表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星巫女諸国漫遊記  作者: 恋若スミレ
フリージス公国編
10/14

9.宮殿のざわめき

「ソラリノ様、着きましたよ。ソラリノ様」


ソラリノは目を擦るとあくびを噛み殺してイーダリートの手を取った。


「ありがとうね……」


馬車の外に出ると、前に来たときと同じメイドがお辞儀をしていた。


「ご案内いたします」


そう言ってまた同じように宮殿を進んでいった。






今回は広間ではなく、こぢんまりとした部屋に通された。


(内密の話だから、ってことね。まだ調査も始まっていないし、反乱が起きただなんて国民に広まったら大変だもの)


部屋にはすでにミアリナがおり、こちらに気づくと立ち上がって礼をした。こちらも礼をすると互いに椅子に座った。


「反乱を抑えてくださったこと、感謝申し上げます、星巫女様」


「どういたしまして。早速ですが、こちらが今回の反乱とその原因に関する資料です」


ミアリナは礼を言ってから手元に引き寄せると、1枚ずつじっくりと見ていった。時折彼女の顔に驚きの色が浮かぶあたり、彼女にとって衝撃的な内容だったのだろう。


「あまり信じたくはないのですが……この件には大公殿下が関わっていると、星巫女様は睨んでおられるのですね」


「はい。ミアリナ様もこの鉱山のことはご存知ではなかったでしょう。国に隠れて鉱石の採掘を行い、更に民を苦しめるようなことまで行っているのです」


ミアリナは顎に手をやった。


「では……なぜそんなことを……?」


一呼吸置いてからソラリノが口を開いた。


「おそらく、ミアリナ様の権威を失墜させることが目的かと思われます。未だ推測に過ぎませんが、この説ならば大公殿下が隠れて採掘を行っていたことと魔法石を水にさらしていたことの理由に説明がつきます」


それでも信じがたいようで、ミアリナの表情はずっと暗いままだった。


「わ、私にはあの方が私を貶めようとしているなどと到底思えないのです。大公殿下は私の叔父で、私のたった一人の家族なのですから……」






その場の重苦しい空気は、外からの報せによって一変した。


「急報!大公殿下の軍が突如フレトリアに接近!このままでは包囲されてしまいます!」


(想定よりずっと早い……!わたしも油断しきっていた。でもまだ余裕がある。軍がフレトリアに着くまでにミアリナ様だけでも安全な場所に……)


だが、ソラリノの期待はすぐに消え去ることとなる。


「ミアリナ様!とにかく兵に指揮をなさいませ!」


「は、はい!軍を4つに分け、フレトリアの四方の砦に配置なさい!」


命令を受け取った召し使いは走り去っていった。その間にもソラリノたちは部屋を出て、比較的見通しの良い大広間に移動した。


(ここなら、周りから刺客が来ても気づきやすいわ。広いから存分に戦える)


周囲の警戒を欠かさず、魔力探知も徹底する。いくら魔法を使う瞬間しか分からないからといっても分からないよりマシだ。


(今のところ異常なし。侵入者の気配もないわね)


だが……


「やあやあ諸君。お集まりかね」


太く響く声。聴くだけで震えが止まらない。この声の主は今は見えず、魔力探知にも反応がないが、誰かは分かる。


(大公……!)


その後しばらくしてから大公は姿を現したが、周りには警護の者さえもいなかった。あの大公がまさか無防備で来る訳が無い。護衛は恐らく隠れているのだろう。


「まさかひと足早く来るとはね……そんなに己の配下は信頼していないの?大公殿下?」


大公は顎髭を撫でると、こう呟いた。


「いやいやそんなことはない。まあ、楽ができるに越したことはないのでな」


楽?とソラリノが聞き返す。一体何を目的として大公はこの場所にいるのか。それが知りたかった。


「力で抑え込むよりも言葉で話し合った方が良いと思ったまでよ。ミアリナ、お前もフレトリアを血の海にしたくはないだろう?」


大公を除く全員が息を呑んだ。大公は既にフレトリアを人質にしているのだ。


(何でもっと早く気付けなかったのよ……!わたしの馬鹿!馬鹿!フレトリアの中には大公の息のかかった者もいる。その者たちが一気に動き出したら……良くて廃墟、悪くて更地ね)


フリージス公国は混乱に陥るだろう。そしてミアリナは捕らえられ、フレトリアは灰燼と化し、平和だった王国はきっと戦慄したものになる。


(わたしのせいね……わたしがあの鉱山なんかに近寄ったから……!いえ、先に大公に対して手を打てていたら!)


ソラリノが自責の念に駆られていると、大公は妙にねっとりとした声で話し始めた。


「ミアリナ。取引をしよう。大公の実権を儂に全て譲りなさい。お前が持っている領土も全て。その代わり、お前の命は助ける。離宮には自然も多い。お前の喘息も快方に向かうであろうな。どうだ?儂の頼み、受けてくれるか?」


だが、ミアリナは頷かなかった。


「何故……なのですか?私は貴方から大公の権威を譲り受けました。まだ私は12だった……それから18になった今日まで皆の模範となるべく精進してまいりました。それでも、私にはこの国を任せられないと、叔父上はそう仰るのですか!?」


