7.それぞれの"魔法"
「「え……?」」
2人の声が重なる。
「ミミ、魔法って使えたっけ……?」
「いえ、私の記憶違いでなければ使えなかったはずですが」
「それはよくわかんない!いつの間にか使えるようになってた!」
ミミは映し出した画像の一部を拡大して、ソラリノに見せる。
「それよりもここっ!見て!」
拡大されたのは、あの時ミミが不審に思った場所。
それを見て、聡いソラリノたちはすぐに気づいたようだ。
「そういうことね……」
「この貨物車は浮遊しない型の列車。なのにそれを動かすのに必要なレールがない。よく気づきましたね。ミミ」
褒められて嬉しくなり、ミミはえっへんと胸を張る。
「そうね。これで、大公があの鉱山を運営している理由がわかったわ」
ソラリノは椅子から立ち上がると、握りこぶしを作った。
「これをミアリナ様に報告しましょう。さぁ、帰る準備をしないとね」
ウキウキ気分のソラリノをイーダリートが制する。
「お待ちください。まだミアリナ様からのお願い事を叶えておりません。ミアリナ様のお願い事は覚えておいでてすか?」
「………あ。そうね。わたしたちは反乱を止めに来たんだったわ」
しばらく押し黙ってからソラリノはおもむろにもう一度座ると、紙を出して何かを書き始めた。
「何をしていらっしゃるのです?」
「反乱の真の黒幕。見えた気がするの」
その頃、離宮にいた大公は、かつての余裕すら消える様子でいら立っていた。
(うむぅ……何故あやつらは倒れぬ!儂が差し向けた刺客たちは皆、武にも魔法にも長けた者たちだ。まさかあの護衛に魔法が効かなかったわけでもあるまい)
大公はひたすら思考する。
(鉱山に行く前に始末してしまえば良かったか。いやそれでは波風が立つ。ましてや儂を支持する領主のお膝元で刃傷沙汰など起こしとうない。それが元でミアリナに追放処分など下されようものなら儂の力が弱まる)
窓がカタカタと鳴っている。風が強く、びゅうびゅうという音が聞こえてくる。大公にはそれすら鬱陶しかった。
(ああ、過去のことを考えても無駄。次の一手を考えようではないか。……いや、もしかすると儂が手を下さずとも民が勝手に滅してくれるやもしれぬ)
「やはり、天は儂に味方した……!」
大公の笑い声は風の中に消えていった。
「反乱の黒幕って誰なの?結局」
「それはあとのお楽しみ。それよりも、周囲が騒がしいわよ?」
不審に思ったイーダリートがカーテンを少し開け、外を窺う。
そこには、思いもよらぬ光景が広がっていた。
「何ですかあれは……!」
眼下には、うねる波。その波は少しずつこちらに動いていた。
「……反乱軍、というわけですか。あの数では私でも捌き切れません。それに一般人に手を出すことはできない」
次第に群衆たちの叫ぶ声がはっきりと聞こえるようになった。
「きれいな水を!」
「うちの子が川の水飲んじまって動けなくなってるんだ!どうしてくれる!」
「このままでは皆が死んでしまう!井戸の水だけでいい!元に戻してくれ!」
必死で叫ぶ民衆に対して、領主は軍を出動させた。掲げるのは、鳥とパンジーの花が描かれたフリージス国旗。官軍であることの証だ。
「……さすがにあれは看過できないわね。」
「そうですね。非武装の民衆に暴力を振るうことは国際条約で禁止されています」
「ボクたちの出番ってわけだね」
三者三様に意気込みを語る。
「……最悪、無理にでも道を作りますが」
「その道が血で赤く染まってないことを祈るわ」
少し物騒なことを言った従者をたしなめつつ、ソラリノは部屋のドアを開いた。
(さっきより少し物騒な感じね。民側が少しでも刺激したら軍事行動に出そうだわ)
ソラリノは廊下の窓を覗く。先ほどまではただ立っていた兵士たちが剣の柄に手をかけた。これ以上抵抗するようなら殺すぞ、という意思表示。
(国際条約違反なんてこの国にデメリットでしかないのに。……いや、それが狙いなのかもしれない)
