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第八話 デート!?

「ふふっ。よっぽど嬉しいみたいだね」

「えっ? そ、そうですか?」

「うん。だって顔が緩みっぱなしだよ」


 可笑しそうに笑うアレックス先輩に言われて、俺は初めて自分の頬が緩んでいる事に気が付いた。


 気を引き締めようにも、腰に下げている深蒼剣(リベリオン)の重みが嬉しくてにやけてしまうんだ。


「さて。これからどこ行こうか!」

「えっ、まだ遊ぶんですか?」

「当たり前だよ! 今日は一日中僕に付き合って貰うんだから、覚悟してよね!」


 と言って、アレックス先輩に再び手を引かれ、街に駆り出すのだった。


 帝国の首都帝都はやはり賑わっており、様々な店があった。


 ある店に行けば、幻影魔法を利用したゲームが行われていた。敵を倒した数だけ得点が加算される方式みたいだ。


 実際に生身でやるわけじゃなく、特殊な魔道具で生み出した分身体を操作して戦った。だが分身体は一定の身体能力に定められていて、俺達よりも大幅に劣る分身体を操るのはかなり骨が折れた。


「うわっ、ちょっ、多いよ!?」

「アレックス先輩、そっち来てます!」

「わっ、わっ、わっ、た、助けてリュート君!」

「俺も手一杯ですよ!?」

「ぎゃあああっ!」


 実際の反射神経と俺達の身体能力を持ってすれば、秒殺できるような相手ばかりなのに実際に動かす分身体が遅く弱すぎるせいで、アレックス先輩へのカバーが遅れたり、思ったよりも手間取ったりで散々だった。 


 結局、ラスボス目前に倒されてしまったが、凄く楽しめた。


「う~んっ。これなんてどうかな?」

「良いですね、でもアレックス先輩の綺麗な銀髪なら、こっちの色の方が」

「き、綺麗!?」

「えっ? 綺麗ですよ」

「そ、そっか。ありがとね……」

(あのお客さん、何で男同士でイチャイチャしてるんだろう……)


 お互いに私服が少ない事もあり、服屋でお互いにコーデを作った。


 事実を言っただけなのにアレックス先輩が大袈裟に照れるものだから、こちらまで照れてしまったり。


 というかアレックス先輩、可愛過ぎる。


「…………」

「…………」

「この本、面白いですね」

「そう? 良かったよ」


 二人で言った帝都の図書館で、お互いのおすすめの本を読んだ。


 静かな空間だったのであまり喋らなかったが、アレックス先輩と過ごす静寂の雰囲気が好きだった。


 図書館を出るとちょうど、辺りが陽色に染まった夕暮れになっていた。


「お腹空いたね~、何か食べて行こうか」

「そうですね。色々とお店が


 今日、これまでの日々が凄く楽しかった。


 だから俺は失念していた。


 ここがどこで、自分が何者なのかを。


 飲食店が多く並ぶ露店に来て、美味しそうな店を見つけ、入ろうとすると――――。


「あん? 半森人じゃねえか。駄目だね、ウチには入れねぇよ」

「は?」


 溢れ出るアレックス先輩の殺気に当てられて、店主は尻餅を突き、店内の喧噪は一気に静まり返った。


「このっ、よくもそんな事を……!」

「あ、アレックス先輩。良いですよ、帰りましょう? ね?」

「フーッ、フーッ! ……ふん!」


 このままだと本当に斬り掛かりそうだったので、慌ててアレックス先輩を連れてその場を後にした。


「……ごめんね、リュート君。楽しい思い出にしてあげたかったのに……」

「良いんですよ。俺もここが帝都だって事を失念してましたから……」


 ここは帝都。今なお、人間至上主義の思想が色濃く残る場所。


 そして俺は半森人で、その差別の対象なのだ。


 アレックス先輩は申し訳なさそうに呟き、そのまま俺達はどこの店に入らずに飲食店街を抜けた。また拒絶される事が怖かったのだ。


「そ、それじゃあ、僕が寮で何か作ってあげるよ!」


 そんな暗い雰囲気を晴らす様に、アレックス先輩が明るい声で言った。


「あはは、でも僕の料理なんかよりお店の料理の方が――――」

「いえ! 食べてみたいです!」


 アレックス先輩が作る料理は、純粋に食べてみたかった。


 というか今の気分は帝都の料理よりも、アレックス先輩の手料理の方が食べたい。


「そ、そう? じゃあ一緒に食材を買って戻ろ~っ!」

「はい!」


 そうして俺はアレックス先輩と一緒に食材を買い込み、寮に戻るのだった。


 寮の自室にはキッチンや風呂も完備されており、食堂を利用せずとも自分達で調理して食べる事が許可されている。


 しかし、ほとんどの貴族は料理は「平民や奴隷がするものだ!」という考えを持っていて、キッチンが利用される事は無いと思っていた。


 実際俺自身も料理に携わる事が無かったので、アレックス先輩が料理を出来るというところに驚いた。


「僕の実家は男爵だったし、本邸じゃなくて別宅に住んでいたからね。メイドはいたけど、僕も何か手伝いたくて料理をしていたんだ」


 アレックス先輩が良い人だという事は知っていたけれど、まさか料理までやっていたなんて。


「さあ、出来たよ!」

「わあ、凄いですね……!」


 机の上に垂涎ものの料理が並んだ。


 見覚えが無い料理ばかりだ。


「いただきます」


 アレックス先輩に聞いたところ、白米と味噌汁という料理だそうだ。


 確か聞いた噂じゃ、王族が好んで食べると聞いた事がある。


 それ以外の貴族には好まれない食べ物だと聞いていたが、味噌汁を一口啜ると身体の芯にまで染み渡る暖かさと、口内に旨味が満ちた。


「美味しい!」

「そ、そうかな?」

「滅茶苦茶美味しいですよ! 毎日飲みたいくらいです!」

「へぁぇ!?」


 顔を赤面させたアレックス先輩はしばらく呆けた後に頭を左右に振るい、「そ、そうだよ、リュート君があんな常套句知ってるはずないんだし、大丈夫大丈夫……」と小さく呟いた。


 それからアレックス先輩がたまに料理を作ってくれる様になった。


 深蒼剣(リベリオン)を手に入れたり、アレックス先輩の手料理を食べさせて貰ったり、今日は忘れられない日になった。




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