは、「Lサイズルーム」。一人ひとりの生活スペースが確保されているチーム用の区画で、全員が思い思いに家具データを呼び出して設置を始める。
「ちゃぶ台に座椅子……やっぱりこれが落ち着くわ」
なぎ店長は即座に昭和テイストな和室風を再現し、すぅしぃは寿司カウンターと木箱を並べ、いつでも仕込みができるスタイルを作っていた。
「私は……えっと、猫耳まくらと、猫柄の座布団と……これ、カツオ節の香りがするやつだょだょ……」
moorはほとんど寝落ちしかけながら、自分だけの空間を整えていく。
アマ研はシンプルに、木製ベッドとロッカー、そして壁に掛けた自分の愛刀だけを選んだ。
しばらくして、部屋全体の照明がやや落ち着いたトーンに変わり、扉が施錠される。それが、ここが仮眠可能なエリアだと告げる合図だった。
「……マジで、この数日ぶりのちゃんとした天井だな」
アマ研がつぶやくと、なぎ店長が苦笑しながら横になった。
「ま、安堵ってほどじゃないけど……死体を枕に寝るよりマシだわ」
この仮設拠点には、いくつかの重要なルールがある。
* 拠点を中心に半径2キロ以内は非戦闘エリア。
* 外部から敵対的勢力が侵入した場合は、居住者全員が迎撃に参加。
* 拠点内では、基本的に戦闘は禁止(例外イベント発生時)。
* 最低限の一日一殺は、非戦闘エリア外で行う。
表向きは平和。だが、その裏では日々誰かが殺され、誰かが生き残っている。「非好戦的」とされるビギナーたちがこの拠点に身を寄せているのは、あくまで“今はまだ”戦いたくないという意思表示に過ぎない。
誰もが、「一日一殺」をこなさねばならないのだ。
「……明日から情報収集だ。どうせこの辺には、俺たちが知らねぇ勢力の影がいくつもある」
アマ研がそう言うと、すぅしぃが寿司桶の上に腰かけながらあごをしゃくる。
「なーに、隠してる奴らなんざ、探し出して煮るなり焼くなり寿司にしてやりゃいいんだ」
moorは座布団の上でくるくると転がってから、軽く手を振った。
「おやすみ〜だょだょ……」
なぎ店長は黙って酒瓶を抱えたまま、そのまま横になって目を閉じる。
仮設の天井の下、バラバラだった四人が今は同じ空間にいる。チームと呼ぶにはまだ早いかもしれない。けれど同じ明日を生き延びようとしている仲間には違いなかった。
戦場には、珍しく静かな夜だった。一日一殺の世界で、唯一許された仮眠の時間。
眠る者だけが、次の日を迎えられる。