12.蘇京の盟主
京相同盟 首座都市「蘇京」にて。
蘇京は巨大な湖の中心の島にある。といっても、島はかなり大きいため、蘇京から湖は見えない。
「ここは静かな街なのね」
「学問の都市だからでしょう。確か蘇京には大陸で1.2を争う蔵書数の図書館があったはずです」
街は殆どが木骨レンガ造の建物で構成されており、フレトリアに比べ重厚で格式高い。
「なんか高い建物がたくさんだね〜!いーち、にー、さーん………………じゅ、10階建て!?」
「……それだけ高い建物でも、耐震性能はすごくいいんだよ」
へぇ〜、とミミが声を立てる。
「……蘇京の西には、大陸を縦に貫く大規模な断層があって……地震がすごく起きやすいの」
「地震が起きやすいなら、ここに都を作らなければいいんじゃないの?」
「そうでもないよ。……この断層のおかげで、ここに巨大な湖ができた。……周りが水で囲まれていると、防御には丁度いいでしょ?……更に水資源のおまけ付き。飲水が尽きることはないよ」
メリッサの博識ぶりに、ソラリノとミミは感心していた。
「すごいわねメリッサちゃん!どこでそれを知ったの?本?」
「……いえ。これは、昔あたしの村に来た人から教えてもらいました。他の知識もそうですが」
「ん〜、でもよくそれを覚えてるよね?」
メリッサは、カバンから紙を何枚か取り出した。
「その人、この紙にいろいろまとめてくれたんです。……見ますか?」
「ええ!ありがとう」
隣のメリッサから受け取ると、ソラリノは膝の上に乗ったミミにも見えるように持ち、1枚ずつじっくりと見ていった。
「イーダリートも見る?」
「メリッサさんがよろしいのでしたら」
メリッサがこくりと頷いたので、ソラリノは向かいに座るイーダリートに紙を渡す。
「……!」
一瞬、従者の空気が揺らいだ。彼は一文字一文字なぞるようにして読んでいく。まるで何かを見つけようとしているかのようだ。
「どうしたの?イーダリート。あなたがそんな食い入るように見るだなんて珍しいわね」
「すみません。少し、驚いてしまったもので。これを書いた方はとても言葉を使うのが上手な方ですね。これほど分かりやすく書かれた文章を見たことがありません」
「……あなたも、そう、思いますか。嬉しいです。やっぱり、あのひとはすごい人だったんですね」
メリッサが柔らかく笑う。
(どんな人だったんでしょう?いつか話してみたいわ……)
閑静な街を抜けると、大きな門があった。ゆっくりと鉄の扉が開き、その奥が見えるようになった。
「………わぁ……」
端が見えないくらいの庭園に、塔が林立している。塔は進むごとに高くなっていき、だんだんと道に寄ってきている。
「ここが京相同盟盟主の居城、「葉正城」なのね」
中央の本殿は、建物の四隅に塔が配された形で、黒い木と白い漆喰でできている。馬車とよく似たデザインだ。
「遠路はるばるようこそお出でくださいました」
馬車を降りると、官僚と思しき30半ば程の女性がうやうやしく礼をした。
「盟主が中で皆様をお待ちしております。どうぞこちらに」
通された広間には、盟主·七葉 晶土があの独特な礼の姿勢でいた。
「お会いできる日を心待ちにしておりました。星巫女様」
「わたしもです。盟主様。顔をお上げください」
穏やかな声は彼の性格を表しているようだ。焦げ茶色の髪に、紫色の目。銀縁の眼鏡が光を受けて時折輝く。
「革命のことは既に聞き及んでおります。これは我が国の危機でもありますから、革命を抑えるためならばシンファタリアに出兵いたしましょう」
(え……?)
