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ショートショート8月〜4回目

誰が犯人なのか?

作者: たかさば

‥‥大変痛ましい事件が勃発してしまった。


白昼堂々、毒物の混入による殺人未遂が起きたのは、8/11日の午前のことである。

被害者は、とある企業の第二企画部の部長。

土産物の饅頭を食べ、前後不覚となり、病院に緊急搬送された。


命に別状がなかった事だけは、幸いだ。

だがしかし、再びこのような事件が起きてしまっては、困る。


犯人を見つけ出し、二度と平和な企業ののどかな業務を阻害するようなことが無いよう、努めなければならない。




~事件のあらまし~


事件当日の朝、第二企画部ではいつものようにミーティングが行われた。

参加したのは、出勤者10名。


そこで、前日まで有休をとっていた経理事務が、土産物の饅頭を出した。

仕事中に自由に食べていいということになり、饅頭は企画部入り口横にあるケータリングコーナーに置かれることになった。


社員たちは各々のタイミングでまんじゅうを食べた。


11:00ごろ、被害者となった部長がまんじゅうを食べたところ、突如苦しみ出した。

デザイン長の的確な処理と指示ののち、部長は病院に搬送され事なきを得た。


犯人は不明。





~被疑者について~


この事件の犯人と成りうる人物は、以下の10名である。


部長:御前崎(被害者)

経理長:森田

経理事務:花山

事務員:清水

リーダー長:坪倉

デザイン長:小鹿野

企画営業:嶋

営業:加藤

企画:佐藤

IT:田中


被疑者の詳細は以下の通り。


・部長 御前崎

事件の被害者。

17個入りの饅頭の最後の1つを食べたところ、猛烈な吐き気と急激な血圧低下を起こし、救急車で緊急搬送されることになった。

最近仕事の都合で休暇を取ることができず、常々急病になってもいいから休みたいと口にしていた。

饅頭を1つ食べた(のちに吐き出した)。


・経理事務 花山

17個入りの饅頭を買ってきた人物。

ガサツな部長の尻拭いをいつもしており、いつか部長を締め上げてやると豪語していた。

梱包された状態の饅頭を第二企画部の出入り口にあるデスクの上に置いた人物。

饅頭は食べていない。


・リーダー長 坪倉

事件当日、毒物(30年前の昆虫採集セット)を持ち込んだ人物。

実家の蔵からお宝が出てきたと飲み会で口走ったところ、部長からしつこく譲ってくれという依頼を受け、当日の朝持ち込んでいた。譲るつもりはないがこれ見よがしに見せびらかしたところ、みっともない奪い合いが起きてしまい、事態を重く見た経理長に取り上げられて意気消沈していた。

饅頭を1つ食べている。


・デザイン長 小鹿野

事件当日、饅頭を一番たくさん食べた人物。

饅頭の包装を破り、中袋にハサミを入れた。

17個入りの饅頭を2つ食べられる人は7人いるが誰が二つ食べたかは誰も追及はしないだろうと踏み、足しげく饅頭の箱に忍び寄り、一人でたらふく食べた。


・経理長 森田

事件当日、毒物を管理していた人物。

リーダー長から取り上げた毒物を自身のロッカー内に持ち込んだ。

冷房の温度をすぐに18度に設定する部長に対し、並々ならぬ恨みを持っていた。

饅頭は食べていないが、1つもらってロッカーに入れておいた。


・事務員 清水

事件当日、経理長森田のロッカーを開けた人物。

借りていたBL本の束を押し込むために、昆虫採集セットを一時的に外に置いた。

饅頭を2つ食べた。


・企画営業 嶋

事件当日、前日に食べ放題でやんちゃをし過ぎてお腹をこわしており、頻繁に第二企画部の部屋を出入りした人物。

饅頭の前を何度も往復し、せりでた腹を饅頭の箱にぶつけてしまい床にぶちまけた。

饅頭を2つ食べた。


・営業 加藤

事件当日、ほぼほぼ自分のデスクから動かなかった人物。

防犯カメラのチェックと起動をする当番だったが、自分の仕事の進行状況が滞っており、うっかりスイッチを入れることを忘れていた。そのため、第二企画部の事件発生時の映像は一切残っていない。

