1.フリージス公国へ
茂みを抜けた先は、木々が鬱蒼と茂る森林だった。
(さすが"不覚の森林"ね。もう方向が分からなくなったわ)
きっとソラリノ1人ではすぐに迷うだろう。
「手を離さないでくださいね、ソラリノ様。ここで迷ったら一生出られませんよ」
イーダリートの言葉も間違っていない。そもそも"不覚の森林"は自分がどこにいるのか分からなくなるくらい鬱蒼としていることから名付けられた。
「この先に少し開けた場所があります。そこで夜を越しましょう」
目の前には草原。早速イーダリートは簡易的なテントを作っている。ソラリノは薪を集めて火を起こした。
「これ、バレないかしら?」
「この森に入れるほど肝の据わったものは中々いないかと」
イーダリートは捕まえてきた獣を焼いて、ソラリノに手渡す。
「味は薄いですが、無いよりマシです」
「分かっているわよ。今は贅沢言える状況じゃないことくらい」
貰った肉を頬張る。その様子を見て、イーダリートは微笑んでいた。
「どうしたの?」
「いいえ。ソラリノ様も大人になったのだな、と」
(昔のあなた様なら、わがまま言って泣き喚いていたでしょうね)
ソラリノは空を見上げる。
「こういうのは初めてよ。今までずっと宮殿にこもっていたんだもの」
「そうですね。ソラリノ様は5つの時から宮殿から一歩も出ておられないのですからね」
しんみりした時間が流れる。だが、その空気はすぐにかき消された。
「!?」
いつの間にか、周囲を取り囲まれている。
「これは、まさか…!?革命軍!?」
「ええ!?こんなところまで!?」
「そうだ。ソラリノよ」
1人の男が進み出てくる。
「呼び捨てとは不敬よ!立場をわきまえなさい!」
ソラリノは一喝するが、男はその無礼な口調を変えない。
「ふん。今はただの逃亡者だろう。まあいい。ソラリノ=エアルーシェ。お前は今日この時を持って国外追放とする」
「追放ですって!?わ、私を何だと思っているの!?」
ソラリノはこの世界では最強の魔術師。その人物を国外追放にするなど、他国に「超優秀な人材を大安売りしていますよ〜」と言っているようなものだ。
「星巫女。その地位のせいだ。恨むならそっちを恨みな、お嬢ちゃん」
「な、何を……!!」
今にも飛びかかりそうなソラリノをイーダリートが抑える。
そしてこういった。私に良い考えがあります、と。
「承知しました。命令となれば、我らは逆らえません。すぐにこの国から出ましょう」
革命軍は包囲していた列を少しだけ崩した。そこを通っていけ、ということだ。
「行きますよ、星巫女様」
最後まで星巫女と呼んだのは、一種の反抗である。
包囲を抜け、森の奥まで入ってきた。
「ねえ、イーダリート。考えってなんなの?」
「そうですね。そろそろ話しましょう。その前に、少し腰掛けてもよろしいですか?」
ソラリノの承諾を得たイーダリートは近くにあった岩に座る。ソラリノは風で空気椅子を作ってそこに座った。
「私の作戦は、周辺諸国と協力して王位を取り戻すというのがメインです」
「周辺諸国と協力って、どうやって?どの国も助けてって言ったら助けてくれるわけじゃないわよ?」
「ええ。ですので、"人助け"をします。具体的には、国民はもちろん、国王、女王などの支配者まで、困っている人を助けます」
「なるほどね。確かに、印象はずっと良くなるわね。でも、どうやって解決するの?」
「それは、あなたの力ですよ、ソラリノ様。あなたのその卓越した魔術によって解決するのです。もちろん体力勝負の仕事は私におまかせくださいな」
何もせずにただ助けてくれ、というのでは誰も動かない。だが、何か支配者らの悩みなどを解決すれば、彼らはソラリノ達に好感を抱く。そうしたら後はこちらのもの。人は誰かの好意•厚意を受け取ると、自分もそれを返そうと考えるのだ。
「よって、お願いを通すことができるのですよ」
「理屈は分かったわ。でも一国だけじゃ心もとないわ。何カ国か行かないとね」