彼女の叫びは悲壮な響きを伴って、広間に消えていった。直後、大公の顔色が変わり、空気の重みが増した。どうやらミアリナは彼の地雷を踏んでしまったらしい。


「ああ。お前にはこの国を治める資格などない。それに権威を譲り受けた?奪ったの間違いではないか?」


ここで、ソラリノは違和感を覚えた。


「ちょっと待って。奪ったとはどういうことよ?12歳の子供が政権を奪うなんて話、聞いたことがないのだけど?」


「儂は、周りの重臣たちによって権威をミアリナに譲渡させられた。離宮に住まわされ、大公とは名ばかりで国政の一つにも関われない!儂はあのときほど無力感を覚えたことはない……」


芝居のように大袈裟な悲しみ方をすると、大公の顔は途端に憎悪で歪んだ。


「そして儂は誓った!いつか必ず玉座を取り戻すと。そして、儂を離宮に押し込めた者全てに復讐するとな!」


彼は一瞬の間に地のエレメントを顕現させると、それをミアリナに向けて放った。かなりの威力だったようで、着弾点には魔力の離散による濃霧ができていた。


「ふは、ふははははは!間抜けなものだな。お前達は知らなかったかもしれぬが、儂はこの国随一の魔法使いなのだよ!」


魔法に被弾すると、それと同程度の魔力が失われる。魔力がある点に達するまで低下すると、魔力を回復するために体力が使われる。そのため、魔法は直接致命的なダメージを与えられないのだが、相手を手っ取り早く弱体化できる。相手に病があるのなら尚更だ。


「ミアリナ様!」


護衛の兵士が叫ぶ。少しづつ霧が晴れてきた。その中では、イーダリートがミアリナを庇っていた。それを見た大公は呆れるような顔をした。


「愚かな。わざわざ当たりにいくとは。魔法に当たれば弱くなるというのに……」


不意に、ソラリノが笑い出した。


「ふふ。愚かなのはあなたの方よ、大公殿下」


大公はソラリノを睨み、左手を掲げた。瞬間、どこからともなく仮面を付けた刺客がなだれ込んできた。一斉にソラリノに襲い掛かる。


天命の水禍(イヌンダーツィオ)!」


彼女の周りに出来た水のエレメントの壁は崩れ、周りの刺客たちを押し流した。


聳立の氷瀑(グラーチェス)!」


上から襲いかかる敵には魔法の氷柱が突き立った。だが、敵はそれでも襲いかかってくる。ソラリノの背後にいつの間にか敵が立っていた。ナイフを首に向かって振ろうとした、そのときだった。


「我が主の命を狙おうとした非礼、その命で贖え」


瞬く間に刺客は首と胸を斬られていた。黒い髪が空を舞う。金のボタンと星巫女の護衛であることを示すブローチがシャンデリアの光を受けて煌めいた。


天母の巌矢(ガイアサディータ)


大公から土の矢が放たれ、イーダリートに突き刺さる。だが、彼には()()効いていなかった。本来なら全ての物を弱体化させる魔法が、彼に対しては何の攻撃にもならなかったのだ。


隕鉄飛剣(メテオリーテ)模樹石の籠(ライトキャーベア)!」


大公は焦って次々と技を出すがその全てが尽く露と消えた。彼にはイーダリートが原理の外側にいるように思えただろう。


「無駄よ。イーダリートに魔法は効かないわ」


ソラリノが襲いかかってくる敵を魔法で蹴散らしつつ、焦る大公に告げた。


「もう少し歴史を勉強したほうが良かったんじゃない?(小声で)あ、だから位を奪われたのかもしれないわね。教養が足りないと思われて。わたしが言えたことではないけれど、為政者として歴史は必須事項よ。自国だけじゃなく、他国のもね」


ソラリノは大公がイーダリートの処理で手一杯になっていると踏んで、一気に距離を詰めた。大公はソラリノにも魔法を撃つが、速度と精度が粗く全て防御魔法で防がれた。流石に2人同時に相手するのはきついらしい。


「いくわよ、イーダリート!」


「ええ」


ソラリノから魔法が至近距離から放たれると同時に、イーダリートは剣の柄で大公の頭を思い切り殴った。


「……」


大公は気絶した。






倒れた大公をディバーノに別れ際に渡された魔縄で拘束していると、物陰に隠れていたミアリナが飛び出してきた。


「お、お二人とも、お怪我はございませんか?」


「ええ。わたしたちは大丈夫ですよ、ミアリナ様」


ミアリナはそれでも不安なようで、眉が下がったままだ。


「イーダリートの事を気にされているのならご心配ありません。大公殿下にも申し上げた通り、イーダリートには魔法が効きませんから」


イーダリートの髪は黒色である。彼の一族は代々黒い髪の者だけが生まれるのだ。彼らは魔法が使えない。魔力が無いためである。何故か昔から黒い髪を持つ者には魔力が存在しないのである。


「魔法に何度被弾しようが、そもそも魔力を持っておりませんから無いものは減りようがないのです」


それを聞いたミアリナの表情は明るく、安堵に満ち溢れていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます(*´ω`*)ぜひぜひ評価ポイントをポチッと、お願いします!評価ポイントは作者のすっごいモチベになります!!また、これからも更新していきますので、ブックマークもよろしくお願いします!


今回はアクション多めです。魔法の名前を考えるのに苦労しました……(すっごい厨二病全開な名前でございます)結局これが一番カッコいいと思ったのです!!!個人的に好きなのは「模樹石の籠ライトキャーベア」です。皆さんのこれかっこいい!とかこんな魔法を出してほしい!という要望がもしお有りでしたら、感想に書いて頂ければ作品にできる限り取り入れさせていただきますので、どしどしお送り下さい!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