饅頭は食べていない。


・企画 佐藤

事件当日、些細な事で付き合い始めたばかりの彼女:花山のもとに向かってはイチャイチャしていた人物。

前日に、部長から社会人なんだからもっと節度を持った行動をしろと厳しい言葉を浴びせられていた。

ケータリングコーナーにあるコーヒーサーバーの水のタンクを入れ替える時に手を滑らせてしまい、ロッカーに常備してあるスラックスに着替えることになった。

饅頭を2個食べた。


・IT 田中

事件当日、何食わぬ顔で自分の仕事に集中していた人物。

部長が倒れ込んで大さわぎをしていたのに、一切気にせずDM送付の仕事を続けていた。

スマホの昼休みのアラームが鳴ったのでトイレに行こうと立ち上がった時、部長がタンカにのせられていくことに気が付いた。

饅頭は食べていない。


※饅頭について※

半透明の和紙っぽい紙に包まれている。

穴の開いた紙は見つかっていない。

ミルク味とココア味とイチゴ味が五個づつ、マスクメロン味が二個あった。

味ごとに包み紙の色が違うが、中身は白っぽい饅頭で見分けがつかない。


※ロッカーについて※

上6つ、下6つの、長方形型のロッカー。

扉部分に使用者の名前が書かれている。

鍵はついていない。

ケータリングコーナーの机に向かって右方向に並んでいる。

ロッカーは壁と向かい合わせになっていて、誰かがロッカーを開けている時は扉部分が目隠しのような状態になる。一番奥の下段二つは未使用。

ロッカーの裏側にはスケジュール表と社訓、社長の激励のお言葉が貼られている。



~おおよその図面~


    廊下   廊下   廊下

┌入口────窓───窓───────┐

│   ケータリング   ロッカー  │

│                  │

│            応接セット │

│                  │

│     営業   企画      │

│   企画営業   リーダー長   │

│    事務員   デザイン長   │

│    経理長   経理事務    │

│ IT      部長        │

└───窓────窓────窓────┘





このおぞましい事件の真犯人は……






~解答編~


事件が起きたことで、昆虫採集セットというもっともらしい毒物の混入が疑われた。

だがしかし、30年前の昆虫採集セットの中に入っていたおかしな赤色と緑色の液体は、ただの色水でしかなかった。

そもそも、注射器の針の先端は尖っていない。柔らかい蝶の腹にすら刺さらないような、所詮尻の穴から薬液を混入するレベルのおもちゃである。


この日、第二企画部の面々が食べたのは、かなり相当甘ったるい、やや歯ごたえの残る皮の厚めの食感の饅頭だった。


部長が食べたのは、最後に一つだけ残されていた饅頭だった。

甘くもなく、辛くもなく、じゃりじゃりとしていて…おかしな味の饅頭だった。

なんだこれはと思いながら、抽出したばかりのアイスコーヒーで飲みこんだのだ。


違和感に気付きながらも、どうせ安い土産物なんてこんなもんだとたかをくくり。

売ってるものなんだから食べられる物なんだろう、吐き出すこともあるまいと飲みこんで。


そして、みるみる気分が悪くなって、倒れ込んだのである。


経理事務が購入した饅頭には、どこにも…じゃりじゃりの要素は含まれてはいない。

つまり、部長が食べたのは……土産物の饅頭ではなかったのだ!!!


饅頭が包まれていたのは、和紙っぽい包み紙だった。

デザイン長はたくさん食べた証拠を隠滅しようと…包み紙を捨てずに箱の中に置きっ放しにしていた。包み紙がわさわさしていれば、残りがいくつあるのかわかりにくくなるためだ。


几帳面な企画担当は、箱の中の包み紙を重ねておいて、あとでまとめて捨てようと考えた。


企画営業が腹でまんじゅうの箱を吹き飛ばした時、包み紙といくつかの饅頭が廊下にまで転がった。


「おいおい、まだ俺食べてないんだから、ちゃんと拾っといてよ?!」


部長の声を聞いて、企画営業は慌てた。

なぜならば、紙で軽く包んであるだけの饅頭が一つ、飛び出していたからである。

床に落ちたものだから、捨てた方がいいだろう。だがしかし、部長は仲間外れを嫌う…コミュニケーションを大切にしたいタイプの人物である。自分一人だけが食べられないと知ったら、また機嫌が悪くなってしまうであろうことは想像に容易い。


企画営業はそっとはだかの饅頭を紙に包み直して箱に戻し、床に落ちなかった饅頭を二つ食べて席に戻った。


食い意地の張ったデザイン長は、好みではないココア味を避けて饅頭を食べ続けた。

企画は経理事務のおすすめのイチゴ味をアーンしてもらって2つも食べた。


……そして、事件は起きてしまったのである。


部長が食べた饅頭、それは…ホウ酸団子だった。

社内にゴキブリが大量発生したため、クリーン事業部が急ピッチでこしらえて設置した逸品である。


たまたま、土産物の饅頭とほぼ変わらない大きさで。

たまたま、作りたてのホウ酸団子を置いた直後に、饅頭の箱がひっくり返って。

たまたま、饅頭にしか見えない状況になって。

たまたま、ホウ酸団子が饅頭と見比べられない状況になって。

たまたま、ガサツな部長がポイッと口に入れて、細かいことを気にせずに飲みこんで。


本部から【ビル内にホウ酸団子が置かれました、ご注意ください】という連絡の紙が回ってきた頃にはもう…部長は胃洗浄の真っただ中だったのだ。


偶然が重なり、おぞましい事件へと発展してしまった…この悲劇。


身を引き締めて、危険因子を遠ざけながら…平凡に毎日を過ごしていきたいものだ。


願わくば、こんな事がもう2度と起きませんよう……。


私は忌々しい団子を足蹴にしながら、カサコソと…、美味しいものがたくさんある商品開発室に向かうのだった。

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