ソラリノ達の母国、シンファタリア王国はかなりの大国だ。周辺の国がちょっと侵攻した程度では揺るがない。だからこそ革命の成功が不自然ではあるのだが。
「ですので、これから南のフリージス公国に向かいます。あの国は基本的に平和主義で開放的。他国からの亡命者も快く受け入れてくださるでしょう」
「南西の国は駄目なの?あと南東も」
「ここからだと少し遠くなりますし……南東はかなり排他的な女権社会ですから、異分子の私達が行くのは問題かと。南西はいくつもの国が同盟を結んでいますが、他国の貴族以上の存在が同盟構成国の領土内に入るには盟主の許可証が必要ですので、南西も無理です」
「分かったわ。それじゃあ、今日はここで野営しましょう……って」
イーダリートはソラリノからの指示が出る前にテントを組み立てていた。それを見たソラリノが「命令は最後まで聞きなさい!」と頬を膨らませたのは想像できるだろう。
翌朝、テントにはソラリノがいた。
「全く、イーダリートはどこへ行ったの!?」
(いつもいつも勝手にいなくなるんだから……でもわたしも色々とイーダリートを困らせてるし、あんまり強く言えないんだけどね)
「ソラリノ様!起きられたのですか」
「イーダリート!どこに行ってたのよ!心配したんだから!………ねえ、その右手の黒いモフモフは何?」
"黒いモフモフ"がビクッと身を震わせた。
「わあっ!生きてた!?」
「今日の夕飯にしようと思って捕まえましたが……どうやらいつものやつではないようです」
「お、お前!いまボクを夕飯にするって言ったな!」
"黒いモフモフ"は「夕飯にする」の単語を聞いた瞬間にイーダリートの右手から抜けて、地面に立った。
「え?あなた、魔獣だったの?」
「もちろん!ボクは偶然そのへんを散歩してたらそこの黒い人に捕まって、非道にも夕飯にされそうになってた哀れな魔獣なのさ!ほら、紋章があるでしょ?」
魔獣とは、人語を解す、特殊な紋章がある、異形、魔法を使う の内2つ以上を満たす獣のことだ。そのほとんどはペットとして飼われているが、時々野生のものもいる。
「それはすみません。では、また放してきますね」
そう言ってイーダリートが魔獣を持っていこうとしたのだが……
「待って待って!!ボクを放さないで〜!」
魔獣が急に暴れた。
「ちょっと!落ち着きなさい!どうしたのです?」
「ボク今お腹が空いて空いてたまらないんだよ〜〜!野生化したはいいものの、命の危険だらけだし、エサはないし、雨は降るしで最悪なんだよ〜!」
「野性化しなければ良かったんじゃない?」
「それはそれで嫌!あの家さぁ、厳しいし怖いし魔獣だからって魔法使えないと叱られるし……!」
魔獣に理由があってのことだった。だがイーダリートはそれでも放そうとした。
「やーめーろー!!!」
魔獣が叫んでいるがイーダリートは聞く耳を持たない。
「待ってイーダリート、もしかしたらこの子使えるんじゃない?魔術を利用して……」
「確かにそうですね。では、この子は私達で育てましょう。ただ、エサがそんなに確保できないことは覚悟しておいてくださいね」
「うぅ、エサが毎日食べられるだけで幸せです〜〜」
過酷な環境にずっといたのだろう。ほんの小さな幸せでも何にも代えがたいものになる。
「そうだ、ボクの名前なににするの?ちなみにボクはメスだよ〜」
「そうだ、名前も決めなきゃね……」
「何かいい案は…あ、ディナーとかはどうでしょう?」
「却下。ぜーったい食べられる。ボクに"夕飯"とかつけないでよ!」
「ではアベンデッセン」
「言語変えただけじゃん!!もう!酷いやつだ!ねえ、君のほうはなにかない?」
「うーん、あ! "ミミ"とかどう?」
「おー!かわいい名前だね!ボクの名前はミミにけってーい!」
だんだん太陽が登ってきた。
「そろそろ行きましょうか。フリージス公国を目指して」
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今回はかるーいギャグ入りです。スベったかもしれません。結構ベタすぎる?かもです。笑ってくれた方、ありがとうございます!!!!