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星巫女諸国漫遊記  作者: 恋若スミレ
フリージス公国編
12/14

11.研究者少女

途中の館に泊まりつつ、7日かけてあの村に着いた。もう調査の手が回っているのか、朝餉の時間であるにも関わらずあの鉱山からは煙が立ち昇っていなかった。


村に入ると、道の左右に村民が並び、新たな大公を出迎えてくれていた。ミアリナは馬車から降り、用意された壇に登る。領主が変わったようで、前に来た時とは違う人物が跪いた。


「村の皆さん!この度は我ら中央政府の不手際により生活に支障を出させてしまったこと、深くお詫び申し上げます」


ドレスの裾を持って礼をする。


「水に関しましてはもうご心配ありません。水質、水脈の調査は順調に進んでおり、川の水も井戸の水も全てが元通りになりました。皆さんに許して欲しいとは申しません。ですが、もしこれからも我が国ついてきてくださるとおっしゃるのなら、これからもフリージス公国のこと、よろしくお願いいたします。このミアリナ·フトゥルオフ、身命を賭して皆さんを、この国を守っていくとここに誓います!」


彼女を包んだのは、温かい拍手と村民の声だった。


(良かったですね。ミアリナ様)


壇上のミアリナの目には、涙が光っていた。






「ふふ。良いものが見られたわね。これで心置きなく次の国へ行けるわ」


そうですね、とイーダリートが反応したとき、遠くから声がした。


「ほしみこさまー!」


声の主は、革命軍リーダー、ディバーノの息子だった。その後ろには母親とディバーノ、そしてかつて病に伏せていたメリッサがいた。


「ふふ。こんにちは。わざわざ来てくれたのね」


頭を撫でてあげると、子供は幸せそうに笑った。


「こらユーリ。星巫女様、すみませんね」


「いいわよ。それより、メリッサちゃんは元気になったのね」


「はい。星巫女様のおかげで。ほらメリッサ、挨拶しろ」


今まで父親の後ろに隠れるように立っていたメリッサが、前に進み出た。


「こんにちは。星巫女様……」


感情のゆらぎのない声。10歳にしては落ち着きすぎている。前に聞いたときとは別人のようだった。


「こんにちは」


「………」


メリッサの視線が一点に注がれる。


「星巫女様。その肩に乗っけられているそれって……」


「魔獣のミミよ」


そう言った途端にメリッサの目が輝いた。


「あの……触らせてもらっても……?」


「良いわよ。ほら、どうぞ」


ソラリノからミミを受け取ると、メリッサはミミを撫でたり観察する素振りを見せた。時折気になるところがあるのか指でぎゅーと押したりしている。


「みゃ!?やめりょ〜〜!」


とミミが言っても聞く耳を持たず、観察を続けていた。


「友好型には珍しくクロダマキャスパリーグの一種……おそらく歳は2歳……紋章が薄い……まだ魔法が定着していない……?」


「……メリッサちゃん?」


「……あ、すみません。友好的な魔獣はあまり見たことがないので。つい……」


メリッサはミミを返すと、礼だけ言って黙ってしまった。


(はずかしがりやさんなのかしら?……それにしても魔獣への知識量が凄いわね)


