表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/89

第十三話《【赤貝一閃】狐火とストラディバリウス》

「売られた喧嘩は、買うのが江戸前だよォ」


 すぅしぃが腰をひねった瞬間、手に握っていた赤貝が音を置き去りにして飛ぶ。


 空気を裂いた一撃それを、トガ梵天はまるで初めから見えていたかのように、顔色ひとつ変えず。


 ふわりと衣が舞う。


 次の瞬間、彼女の身体は九尾の姿へと変貌していた。


 灰銀の体毛、うねる九本の尾。そして、その口が、飛来した赤貝をパクリと一口で噛み砕いた。


「やはり、美味いな。塩と酢加減も悪くない」


 九尾の瞳がすぅしぃを見据える。


「お前、うちの専属料理人になれ。他は要らない。……殺すか、連れてくか、選べ」


「料理人?あたしゃ職人気質だよ。下に就く気なんざ、毛頭ねぇ」


 すぅしぃがねじり鉢巻きを巻いた。


 殺気が、場を覆った瞬間。


 アマ研の体が光を纏う。


「モノマネ、九尾」


 変身。狐耳、尾、そして全身から迸る炎の気配。


 互いに理解している。

 最大級の狐火を先に撃った方が、勝つ。


「すぅしぃ、なぎ店長、構えろ。始まるぞ」


 なぎ店長は無言でテキーラを煽る。

 その背に、無数の酒気が立ち上り、空気を軋ませる。


「一気に、潰すぜ……」


 さらに、九尾トガ梵天の背後、春野はなの影から人狼の咆哮が響く。


 刹那は目を光らせ、足の踏み込みだけで地面にひびが走る。


 栗坊はうるさく喋っている。


 戦争の秒読みかと思われたその時だった。


「ちょっと、待ちなさいな!」


 全員が一斉に身構える。

 が、誰もその声の主が近づいていたことに気づかなかった。


 横から、音もなく差し込んできたのは


 チルバニアファミリー。

 頭にはいつものハムスター、仁王立ちの令嬢。そしてその隣には、ストラディバリウスを構えたBeyond。


 バイオリンの弓先がトガ梵天に向けられた瞬間、彼女の姿が九尾から人間の姿に戻る。


「チルバニアの関係者か……」


 緊張が、僅かに緩む。


「さっきの赤貝に免じて、今回は引いてやる」


 トガ梵天がくるりと振り返る。

 九本の尾は既に霧のように消えていた。


「この辺りは……私たち《九封会》の縄張りだ」


 トガの声は静かだが、言葉には確かな殺意があった。


「いくらチルバニアでも、騒がしすぎるとぶっ殺す。覚えとけ」


 空気が張り詰める。


 だが、チルバニアファミリーは冷静だった。


「殺し合うのは構いませんけど……有望な新人を無駄に減らすのは、ワタクシたちの本意ではありませんの」


「なら、手打ちだ。どうせ、いつか殺し合う。

 今日じゃなくてもいい」


 トガ梵天は背を向ける。

 春野はなと刹那もそれに続く。

 栗坊だけが「やだ〜まだ喋り足りないよぉ〜」と騒いでいたが、引きずられていった。


 嵐が去ったような静寂が残る。


 アマ研たちはその場に立ち尽くし


 やがて、互いに顔を見合わせる。


「……巻き込まれて死ぬとこだっただょだょ」


「もう飲ませろ……」


「ったく、寿司が冷めちまったよ……!」


 戦いは回避された。だが確信する。


 次回の邂逅で、戦闘になると。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