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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

朗読用文章:魔道具を作る男と鍋と

作者: Eicy

※朗読用や練習用の書き物なので比較的簡素な物語構成です。ご注意ください。

※結構短めです。


これは遙か、遠い遠い世界の、むかしむかしのお話。



とある街のとあるお店で魔道具と呼ばれる特別な道具を作り、売っている男がいました。


魔道具とは、まるで魔法のような凄い道具や魔法のように便利な道具の事を言うのですが、その男が作る魔道具には本物の魔法が宿っていました。



男の作る道具は、効果は本物なのですが高くてとても買えたものではありません。

見た目も良くなくて、その上接客の態度も悪く、その男の客と言えるのは近くに住む知り合いの女の子くらいでした。

そんな女の子も、穴の空いた鍋や壊れた家具の修理などを依頼しに来るだけでした。



今日もまた女の子からお願いされていた鍋の修理をしていました。

魔道具師の男は言いました。

「こんな古いものを使い続けないで新しく買ってくれれば楽なんだけどな?」


それに対して女の子は言いました。

「まだ使えるでしょ? 物は大事に使い続けなさいってお母さんに言われてるんだ!」


魔道具師の男はそんな元気な女の子のことが少し苦手でしたが、数少ないお客さんなので目を背けながら渋々修理の手を進めました。

そしてため息混じりに言いました。

「良くもまぁ、こんなにしょっちゅう穴を空けることができるもんだ」


女の子は少し苦笑いをしながら

「沢山、沢山料理を作らないといけないから」

と、少し弱い声で言いました。


魔道具師の男は何も言い返せず、女の子に直し終わった鍋を渡してお金を受け取りました。



そうしてまたしばらく静かな日々が過ぎていきました。


この魔道具師の男の店では無くても、魔道具店といえば高価で高級というのが当たり前の常識なのですが、ある日、そんな魔道具店の客としては珍しい少し貧しそうな格好をした目付きの悪い男の子がやってきました。


男の子は身の丈もありそうな大きな袋を引き摺っていました。


男の子はその袋を差し出しながら言いました。

「お金なら、沢山ある、だから、作って欲しい物が、あるんだ」


袋の中身は数え切れないほどのお金でした。

魔道具師の男はお金さえ貰えれば気にしないので、

男の子がその後に言った「この世界を救いたいんだ」という壮大な依頼内容も気にせず、要望通りの物を作りました。



それは、どんな魔物も楽に倒せて、力を吸収できる武器でした。


それは、攻撃を受けると装者は回復し、相手に同じだけの攻撃を跳ね返す防具でした。


魔道具師の男は、久しぶりに良い仕事ができたと、満足そうにしていましたが、一度作った物がその後どうなったかにはまるで興味がありませんでした。






そして、世界に魔王が生まれました。


それは魔道具を操り、人を殺して回り、国を潰して回る。


魔道具の王様であり、人類に仇をなす魔物の王様と、そう呼ばれていました。


魔王の通り道には何一つ残らず、いつしか世界の半分が消えてしまいました。



その頃には魔道具師の男が作った武器と防具であることが知れ渡っており、街で暮らしていると「お前のせいだ」と何度も殺されてしまいそうになったために、ひと気のない森で一人隠れるように暮らしていました。



