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紅い月を求める

 久しぶりに街に出た。

 強い日差しを守るために出した日傘。

 月の光だけが有害なのに、自然と日光も怖がってしまう。

 マンションが並んでいて、私の横をサラリーマンが通りすぎる。

 本来ならば、私も通っていたのかと思うと、強い日差しに当たって、ハンカチで汗を拭うサラリーマンも羨ましく思った。

 高層マンションが並ぶ中、ひと際目立つ、マンションに着く。

 ⅠⅮ入りの社員証を首から下げる大勢の会社員が出入りする。

 その中に溶け込んでいる、さくらがこちらにやって来た。 

 私を見つけたさくら、可愛い顔で走って来て、私にハグをする。

 香水の匂いに混ざる紙の匂いとコーヒーの匂いが、会社に溶け込んでいることを証明する。

「でもどうしたの? りえから誘うなんて、珍しいから、雪でも降るかと思ったよ」

「それじゃ雪だるまでも作ろっか。そんな冗談を言ってるんじゃないの。最近、会えてなかったからさ」

「でも、電話してるよ」

 下を向く私の顔を覗き、少しにやにやしながら言った。

「会ってはいなかったから」

 少し恥ずかしくて、間を開けてしまい、恥ずかしいことがばれてしまう。

「ツンデレなんだから」

「言わせようとしてそんなことを聞いたでしょ」

「正解」

 さくらはこういうところがある。相手の痛いところをついて、本音を引き出す。

 だがそれが、さくらがモテる理由なんだろう。

 男が自分との距離感を勘違いして、イケると思ってしまう、さくらが仲の良い女子から小悪魔と言われているのも分かる。

「ごめんよ、こんな時間に」

「大丈夫、早めに出勤して、終わらせたから」

「ありがとうございます」

「ううん、りえが誘ってくれたから、早く終われた。こちらこそありがとう」

 ここにも、この子の良いところが詰まっている。この子は自然と、こういう言葉を出してくる。それがモテる所以なのかもしれない。

 私たちは近くのいかにも個人営業であろう喫茶店に入る。

 内装は落ち着いた木目入りが目立つ、木造建築で、BGMはピアノソナタ第14番。

 私はオレンジジュースを頼み、さくらは遅めの昼食として、オムライスを頼む。

 こういった個人営業の喫茶店は必ずオムライスがあり、当たりはずれは激しい。

「で、何があった? 恋バナ?」

 私は不意を突かれてしまい、出したこともない声を出してしまい、さくらが驚いた顔の後すぐ、いじり散らかそうとする顔でこちらを見る。

「もしかして、始まっちゃう? りえの青春」

「そんなことは起きません。別に私は始まらなくてもいいし」

「そんなこと言って、奥底にはその男ことを考えていたり、気になったりしてるんでしょ。例えば、彼女いるのかなって」

 また痛いところを突かれてしまったが、今回はバレないように、手で表情を隠す。

「顔を隠しても無駄だよ。足がバタバタしてるから」

 ふざけるな、そんなことはないだろうと、足を見ると、見事に足が上下に動いている。

 この速さだと、盗塁王も夢じゃない。

「で、どんな人?」

「いや、好きな人じゃないよ。だって、かっこよくもない、おしゃれでもない、お金を持ってそうでもなく、経験のない私でもわかる女子慣れしてない感じの人。ほら、全く好きになる要素ないでしょ」