「メリッサちゃん。魔法は好き?」


「はい。使う方ではなく、研究の方ですが」


そう、とソラリノは言った。その口角は上がっていて、満足そうだ。


「これは、ディバーノ様とお母様が良ければの話なのですが……メリッサちゃん。わたしたちと一緒に旅をしない?」


えっ、と声がした。今までにメリッサが見せたことがない無邪気な驚きだった。


「これから京相同盟に向かうのだけど、確かあの国は学問が盛んだったはずよ。勉強になると思うわ。もちろん、必ず帰すと約束する」


ディバーノと母親は迷っているようだった。娘のやりたいことを叶えさせるという視点では願ってもない好機だ。だが身の安全を考えるとそうもいかない。


「もし娘さんの身の安全を心配していらっしゃるのなら、ご心配なくてよ」


「み、ミアリナ様!」


跪こうとするディバーノたちを制し、ソラリノとイーダリートが自らの身を守ってくれたこと、2人で数倍もの敵を倒してしまったことなどを話してくれた。


それを聞いた夫婦の顔は少し明るくなったものの、不安が残っていた。彼らに決断をさせたのは、誰でもないメリッサだった。


「お母さん、お父さん。あたし、この人たちと一緒に行きたい」


初めは2人とも驚いた表情だったが、しばらくすると目に涙を浮かべ、娘を抱きしめた。


「そうね……あなたが言うのなら、認めてあげなくちゃねぇ……ずっと、我慢させっぱなしで、あなたのお願いを聞いてあげたこと、なかったものねぇ」


「星巫女様。どうか娘のこと、よろしくお願いします」


「ええ。お任せください」


それから少ししたあと、小さなトランクを抱えたメリッサも馬車に乗り込んだ。


「さあ、行きましょう。京相同盟へ」


ソラリノの一声で馬車は進み始めた。






約2日後、馬車は京相同盟との国境付近、大公家の所有する小さな館に着いた。


「ミアリナ様とはここでお別れでございますね」


「はい。私も寂しいですが、星巫女様の行く先に光があらんことを祈ります」


「ありがとうございます……!ミアリナ様もお元気で!」


ミアリナは何も言わずに手を振った。


少しずつ馬車が加速する。あっという間に館は見えなくなっていく。その代わりに見えてきたのは、国境の門。


馬車が止まった。ここから先にはこの馬車は入れない。


「ソラリノ様。お手を」


「ありがとう」


後ろではフレトリア兵が敬礼して見送ってくれている。それに対して、京相同盟の兵は独特な礼で出迎えてくれた。


「お出迎えありがとう。皆さん」


一礼し、新たな馬車に乗り込む。馬車は木造の一見質素なデザインだが、精緻な彫刻で飾られている。白木の壁に黒木の柱がよく映える。


(京相同盟は豪華さよりもいかに洗練されているかを重視するのね。これも国民性の違いかしら。こういうのって面白いわ。魔術を研究するのが好きなメリッサちゃんの気持ちが分かった気がする)


「……国でこんなにも違うんですね。星巫女様」


メリッサも同じことを思っていたようだ。


「ソラリノで良いわよ。これから一緒に旅をするんだし」


「じゃあソラリノさん」


イーダリートがぎょっとしたが、メリッサは気にもとめずに続けた。


「……どうして京相同盟のある地域はこのような文化を持つようになったのでしょうか?」


「うーん……難しいけれど、元が古代人系の国よね?だからその名残なんじゃないかしら」


メリッサは少し考えると、もう一度ソラリノに向き直った。


「……確かに、それもあると思います……でも、あたしは、地形が関係あるんじゃないかと思うんです」


「地形?」


「……京相同盟一帯は、元からあまり資源に恵まれた土地とは言えません……更に災害も多く、折角の資源も消えてしまいます。だから、少ない材料で作るほかなかったとしたら……できることは付け足すのではなく削ること……すなわち彫刻による装飾です」


「壁と柱が違うのは?」


「おそらく、少しでも見た目を華やかにするための工夫でしょう。1種類の木だけではのっぺりしてしまいますから……」


いつの間にか馬車は出発していたようで、問答が終わる頃には森林地帯を抜け、大きな街道を走っていた。真っ直ぐな道はどこまでも続くように見える。


(この旅も、いつまで続くのかしら)


物憂げな顔をするソラリノを、メリッサは興味深そうに見ていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます(*´ω`*)ぜひぜひ評価ポイントをポチッと、お願いします!評価ポイントは作者のすっごいモチベになります!!また、これからも更新していきますので、ブックマークもよろしくお願いします!


今回、新たな仲間が増えました〜!(パチパチ)メリッサはどちらかといえば実戦よりも支援向きのキャラですね。彼女の知識がどう活きてくるのか、更には京相同盟でどのように成長していくのかは、これからの展開にご期待ください!

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