自分が売った道具で、沢山の物が壊れされてしまいました。


自分の作り出した道具で、沢山の人が死んでしまいました。



魔道具師の男は、気が付けば魔道具が怖くなり、魔法の力が込められたものを作れなくなっていました。


そうして、いつしか世界の終わりも後1ヶ月もかからないだろうと言われていたころ、そんな元魔道具師の男の元に1人の女が訪れました。



男は言いました。

「誰だ、怪我したくなかったら帰れ」


女は言いました。

「お願いが、あるの」


男はカッとなり、怒気をはらませて言いました。

「なんだと? お願いだと? 俺を馬鹿にしているのか?」


女はそんな言葉が聞こえなかったかのようにこう続けました。

「このお鍋、また穴が空いてしまったの」


男はその言葉に驚き、

「なに、を!?」

とだけしか、言葉にできませんでした。


女は、そのお客さんは言いました。

「誰も直せないんだって、お兄さん以外」


男の口から、ぽつりと、言葉が零れていました。

「君は……」



男が顔を上げると、そこにいたのは記憶にある1人の女の子とはまるで違う雰囲気を持った、でもどこか懐かしさを覚える優しさと芯の強さを感じる綺麗な女の人でした。



「お鍋、直せそう?」


「今の俺には、無理だ…」


「じゃあ、1回壊しちゃおうか」


「お兄さんに直せないなら、きっともう誰にも直せない」

「だから壊して、作り直すの、このお鍋も、この世界も」


「私は、私は人が恐怖に脅えるだけのこんな世界が嫌い」

「だから、この世界を壊したい」


「みんながまた前を見て笑って過ごせる世界を作り直したい」


「だから、お願い」



女は、泣いていました。


男は、昔のように女から視線を外したかったのに、

最近ずっとそうしていたように下を向こうとしたのに、

その女の姿から目を離せませんでした。



いつしか降っていた雨の音だけが辺りに広がっていました。



そんな時間がどれほど続いたのか分からなくなってきた頃、男は苦しそうな声で言いました。

「あの魔王を何とかするって言うのか? あれは俺の最高傑作だ、勝てるわけが無い」


女は待っていましたと、飛びっきりの笑顔で、男のよく知っているいつもの笑顔で言いました。

「お兄さんのお仕事は完璧で、直してもらったところは全然穴が空かないんだ」

「でもお兄さんは、必要のないところではいつも手を抜くよね?」


「だって、毎回違うところに穴が空くの」


「ねぇ、魔王は、あの魔道具は、本当に完璧なの?」



男は、その言葉を聞いた途端に体が動き、気が付けば女の肩を掴んでいました。


男は頭の中でグルグル回る思考のままに言葉を漏らしました。

「いや、でも、だって、俺は、えっ、そうか、確かに、いや、そうなのか!?」


女はそんな魔道具師の男の姿を見て、クスリと笑いながら言いました。

「そうだよ、お兄さんはいつもそんな感じだった。だから落ち着いて、ちょっと、痛いよ」


男は慌てて女の肩を離しながら、確認するように言いました。

「すまない、鍋を、見せてくれないか?」


女は鍋を大事そうに撫でながら、男に向けて言いました。

「これが、私に残された最後の物で、あなたに渡せる唯一の物なの、お金、無くてごめんね」


男はこう返しました。

「十分だよ、ありがとう」



そうして、男の手の中には、男が魔道具師として生きてきた経験と、魔法と、欠点と、時間の全てがありました。



気が付けば雨はやんでいて、でも世界の終わりが近いことを示すかのような暗い空に向かって言いました。

「さぁ、仕事の時間だ」





そして、1ヶ月が過ぎました。



世界は崩れ落ちていき、人や物はほぼ消え去り、満身創痍で地面に座り込む男と、同じく満身創痍でも笑いながら力強く立つ女と、体の半分が塵となって消えかけている地面に倒れ込んだ男の3人だけが存在していました。


立っている女は言いました。

「やっと、だね」


座っている男は言いました。

「そう…だな。ここまで、来たんだな」


地面に横たわる男は言いました。

「今更、手遅れなんだよ、もう、全部、すぐに、終わる」


その言葉を聞いても、立っている女はまるで気にしていないかのように微笑みながら座っている男を見ました。

座っている男はその視線を受け、苦笑いをしながら口を開きました。

「いや、魔剣がこれまでに集めてきた全ての力を使えば、世界を、作り直すことができる」


立っている女はこう返しました。

「でもきっと、全部元通りとはいかないんだよね?」


座っている男はそれに対して少し悔しそうな声で言いました。

「……あぁ、きっと、消えていった人達や物は元通りになるが、これだけの力だ。近くにいる俺達はきっと全く違う場所、全く別の時間に飛ばされてしまうかもしれない」


女は、言いました。

「じゃあ、頑張らないとだね」


男はその言葉に困惑し、

「どういう…?」

とだけ、なんとか言葉にすることができました。


女は

「だって、わた」

とだけ、言葉にすることができました。




そして、世界は光に包まれました。





世界が産まれ直した日。


そこにはあの女の子はいませんでした。


それでも男は誰かのために魔道具を作り、誰かのために頑張り続けました。

魔道具師の男の腕は本物で、あっという間に有名になりました。

弟子も沢山でき、気付けば誰よりも有名な魔道具師になっていました。



毎日毎日素晴らしい魔道具を作り感謝される日々。


でも、魔道具師の男は何か物足りないものを感じていました。



けれど、そんな変わらない毎日は、ある日突然終わりを迎えました。



「やっと見つけた!」


入口から聞こえた元気いっぱいな声に振り返ると、手を引かれ楽しそうに笑いながら入店してくる少し目付きの悪い男の子と、嬉しそうに笑いながら入店してくる眩しい女の人がいました。



眩しい女の人は言いました。

「お願いがあります」



笑顔の似合う女の人は言いました。

「直して欲しい物があるんです」



芯の強さを感じる女の人は言いました。

「このお鍋、穴が空いちゃってて」



魔道具師の男がずっと忘れられずにいた女の人は言いました。

「でも、誰にも直せなくて」



魔道具師の男は、心臓の音が大き過ぎて上手く喋れませんでしたが、一言だけ言葉に出来ました。

「なん…で…」



魔道具師の男が好きな人は言いました。

「だって、私の一番笑って欲しい人が、まだ笑ってないから」


その時の素敵な顔を、きっと一生忘れることは無いだろうと、魔道具師の男は思ったのでした。




時代は変わり、のちの歴史書にはこんな文章が残されていました。


むかしむかしある所に、世界を救ったと言われる偉大なる魔道具師がいました。


その偉大なる魔道具師は言いました。

「俺は魔法使いじゃない、魔道具師だ」

「誰か想う心、誰かに言葉を伝える勇気、あれこそが本当の魔法だ」、と



おしまい

お読みいただきありがとうございました。

最終決戦までを書くと物凄く長くなりそうなので大胆にカットしてみました。悪く思わないでね…

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