番外編〜後編: 交錯する運命
満月が輝く夜の海辺に立つ詩恵は、静寂の中で波の音に耳を澄ませていた。彼女は景が釣りをしていた場所であるこの海辺にいるが、ここには彼の姿は見当たらない。詩恵の心は不安と焦燥でいっぱいだった。
智気と共に調査を続けていた詩恵は、景の釣り道具が残されていた場所を何度も確認し、周囲を歩き回った。しかし、どこにも景の痕跡は見つからなかった。
「景さん、どこに行ってしまったの?」詩恵は思わず呟いた。彼女の心の中で、景の安全を祈りながらも、現実の冷たさに打ちひしがれていた。
その時、月明かりに照らされた海面が突然、異様に静まり返るのを感じた。風が止まり、波が完全に収束する。詩恵はその異変に気づき、智気を見た。
「智気さん、見てください! 海が…」
智気もその変化に気づき、周囲を警戒しながらも詩恵の方に駆け寄った。「これが景さんが言ってた「鎮まる」ってやつかもしれません。」
詩恵はその瞬間、突然の眩しい光に包まれた。目の前に現れたのは、どこか異世界のような景色で、彼女は驚きと困惑の中で立ちすくんだ。
詩恵は異世界へと引き込まれる。見知らぬ世界に戸惑いながらも、景の存在を信じ、彼を見つけ出したい一心が燃えていた。
すると詩恵の目の前に見覚えのある姿を見つける。彼女の胸が高鳴り、歩みが早まる。そこにいたのは、長い間待ち望んでいた人物、景だった。
「景!」
詩恵は叫びながら景に駆け寄り、その胸に飛び込む。景は驚きと喜びが入り混じった表情で彼女を抱きしめ返す。
「詩恵…!お前がここに…」
景の声は震え、彼もまた涙を浮かべていた。二人はその場でしばらく言葉を交わすことなく、ただ抱き合っていた。互いの体温を感じることで、二人が本当に再び一緒になれたことを確かめていたのだ。
「景、もう二度と離れたくない…」
詩恵は彼の胸に顔を埋め、涙を流しながら言った。景もまた、彼女を失う恐怖を抱きしめることで和らげるように、しっかりと彼女を抱きしめた。
涙が乾き、感情が落ち着いた後、二人はお互いを見つめ合い、未来への決意を新たにする。手を取り合い、新しい世界での生活に向けて一歩を踏み出す。二人の絆は、今や誰にも壊せないほど強くなっていた。
月が高く輝く夜空の下、詩恵と景は再び一緒に歩き出し、新たな未来を切り開くための旅が始まった。