まだ何もしていないのに、と言いかけて飲み込んだ。
「まだ何もしていないのに、と思われたでしょう?星巫女様」
「え、ええ……よくおわかりで」
心の中を見透かされて戸惑うソラリノを見て、晶土は微笑んだ。
「僕は人の心を読み取るのが得意なのです。魔法が使えない分、ということでしょうか」
彼は微笑みを絶やさず続けた。
「兵の話に戻しますが、出兵はこちらにも負担がかかります。ですが、革命というのは恐ろしいもので、この国の前駆体とも言える古代カルディア王国
は隣国の反乱によって起きた混乱に巻き込まれて衰退しました。僕はそのような歴史が繰り返されるのではないかと心配しているのです」
なるほど、とソラリノは頷いた。だが、やはり彼女の心には申し訳無さが残る。
「出兵のお話、誠にありがたく思います。ですが、わたしたちだけが得をするわけには参りません。何かわたしたちに手伝えることがあれば、お手伝い致します」
そう言うと、晶土の目は輝いた。
「それならば、お頼みしたいことがあるのです」
「何でしょうか……?」
晶土から頼まれたことは、意外なものだった。
「つまり、わたしたちのことを聞かせてほしい……?」
「はい!僕は星の目を持った方を生まれてから一度も見たことがなく……更に黒い髪の方ともまた出会えるなんて!僕は幸せ者ですね!」
「そ、そうですね……」
ソラリノは急な盟主の変わりように気圧されていた。
「い、いいわよねイーダリート?」
「私は構いません」
「決まりですね!」
ソラリノ達が居室として与えられたのは、おそらく最上級の賓客用であろう豪華な部屋だった。
「すごいね〜、全部木でできてるのに貧乏臭さが全くないよ!」
「……京相同盟の技術が優れている証拠」
窓から見える庭園は、幾何学模様になっている。そして、それと揃えるような柄のカーテン。京相同盟の文化なのか、それともこの模様が特別なのか、どの家具の布にもこの模様か使われていた。
「盟主様、意外に好奇心旺盛な方だったのね。もっと落ち着いた方だと思っていたわ」
「ソラリノ様はお会いしたことがありませんからね。仕方ありません」
「……従者さんは、盟主様と会ったことがあるような物言いですね」
「まあ、そうですね。盟主様は、元々姉の婚約者だったんですよ」
「ええっ!?イーダリートってお姉ちゃんかいたの!?ボク知らなかったんだけど!?」
イーダリートは、昔を懐かしむように話しだした。
「あれは15年前、私が5歳のときでした。8歳の姉のお見合いについていったんですね。そうしたら、そこに盟主様がいらっしゃったんです」
「……でも、盟主様の奥様は確か当代シンファタリア女王陛下の妹君ですよね?」
イーダリートの表情が暗くなる。
「ええ。その通りです。ソラリノ様はご存知の通りですが……丁度その年、我らの一族と敵対する一族が政権を握ったのです。彼らは私の一族、つまり黒髪の一族の人間を虐殺しました。いわゆる『黒狩り』です」
彼の口から語られる悲惨な歴史は、メリッサとミミを戦慄させるのに十分だった。
「父も母も巻き込まれ、私と姉以外の殆どの家族が殺されました。私と姉は、先代女王のノアール様に匿われて生き延びましたが……姉は5年後逃げるかのように各国を旅しました。今の私達のように」
「お姉ちゃんはその後どうなったの?」
「分かりません。私の元に帰ってくることはありませんでしたから。もしかすると、この国にいるかもしれませんね。盟主様は元を辿れば私達の一族ですから」
それまで黙っていたメリッサが、思い出したかのように声を上げた。
「……そういえば、あたしに色々教えてくれた人、髪が黒かった。もしかしたら……」
「姉かもしれませんね。博識な人でしたから。少し年が合いませんが」
「会ってみたいわね。イーダリートのお姉様」
「多分、会えると思います。何となくですが」
ソラリノは、イーダリートの姉が幸せに生きていることを願わずにはいられなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます(*´ω`*)ぜひぜひ評価ポイントをポチッと、お願いします!評価ポイントは作者のすっごいモチベになります!!また、これからも更新していきますので、ブックマークもよろしくお願いします!
京相同盟は、基本的にイギリス×日本をイメージしています。文化はイギリス、言語は日本だと思っていただければ!
今回の一番の悩みどころは盟主の一人称ですね……「拙者」か「小生」か「僕」で悩みました(小生は目上の人には使えないようです)