「でもそんなところまで見てるんだったら好きでしょ」

「いや、ただ、デートに誘われたってだけ」

「あら、そんなところまで行ってるの」

「そんなところまで行かれたの!」

「羨ましい。遅れても良いから私にも春が来てほしいな」

「いつでも春でしょ、あんたは」

「いや、仕事があるから、遅れてくるの」

「来ることは確定してるのね」

「で、どこ行くの? 宇宙でも行っちゃう?」

「よりによって、月を見に行こって」

「ちょっと惜しい」

 さくらは数少ない私の病気を知っている人だ。だから、病気に関係することはさくらに話す。

「でもなんで? 月を」

「お互い、飛葉月影が好きで、だから出会ったていうか、なんていうか」

「いいな、いいな、お互い好きなもの同士、運命の出会い。まるで恋愛映画のようね」

「で、どうすればいい?」

「別の場所を提案すれば」

「えー、私から誘わないといけないの」

「当然、今の時代女から誘うってのもありだから」

「それじゃ宇宙にでも行こうかな」

 私は迷った。自分から誘おうかと。

 多分、彼に誘う勇気なんてないし、私だって、男でも女でも遊びに誘うタイプでもない。

 自分から、何かを誘うなんて、珍しいことだ。でも、彼と会うには私が勇気を出さないといけないのかと、頭がまた、彼の事で汚染されていく。

 誘うとしても誘う手段がなかった。

 電話番号もなく、メードアドレスの種類も何かもわからない、住所も知らない。

 でも、思い出す。彼が家の電話にかけていた事を。

 私はすぐ、弟の部屋に行き、ドアを行くと、すでに弟はクローゼットに入ろうとしていた。

「すいません、プリンを食べてしまいました」

「別にいいよ。でも、こないだのハンカチを持ってきてくれた人の電話番号を知ってる?」「知らないです」

「聞いてないの」

「すいません、聞いてないです」

「あんた、プリン食べたの!」

 彼の事でキレていることをバレないように、プリンの恨みと言って、私の心を隠す。

 そして数秒後、弟正広はクローゼットで伸びていた。

 もう一つの手がかりを見つける。

 展示会だ。

 彼はおそらく従業員で、あの場所に行けばいいのだ。

 だが、チケットを持っていなかった。

 広島会場は入れる人が少なく、私が持っていたチケットも使ってしまっていて、手元にはもうなかった。

 会えるとしたら、受付の人に顔や背格好と知っている下の名前を言い、連絡を取ってもらうことだが、私にはハードルが高かった。

 昔から人見知りで、お店の店員さんと話すのにも一苦労で、服を買おうと服屋に行くと必ず、若いおしゃれな人が話しかけてきて、「どういったものをお探しです?」

「普段、どういったもの着てますか?」

「こちらお似合いですよ」

「試着してみます?」

 服屋だけでも、こんなにもの、試練が待っている。

 今回は自分から話しかけて、質問して、この人探しているんですが、とこの人太陽さんを狙っているんじゃない、と馬鹿にされそうで誘うにも誘えない。

 こんなことが起きるなら、あの時に連絡先やインスタでも聞いておくべきだったし、何でもいいから連絡できる手段を聞いておくべきだった。

 ポケベルでも、最寄りの駅でも。

 受付の人ガチャもある。

 まず、性別でも変わってくる。

 男性だと一気に、レベルが上がって、それに同世代だと、相性が悪い、それに、イケメンで高身長だと、死に近い、男の人を探しているんですがと、言えるわけない。

 女性でも同様だ。

 一番の外れは、同世代、厚化粧、髪を下していて、いつも鏡を見ていそうな人は、ジエンド。

 こちらが恥ずかしくなってくる。

 こないだの受付の人は、不思議な人だった。

 優しそうな雰囲気で、気さくに話、どこか落ち着く感じだったが、飛葉月影に似ていた。

 顔採用なのでは、と疑うほどに。

 でも、誰がいいかと言われると、あの人だと思った。一度話してみてあの人だと、私を悪く思わないだろうと思ったから。

 悪いことを考えているうちに、会場の前に来てしまった。

 前来た時と同じで、人は少ない。

 入り口に入ってすぐに、受付がある。このガチャはとても緊張する。ドラフトで競合して、くじを引くときくらいの緊張感だ。

 入り口に足を踏み入れる。

 一本釣り、単独一位。

 私はルンルン気分で、彼女の方に向かい、彼女も私の事を待っていましたかのような笑顔を見せる。

 私はその笑顔を見て、全く緊張せず、少し高くした声で質問をした


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