番外編〜中編「不安と手がかり」
翌朝、詩恵は未だ帰らない景を心配しながら、彼の釣り仲間や知り合いに連絡を取る決意を固めた。家を出た詩恵は、まず景のいつも釣りに行く場所に向かい、彼の知り合いである智気に会うために急いだ。智気の家は景の家からそれほど遠くなく、歩いてもすぐに着く距離にあった。
智気の家に到着すると、詩恵は緊張しながらもドアをノックした。しばらくして、智気がドアを開ける。
「詩恵さん、おはようございます。どうしました? 景がまだ帰ってないって?」
智気の目は驚きと心配でいっぱいだった。詩恵は頷きながら、焦りを隠せずに話し始めた。
「智気さん、景が昨日の夜から帰ってこないんです。いつもなら帰ってくる時間なのに、どうしても心配で…」
智気は顔をしかめ、詩恵の話を真剣に聞いた。詩恵の不安を理解し、すぐに協力することを決めた。
「分かりました。少し待っていてください。景さんが言ってたことを思い出しました。」
智気はすぐに部屋に戻り、景との釣りの記録を探し始めた。しばらくして、彼は手に持っていたメモを詩恵に差し出した。
「これです。景が釣りに行くときは、大潮の日が多かったんですよ、大きな魚が釣れる事が多いからって。しかも、よく言ってたんですよね、「この場所、時々妙に鎮まるんだよね、関門海峡だから潮が完全に止まることないのに」って。」
詩恵はその情報をもとに、景が釣りに行っていた日が大潮の日だったことに気づく。智気と共に景の釣り場に向かうことに決めた。
釣り場に着くと、風はほとんどなく、海の波も穏やかだった。満月が空に輝き、夜の静けさが一層際立っていた。詩恵は景の釣り道具が置かれていた場所に立ち尽くし、景が帰ってこなかった理由を考えた。
「景が言ってたことが本当に関係してるかもしれませんね…」
智気が詩恵の横に立ち、彼女の肩を軽く叩いた。「一緒に探してみましょう。何か手がかりが見つかるかもしれません。」
詩恵はその言葉に感謝し、二人は釣り場を丹念に調べ始めた。暗い中での探索は困難だったが、詩恵の心には一抹の希望が残っていた。
夜が深まるにつれて、詩恵の心の中で不安と希望が交錯した。景が帰ってこないことに対する恐怖と、何か手がかりを見つけられるかもしれないという希望が入り混じっていた。
智気とともに釣り場を調べながら、詩恵は心の中で景の顔を思い浮かべていた。彼が楽しんでいた釣りの風景や、笑顔が浮かんでくる。詩恵はそれが、景を探し続ける力になっていた。
「智気さん、もし景がここにいなかったら、どうするつもりですか?」
智気は一瞬考え込んでから答えた。「それは分からないけど、景さんが何か大きなことに巻き込まれているのかもしれません。できる限りのことはしてみますが、まずは手がかりを見つけることが大事です。」
詩恵はその言葉に頷き、再び調査を続けた。心の中で、景が無事であることを願いながら。