13.月に叢雲花に風
いつの間にか、蘇京に来てから3週間が経っていた。毎日のようにソラリノとイーダリートは盟主の下に向かい――
「どんな幼少期を過ごしてきたのです?」
「ずっと王宮の中で過ごして参りました。時折抜け出すことはありましたが」
「魔法は訓練して使えるようになったのですか?」
「はい。大体5つか6つの時に使えるようになりました」
盟主の質問に答えていた。
メリッサは城内の大図書館で読書に耽っていた。ミミはメリッサに連れられ、メリッサが残しておきたいと思った本を全て記憶させられていた。
「これもお願い。あとこれ」
「これも……これも」
「一体どこまで覚えれば良いのさ!」
「魔力切れするまで……まだ魔力の限界は来てないでしょ?」
「こんなの理不尽〜〜〜!!」
蘇京は今日も平和で、大学では講義が行われ街には学生と研究者が行き交っていた。鳥が囀り日は傾く。誰もが普通の生活を享受していた。
その瞬間までは。
午後5時46分。突如として蘇京中のスピーカーからサイレンが鳴り響いた。
次の瞬間、今まで誰もが体験したことのない揺れが蘇京を襲った。
大図書館では、メリッサがミミと本を抱えたまま机の下にうずくまっていた。
「……すごい揺れ。こんなの初めて……」
「ふぇ〜、こ、怖かったよ……」
「とにかく、司書さんの指示に従おう」
従って外に出ると主殿に向かって駆け出した。流石は蘇京、崩れている建物はほとんどなかった。
「……まだ余震があるかもしれないから、注意してね」
ソラリノたちはバルコニーで話をしていた。
「すみませんが、僕は対策会議を開かなければなりませんので、これにて。お気をつけて」
「ありがとうございます。盟主様」
衛兵に先導されて居室まで戻ったが、ソラリノはすぐに部屋を出ようとした。
「部屋から出てはなりませんよソラリノ様。またいつ地震が起こるか分からないのですから」
「でもメリッサちゃんたちが心配よ!わたし迎えに行くわ!」
「せめて許可を取ってくださいね」
「分かってるわよ」
大図書館のほうに向かおうと外に出たところ、向こうから走ってくる人影が見えた。
「メリッサちゃーん!」
大声で呼びかけると、人影は手を大きく振った。
(良かった。無事みたいね)
「大丈夫?ケガしてない?」
「……大丈夫です。あとこの子も」
怯えきっているミミを手のひらに乗せて、こちらに差し出してきた。
「あわわわわ……、怖かったよぅ……」
「とりあえず中に入りましょう」
翌日、盟主からの呼び出しはなかった。そんなことができる状況ではなかった。盟主·七葉 晶土は対応に追われていた。
「我が領内の被害の詳細はどうなっています?紅大臣」
「地震により発生した地すべりにより土砂が湖に流出。同時多発的に起こったことで湖で津波が発生し、沿岸の諸都市が巻き込まれました」
「蘇京で現在確認されている人への被害はないね?」
「はい。けが人なしとなっています」
「ありがとう。津波はまだ収まっていないのかな?」
「はい。現在沿岸から0.5kmの範囲が浸水、徐々に内陸に迫っています」
「この津波はどれくらいで引くのか、緋衣博士の意見を伺いたい」
「おそらくあと30分は間違いなく必要でしょう。長いと1時間は引きません」
「そうですか。瑠璃溝大将、葉正領軍が津波が引き次第直ぐに救助を開始できるよう準備を。準備が整い次第出動命令を発令し、津波到達予想地点の1km前で待機しなさい」
「承知」
「領主。気候調査室から詳細な観測結果が。これによると震源は西の大断層、ここから西南西90km。未だ現地の詳細な被害は報告がありませんが、おそらく200年前の大震災と同規模の被害かと」
「だとすると、死者は約8万人、けが人は約25万人、全壊家屋は約15万戸、経済損失は約20兆セイルとなりますぞ盟主」
「あの時よりは耐震化も進み、建物は高台に建てるよう奨励しましたがいかんせん津波の規模が不明です。前より大きな津波であれば被害も増大しましょう」
「今は200年前の災害と同規模という前提で対策を考えよう。情報が入ってきたならばその都度更新する形で」
そうして、彼らは経済損失の予想や様々な事案について話し合った。40分後、軍から津波が引いたと思われるため救助を開始するという報せが届いた。
今回の災害では現実世界において震度7レベルの揺れがあり、津波の最大の高さは12m、マグニチュードは8.9と同規模だった。
後にこの災害は震源地の名称から「陽廉の大震災」と呼ばれるようになる。
その翌日、ソラリノとイーダリート、そして晶土は広間にいた。
「わたしも救助活動に参加してほしい……?」
「はい。ご無理を言って申し訳ありませんが、今は僕たちにはどうしても魔法の力が必要なんです」
古代人の血を引く彼ら京相同盟の民は魔法がほとんど使えないのだ。古代人の血は不思議なもので、少しでも混ざっていると格段に魔法の力は落ちる。
「今、この国において強力な魔法が使えるのはあなた様しかいらっしゃらないんです。星巫女様」
「恐縮ですが、護衛の私としましてはあまり星巫女様に危険な場所には赴かないでいただきたいと存じます」
「そうですよね。変なことを言って申し訳ありませんでした。この話はお忘れください」
七葉が椅子から立ち上がろうとすると、突如ソラリノがきっぱりと言った。
「その話、受けましょう」
晶土もイーダリートも驚きを隠せなかった。
「よ、良いのですか!?」
「ソラリノ様、危険です!まだ余震が来るかもしれません」
「いいわよ。わたしだって自分の身くらい守れるわ」
それに、と彼女は続ける。
「誰かが助けを求めているのなら、それに応えるのが人の上に立つものの責務でしょう?星巫女、次期女王だった身としてはその責務を果たさなければね」
イーダリートはふっと微笑むと、彼女を許した。
「ありがとうございます!星巫女様……!」
(これからはまた大変な旅になりそうね。でも、それを解決してこそわたしたちよ!)
一人でも多く助けてみせる。ソラリノはそう決意した。
「行きましょう。助けを求めている人のところへ」
彼女の覚悟を示すがごとく、太陽は雲を蹴散らして目映く輝いていた。
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今回は地震のお話でした。日本は地震が絶えませんから、どこか私たちの境遇に重なるところがあったのではないかと思います。この話を書いていて驚いたのは、日本の民家の耐震性の高さです。経年劣化もあるとはいえ、震度7の地震にも耐えうる力を持つだなんて凄いですね!住宅の素晴らしさを改めて感じました。