そう考えている間にも、両軍に飛び交う言葉の火花は激しくなっていく。
「このままでは間に合いませんね。どういたしましょうか?」
ソラリノは窓を開ける。
「近道するわ」
その言葉を発するとともに、ソラリノは窓から飛び降りた。
「ふぅ……あまり冷や冷やさせないでくださいませ」
「ごめんなさい。でもこれが一番早いでしょ?」
3階から飛び降りたが、飛行魔法で落下の衝撃を相殺したことでソラリノとミミは無傷で済んだ。イーダリートは、普通に落ちたが擦り傷すらなく至ってピンピンしていた。
「ここからなら全速力でいけば間に合うわね」
風魔法を使い、かなりの速さで現場に向かう。数十秒程度で現場に到着した。
「さっきから言ってんだろ!領主を出せ!」
「こちらもさっきから言っている。お加減が悪いとのことで領主は出せない」
嘘つき、と民衆が応える。その声はだんだん大きくなっていく。
一触即発。誰もが直感的に戦争の始まりを感じ取った時、不意に少女の声が響いた。
「皆、落ち着きなさい」
少女もといソラリノは周りに風を纏いながら群衆の中を進む。桁外れの魔力を持つ象徴である白髪の彼女を見た者の多くは呆気にとられ、思わず後ずさった。
「これはどういうことですか?非武装の国民に対しての武力を用いた威嚇は国際条約の禁止事項ですが」
隊の奥から進み出てきた壮年の男性がそれに答えた。
「問題ありません。こちらにミアリナ様の許可証もございます」
男性が捧げ持つ紙を手に取ると、ソラリノは大きくため息をついた。
「これは本物ではありません。いくらなんでも早すぎる。許可証の発行には最低でも1日は掛かります。さらに伝令と許可証を届ける時間が必要です。初めから国民と結託でもしていなければ到底できません」
ソラリノの言葉に民衆が色めき立つ。
「私たちが内通してたっていうの!?」
そんな民衆をたしなめつつ、彼女は続ける。
「すみません。言い方が悪かった。もちろんわたしも初めから全てが計画されていたとは考えておりません。あなたがたの真摯な目を見れば分かります」
ソラリノの言葉にすっかり毒気を抜かれ、民衆の声は小さくなっていった。
「そして、そもそもですがサインが違います。ここには京相同盟のショウド様のサインがされていますが、ショウド様はわたしたちと違って国際議会公用語ではなく古語でサインされます。対してこのサインは公用語です」
だが、兵士はこれだけ言われてもなお食い下がった。
「日によって公用語にしたい時もありましょう」
「そんな簡単にいくとお思い?ショウド様はご自分の母語である古語に誇りを持っていらっしゃいます。サインを各々の言語でできるよう他の王に働きかけたほどに。なれば、古語以外の言語でサインをすることなどあり得ないことだと思いませんか?」
ソラリノの答えに、とうとう兵士も口を閉ざした。
この場にいる誰もがソラリノの次の発言を注視していた。
「国民の皆さんの主張も分かります。ですが、わたしには今あなたがたがどういう状況に置かれているのか分かりません」
周囲がざわつく。何をするのか、皆目見当もつかなかった。
「兵士の皆さん。わたしは国民の皆さんと話がしたい。一度下がってはくれませんか?」
その言葉を受け、軍は解散し、その場には国民と一部の兵士、そしてソラリノたちが残った。
国民の代表が歩み出し、ソラリノの前に跪いた。
「星巫女様。ここで立ち話というのもなんですので、我が家でお話いたしましょう」
「ええ。そうします」
そう応えるソラリノの目はただ国民を見つめていた。
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今回名前だけの初登場となったショウドさん。
本名はショウド·ナナハで、古語(漢字)にすると七葉 晶土となります。名前の順番も逆になります。もちろんこれから関わってくる人物になりますので、彼の登場をお楽しみに!