4.鉱山
いつの間にか、馬車は野を越え山を越え、件の地に着いていた。
「わりと普通の村よね。なんかもっと物々しい感じだと思っていたのだけど」
馬車の窓から見える景色は、これまで通過してきた村と何ら変わらなかった。
(だからこそ、注意が必要でもあるわ。周辺の状況をよく見ておかないと)
しばらく揺られた後、そこを治めているという領主の屋敷についた。領主というだけあってそれなりの広さだが、豪華というより機能美的な美しさだった。
「……以外にシンプルなお屋敷ね」
「文句を言いません。ソラリノ様」
「文句じゃないわ。つい思ったことが口に出ちゃっただけよ」
「その癖は直していただかないと困ります」
案内されたのは館の内の一つ。
「この館はご自由にお使いくださいませ」
苦労性な顔をしている領主はそれだけ言い残すとさっさと帰ってしまった。
「それじゃあ、荷物を解きましょう」
次の日、ソラリノたちは村の一角にいた。
「水不足ってことだけど、そうでもなさそうよ?」
周囲には川も流れており、とても水不足に悩まされているようには見えなかった。
「井戸が枯れているのかもしれませんね」
イーダリートが指差す先には、誰もいない井戸があった。
「朝の水汲みに誰も来ないなんてことがありましょうか」
「覗いてみましょ」
井戸の底にはほんの少しだけ水が溜まっていた。
「溜まってるけど……これじゃあ掬えないわね」
他の井戸も回ってみたが、どこも似たような状況だった。
「やはりそうでしたか。井戸に人が寄り付かないわけです」
「ねえ、川の水は使えないのかな?そっちを使えばいいのに」
「そうね。村の人に聞いてみましょう」
だが、朝早いからか道を歩く人も少なく、話しかけようとしても逃げられてしまうことがほとんどだった。
そうしてしばらくさまよった後、やっと1人に話を聞くことができた。
「ねえ、あなたは川の水を使わないの?」
「うん!お母さんが使っちゃダメだって」
「どうしてかは分かる?」
「確か、川の水は汚れてるからって言ってた。上流のほうで魔法石の採掘が始まった〜みたいなことを大人たちが言ってたよ」
「そう、ありがとうね。はい、これお礼のお菓子よ。」
「わーい!!ありがとー!」
少年と別れたあと、別行動していたイーダリートと合流し、村外れの人が寄りつかない場所まで向かった。
「なにか進展はあった?」
「ええ、まず、井戸が枯れた原因はミアリナ様から頂いた資料の通りで間違いありません。そして、川に関しては何らかの影響で汚染されており、飲んだ者が体調不良を訴えたと聞きました」
ソラリノは魔法で風の机を顕現させると、ペンを出して資料にメモした。
「わたしのほうもだいたい同じよ。強いていうなら汚染の原因が上流のほうで行われている魔法石採掘かもしれない、ってことね」
「魔法石の採掘がなんで川を汚染することになるの?」
ソラリノは一度ペンをしまって、ミミを抱え上げて質問に答える。
「それは、魔法石の加工のせいね。基本、採れた魔法石はその採掘場で加工されるの。そのほうが運搬コストがかからないから」
「その加工の際に魔法石を水にさらす工程と、研磨した魔法石を洗う工程があるのですが、その際多くの魔力が水に染み出ます。その水を摂取してしまうと、体内の魔力量が、体の持てる限界の魔力量を超過していまい、体調不良が起こるのです」
「これはどの魔法石でも起こる事象だから、本来は魔力波動相殺機能を持つパイプが必要なんだけど、このあたりでは使われてないみたいね」
「ふーん。難しいからよくわかんないけど、なんかおかしいのは分かったよ」
そう言うとミミはぴょーんとソラリノの肩に乗り、尻尾を打ちつけた。
「水の安定供給……水……安定……ずっと……」
館に戻ってからソラリノがぶつぶつと呟いているのを、ミミは不安そうに見上げていた。
(あーあー、あんまり考えすぎちゃうとよくないよ〜?ドツボにはまって抜け出せなくなっちゃう〜)
だが、集中しているソラリノを邪魔するわけにもいかず、ミミはそっとその場を離れた。
(ボクも魔法が使えたらな〜、みんなの役に立てるのに)
自分にできることは今はない。でもいつか、ソラリノたちの役に立てる日を夢見て、額に刻まれた紋章をそっと撫でた。
「あ〜〜、浮かばない」
目覚めたソラリノの目の下には黒いくまができていた。
「実は水の供給方法は考えなくともよいかもしれません」
「どういうことよ……」
イーダリートはポケットから折りたたまれた地図をひっぱりだして、机の上に広げた。
「この村一帯が載っている地図です。ここを見てください」
イーダリートが指さした先は何の記号もない地点だった。
「え?ただの山でしょ?」
「はい。ただの山です。この地図では」
彼は立ち上がるとカーテンを開いた。
「この山は地図で私が指した山と同じ山です。ですが…」
ある一点を見つめて、更に言葉を続ける。
「ちょうど『汚染されている』川の上流があるんです。また、あの辺りはおおよそ食事を取る時間に煙が上がる。ということは、あの場所は……?」
イーダリートの問いかけるような挑戦的な視線に、ソラリノは負けじと勝ち誇ったような笑顔で返す。
「魔法石の鉱山。それも『地図から消された』秘密の鉱山ね」
「これは、何か裏がありそうですね」
「そして、その鉱山を公にすれば、多少は政府の対応も変わってくるかもね。魔力除去パイプを設置するとか」
「探ってみるしかなさそうだよ!ああ〜、一体どんなハチャメチャが待っているんだろ〜?」
「楽しそうにしないの。かなり難しい話になりそうだからね」
同時刻、首都郊外『離宮』にて。
(星巫女が到着したようだな。まあ鉱山の秘密にでも迫ろうとしておるんじゃろうが、そうはさせんぞ?)
大公は豪華なソファに腰掛けながら、ワインをグラスに注ぐ。
(ここで星巫女を排除すれば、ミアリナの支持及び他国からの信頼は崩れる。かつて儂にしたように、同じことをあやつに返す。大公代理だと?とぼけるな。どうせ儂に政権を返すつもりなど毛頭ないのだろう)
壁にかけた地図が揺れる。それは、現在の地図ではない。大公が思い描く遠い未来の地図だ。
(もし星巫女を排除できたら、次期女王を失ったシンファタリアは間違いなく潰れる。今がチャンスだ。そして、西の京相同盟。あそこもかなりの軟弱な連合。シンファタリアになんとかしがみついているに過ぎん)
ワインの入ったグラスを揺らす。そのワインは、生贄が捧げた血のようだ。
(そして、我らは西と北に勢力を伸ばし、最北端の第二帝国に近づく。あの国は非常に閉鎖的でどうしようもないが、技術力だけは異様な高さを誇る。それを吸い取ってしまえば、残りの国など簡単にひねり潰せる)
「この戦争はもう我らの勝ちだ。シンファタリアに革命が起こったその瞬間からな」
大公は一気にワインを飲み干した。
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不穏な展開です……ミアリナと大公だけでなく、国と国との戦いも視野に入ってきました。そして、新たに現れた2つの国。「京相同盟」と「第二帝国」(漢字だらけですみません……)。これからこの国たちがどう関わってくるのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!