プロローグ ログイン・リアリティズム
スマホに表示されたアプリのアイコンは、どこか歪んだ笑顔のマスクだった。
「リアリティズム」そう名乗るその配信アプリを、アマ研は何気なくインストールした。ただの新興配信サービスかと思った。AI生成のアバターで雑談して、ちょっとバズって、飽きたら削除。それだけのはずだった。
けれど。
インストールが完了した瞬間、視界が崩れた。指先が透けていく。皮膚がデータの粒になり、骨が消える。意識は引きずられるようにスマホの向こう側へ。
目を開けると、そこは仮想でも夢でもなかった。
それは新たな肉体ポリゴンで組まれた3Dの身体。表情はリアルで、動作は滑らか。だが、現実とは明らかに違う法則で成り立った異形の空間。
アマ研は、ログインしたのだ。配信サイト《リアリティズム》という、名ばかりの楽園へ。
「ようこそ、プレイヤー・アマ研」
頭上に浮かぶシステムボイスが告げる。
「今日からあなたは、戦う配信者となりました」
その瞬間、遠くで叫び声が響いた。カメラ越しに切り裂かれ、消滅する誰かの姿。仮想空間にこだまする断末魔。獲得リスナー数、急上昇。
死は、コンテンツ。殺しは、盛り上がり。
《リアリティズム》それは、配信を生き延びるか、殺してバズるか。
生半可なネタでは視聴者は得られない。
この世界では、コラボとは共演ではなく、狩りなのだ。
アマ研の視界に、最初の指令が表示される。
> 「初回配信開始まで 00:04:59」
> 「初期スキル:『コラボキル』解放済」
> 「最寄の配信者 カナリオ/配信者ランクD」
心がざわつく。震えは恐怖か、あるいは興奮か。
もう戻れない。ならば、やるしかない。
スマホひとつで始まった、地獄のライバー戦争。
次に殺されるのは、誰だ?