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第九話 決定。そして、因縁。

 腰に深蒼剣(リベリオン)を差してからの、初めての士官学校だ。確か今日は剣術の訓練もあるし、早く剣を振りたくてわくわくしていた。


 誰かにツッコんでもらえるかな?と教室に入ると、やけに賑やかだった。


「おはよう、ロバート。やけに騒がしいけど何かあったのか?」

「あっ、リュート! 今日、闘技大会の出場者が発表されるらしいぞ!」

「へえ、凄いな。一年生からも選ばれるのかな」

「馬鹿っ、それはあり得ないって! 一年生から選ばれた事なんて、創立以降一度も無いんだからな!」


 そう言われると、今年選ばれるのは確かに難しそうだ。何でもこれまでの学業成績を総合的に判断するそうだ。


 まだ士官学校で学んで、一年足らずの俺達一年生が出場するのはどう考えても無理だろう。


 始業が近付くと皆、自分の席に戻り、間もなくしてジェレミー教官がやって来た。


「皆さん、すでに耳に入っているかもしれませんが、一か月後に控える闘技大会の出場者が決まりました。口頭で説明しますので、聞き逃さない様に。まずは三年生――――」


 と、ジェレミー教官が口頭で出場する生徒の名前を上げていく。


 その中にはアレックス先輩の名前もあって、何故か安心した。


 そして最後の一人になるまで、一年生は誰も呼ばれず、それで終わるかと思ったが。


「――――そして、リュート・マイリヒト・リスト訓練兵」

「「「オオオオオッ!!」」」


 瞬間、教室が湧いた。


「おめでとう、リュート!」

「一年生で出場なんて快挙だぞ!」

「頑張れよ! 本当に、頑張れ!」


 特に最近に仲良くなって来たクラスメイト達を中心に盛り上がり、俺に賛辞の声を送ってくれた。


「リュート訓練兵。皆さんが言っていますが、これは創立以来初の快挙です。慢心せず、日々の学業により一層励み、闘技大会でより良い結果を出せる様に精進するように」

「はい!」

「よろしい。では本日の授業、剣術を行うために演習場に移動しますよ」


 その日の授業はいつもの数倍は盛り上がった。


 何より仲良くなった面々は、俺の役に少しでも立てる様にと模擬戦を進んで申し出てくれた。


 ベッカム辺りは不満そうにしていたが、一度俺との模擬戦で完璧に負けているのだから何も言えずに歯痒そうだ。


 とりあえず教室に帰るために、汗を拭きながら渡り廊下を歩いていると思いも寄らぬ人物と出くわした。


「よう。久しぶりだな、リュート」

「ベルウェスト兄様…………」


 鈍く濁んだ銀髪。親の仇の様に俺を睨む瞳。


 懐かしい俺のもう一人の兄、ベルウェスト兄様がそこにいた。


「随分と白状じゃないか。一度も俺に挨拶に来てくれないなんて、寂しかったぜ」

「それは……、ベルウェスト兄様が顔を見せるなって言ったから……」


 二年前。俺はベルウェスト兄様と兄弟喧嘩にしては度が過ぎる、諍いを起こした。


 お互いに真剣を持ち出しての喧嘩――――いや、殺し合いは、父様が止めなければどうなっていたか分からない。


 発端がベルウェスト兄様であり、普段の行いが悪い事もあって、父様は二度とリスト子爵領に足を踏み入れない様に追放処分を取ったんだ。


 士官学校に入ったとは聞いていたし、二つ上だからまだ在学中だと分かっていたけれど、喧嘩の理由があまりに酷かったので会おうとはしなかった。


「随分と楽しそうだな、亜人風情が」


 そう。ベルウェスト兄様は――――


「俺は認めないからな、リュート! お前がリスト子爵家の家名を名乗っている事も、御母様からの寵愛を受けている事も、全てだ!」


 ――――人間至上主義者だ。


「ベルウェスト兄様、俺は……」

「黙れ! お前に兄様となど呼ばれたくないわ、汚らしい! だが一回戦目は絶対に勝てよ? 絶対に俺の手で殺してやるからな!」


 ベルウェスト兄様に押し付けられた紙には闘技大会の組み合わせが記されていた。


 出場者は八名。第一ブロックと第二ブロックに分かれて、トーナメント方式で勝ち上がって戦う。優勝すれば与えられるのは騎士爵と皇帝陛下に顔と名を覚えて貰える名誉。


 俺は出場枠1、ベルウェスト兄様が4。単純に横並びにすれば、俺とベルウェスト兄様が一回戦を勝ち上がればぶつかる形になっている。


 運命なのか、それとも偶然か。


 二度目の兄弟喧嘩が実現するのだ。


 遠ざかるベルウェスト兄様の背中を俺はただ、眺める事しか出来なかった。




 いつもよりもやもやした物が胸の中に渦巻いている。


 正直、体調がすぐれないので授業を早退させて貰った。


「…………」


 誰もいない廊下を歩き、部屋の前に着いた。


 重苦しい溜息を吐いて、今日はもう寝ようと意気込み、扉を開いた。


「えっ……? どうして――――」

「アレックス、先輩……?」


 そこにいたのはアレックス先輩だった。


 どうしてここに? まだ授業では?


 そんな疑問は吹き飛び、俺はアレックス先輩の身体を凝視してしまった。


 男とは思えない凹凸が出た身体、スラっとして筋肉が程よく付いている。柔らかそうと言うよりは美しい。肉体美がそこにはあった。


 そして何よりも、男にあるべきアレが無いという事実。


 つまり、導き出される答えは。


「アレックス先輩はおん――――「えっちぃ!」ゴバァッ!?」


 鳩尾を突く正拳突き……、効いたぜ。


 そうして俺は意識を手放した。


 しかし夢の中で何度もその目に焼き付いたアレックス先輩の全裸を夢に見るのだった。



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