第二十三話 婚約
晩餐会は終わったが、俺は皇帝陛下に呼び出されて皇城の応接室に来ていた。
部屋に配置された家具の位置、芸術品の数々、光が差し込む加減、全てが調和して部屋がまるで一つの芸術品の様だ。
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
「いや、だってこれ、実質アレックス先輩と交際してますって伝える機会ですよね?」
緊張する俺の隣には、アレックス先輩が座っていた。
優雅に出された紅茶を啜っているが、それは皇帝陛下と親族だから緊張しないんだ。
正直、皇帝陛下とお話するとしても何年もあとの事だと思っていたのに、突然……。今だに信じられないし、心の準備だって出来ていない。
「待たせたな」
「っ、陛下!」
「立たずともよい。堅苦しいのは疲れるからのう」
「は、はい」
皇帝陛下は護衛も連れずに一人だけで部屋に入って来た。
深々とソファに腰を下ろして、ギラついた目で俺を睨んだ。
「それで、アレックスと交際しているらしいのう」
「ッ! は、はい! その通りであります!」
思わず、士官学校での返事をしてしまった。
そうさせるだけの威圧感が皇帝陛下にはあった。
「別に問い合わせているわけでは無い。しかし、そうか。アレックスよ、良かったな」
「うん! 僕は今、幸せだよ! 御父様!」
「そうか、そうか」
皇帝陛下は目頭を押さえて、上で仰いだ。
「リュートよ。様々な障害があると思うが、娘を頼む」
そして皇帝陛下は頭を下げた。
皇帝としてでは無い。ただの一人の父親としての頼みだった。
「はい、絶対に幸せにします」
俺はしっかりと頷いた後、皇帝陛下は頭を下げたまま「頼む」と深々と告げた。
落ち着き、改めて話を仕切り直した。
「話は変わるが、其方も準男爵になったのだから正妻が必要であろう?」
「……そう、なりますね」
俺とアレックス先輩は、法律的に結婚は出来ない。
今は領地を与えられていないし、一代貴族扱いだが、出世して男爵以上になれば世襲させる事が出来る。
魔法が使える者が多い貴族には、多くの子供を残すという役割を与えられているので、俺も子供を残さないといけない。
政略結婚は覚悟していたが、やはりアレックス先輩と正式に結婚出来ないのは辛かった。
「そこでだ。クリスティーナを妻に貰わんか?」
「っ、クリス様をですか!?」
「うむ。パーティ会場でもお主とは楽しそうに喋っていたし、まだ婚約者もいない。適役であろう?」
「ですが、クリス様の気持ちもありますし……」
「そうか? ……おい、クリスを呼べ!」
皇帝陛下が叫んだ。
それから一分もしない内に扉が開かれて、クリス様が入って来て、俺を見つけた途端満面の笑みを浮かべた。
「リュート様っ!」
可愛い。
「実はお前とリュートを婚約させようと思っていてな」
「本当ですか!?」
「決まったわけでは無いがな。リュートが其方の気持ちを知りたいと言うのだ」
「わたしはリュート様と結婚出来たら、すごく嬉しいです!」
「だ、そうだが?」
チラッとアレックス先輩に目配せをするが、「良いんじゃない? むしろ、悩む必要が無いよ」とあっけらかんと言われた。
「……分かりました。よろしくお願いします」
「わあっ! やったぁ!」
嬉しそうに喜ぶクリス様。
「アレックスよ。クリスが正妻という事で構わないな?」
「はい。僕は世間的には男ですから、当然です」
アレックス先輩の表情を確認したが、嫌がっている様子は無かった。
クリス様もアレックス先輩とは反対側に座り、二人の婚約者に挟まれる形となった。
「今日は二人とも王城に泊まって行くと良い。今日は良い一日になった。リュートよ、一杯付き合ってくれるな?」
「は、はい! ご一緒させて下さい!」
「もう、あんまり飲み過ぎない様にね」
「リュート様、私もご一緒します!」
いつの間にか王妃様やヴィクターまで混ざり、晩餐会よりも賑やかな夜が過ぎて行った。
さあ、第一章完結です。
間話を挟むつもりですが、二話か三話かはまだ決めてないですが、割とストーリーに関わる話もいれようかなーって思ってるので是非読んで下さい。
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急に思い浮かんだアイデアで他の作品を書いたせいで10/18日時点でストック無いです!
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