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第二十二話 銀獅子からの叙爵


 そして晩餐会が進み、様々な貴族や商人と交流を重ねた。


 中には冒険者の支部長もいて、卒業後の事を聞かれた。恐らくスカウトするつもりだったんだろうが、俺は軍人になりますと伝えて諦めて貰った。


 まあ、いつか冒険者になって世界中を旅するのも面白そうだ。


「おお、アレックス君!」

「ブラント騎士団長!」

「そしてリュート君だな」


 晩餐会が終わりに近付くと、ブラント騎士団長から話しかけられた。


「……少しアレックス君と話がしたいんだが、借りてもいいかな?」


 ここで話さないという事は俺には聞かれたくない話という事か。


「勿論です」

「うん。それじゃあアレックス君、こっちに」

「わかりました」


 そう言って、ブラント騎士団長はアレックス先輩を連れて、会場からバルコニーの方に出て行った。


 あそこなら秘密裏な話にはぴったりだろうな。


 さて俺はどうするか。


「楽しんでいる様だな」

「はい、とても――――っ?」


 威厳ある声。


 振り返ると【銀獅子】を思わせる、猛々しい銀の髭と鋭い眼光。


 間違うはずが無い。俺達を導く人であり、憧れの存在だ。


「皇帝陛下!?」

「なに、畏まらなくても良い。今日は無礼講で構わんよ」


 慌てて跪こうとすると、皇帝陛下の手で制されて止められてしまった。


 皇帝陛下が無礼講だと言うのなら、従わねばむしろ無礼にあたる。


「それでは……」

「うむ」


 跪く事をやめ、皇帝陛下と同じ目線に立った。


 同じ目線とは言っても身長(ガタイ)が違い過ぎる。


 皇帝陛下は身長190cmを超えた筋肉質だ。


 対して俺は身長170cmを少し超えた程度で、身体に半分流れた森人の血のせいで筋肉が付きにくいのだ。


 仕方が無いとは言え、男としては少し情けない。


「ふうむ。思ったよりも小さいな」

「陛下に比べれば私など、まだまだです」

「うむ。我も若い頃は剣を必死で鍛えたものだ」


 知っている。【銀獅子】の呼び名には二つの意味合いがある。


 一つが現在の他国との外交や貴族達に強気な姿勢を見せる、政治的な獅子。

 二つ目が若い頃に各地の剣術大会を荒らし、冒険者としてAランクにまで上り詰め、戦場にも自ら赴いた苛烈な一面を持っていた。


「あの……」


 くいくい、と皇帝陛下の裾を引っ張る小さな存在があった。


「おっと、忘れておった。娘のクリスティーナだ」

「だ、第七王女をしています! ク、クリスティーナ・ヘレン・オリアスと申します! クリスとお呼び下さい、リュート様!」


 さらさらと風になびく銀髪をリボンで結んだ、可愛い少女がいた。


 あまり社交界の場に慣れていないのだろう、所々でたどたどしい口調で挨拶をしてくれた。


「分かりました。ではクリス様とお呼びしますね」

「いえ! クリスと呼び捨てで構いませんわ!」

「えっと、それは流石に。王女様ですし……」

「だめです! クリスとお呼び下さい!」


 何故そこで食い下がる?


「ハハハ! クリスは闘技大会を観戦していてな、其方を気に入ったらしいのだ」

「素晴らしい戦いでした! びゅんって剣が出て、ぐわーって!」

「ありがとうございます。では、公衆の場以外では呼び捨てさせていただきますね」

「はい!」


 貴族の子息令嬢として育てられると、貴族らしい笑顔が叩き込まれる。


 だがクリス様は、まだ年相応の可愛らしい笑顔で笑っていた。


「わはは! 仲良くなった様で何よりだ」

「あっ、も、申し訳ありません……」

「何を言う、我としては朗報だ」


 朗報?


「さて、リュートよ。少し一対一で話がしたいのだが」

「……あっ。えっと、お母様のところに行っていますね。御父様」

「うむ。気を付けるのだぞ」


 空気を読んで、クリスが王妃様が会話しているテーブルに向かって行った。


 流石は王族だ。幼い頃からそういう勉強もしているのだろうか。


「さて」


 それはさて置き、【銀獅子】と一対一で話すのか……。


「ホワイトベティを倒すとは、本当に将来有望だ。卒業したら我に仕える気は無いか?」

「……申し訳ありません。私自身の夢があり、どうしても軍に

「我に仕えながら戦地に向かえばよい」

「恐れながら申し上げます。それでは意味がないのです、陛下」

「ほう」

「陛下が【奴隷解放宣言】をしてから三十年。そのおかげで俺は誕生したと言っても過言ではありません」


 事実、それまでは亜人の側室入りは禁忌とされていた。


 奴隷解放宣言がされたからこそ、父様と母さんが出会い、俺が生まれたんだ。


「しかし、陛下の想いが国民に伝わっていないのもまた事実」

「…………」

「俺が士官学校創立して、初めての亜人の生徒というのが良い証拠です」

「確かに、な」

「俺は帝国に知らしめたいのです。例え亜人であっても、必ず役に立つと。例え亜人であっても、帝国国民の一人であり、国のために尽くすという意は変わらないと」

「ならばこそ、我の家臣では無く、ただ一人の半森人として戦いたいという事か。

「その通りです。全ては公平な世の為に」

「……そうか。その夢が叶う事を願っているぞ。リュートよ」


 皇帝陛下は優しい顔付きに代わり、俺の肩に手を置いた。


 大きくて分厚くて、暖かい手だった。


「さて。そんな若者に我からも一つプレゼントを用意しよう」


 皇帝陛下はワイングラスをテーブルに置き、スッと眼付きを尖らせた。


「注目せよ!」


 大声量。


 会場中に響き渡る声で、皆が静まり返り、なんだなんだと周囲に集まり出した。


「これより臨時の論功行賞を開始する! ヴィクター、アレックス、スタン、リュートの四名は余の前に並べ!」


 そして会場が騒めく。


 本来、論功行賞とは然るべき場所で、然るべき面々で行うものである。今日は酒が入った晩餐会であり、集まった面々には帝国に関係ない他国の商人までいるほどだ。


 だというのに行うという事は、それだけの発表があるという事か。と皆が真剣に皇帝の一挙手一投足に注目した。


 俺やアレックス先輩は皇帝陛下の前に並んで跪いた。











「この四名は士官学校の生徒の中でも、最も熾烈を極めた戦いに身を投じた勇敢な若者たちだ。その中でも最も大きな戦果を挙げた者を除き、他の者達には騎士爵を授与する事とする!」


 おお!と会場が湧き、拍手の渦が巻き起こった。


 士官学校は軍人育成の場だ。闘技大会優勝者以外では余程の事が無い限り、在学中に爵位が与えられるなど稀だ。


 しかも一気に三人も……、いやいや待て。一人を除きと言ったぞ? それはどういう意味なんだ? と誰もが疑問に思った。


 その時。


「……リート・マイリヒト・リスト! 前へ出よ!」

「ッ!? は、はい!」


 一人の半森人が列よりさらに一歩前へ、皇帝陛下の目前に出た。


「其方は闘技大会では一年生でありながら、格上と思われた上級生二名を打破し、テロリストが襲撃して来た際には【マタンブラン】の幹部であるホワイトベティを単独で撃破して見せた」


 ここでさらに会場が「あの悪名高いホワイトベティを?」「Aランク冒険者ですら彼奴に殺されたと聞いたぞ」「そんな化け物を単独で……」と貴族達が騒めいた。


 この会場にいる皆、【マタンブラン】やホワイトベティの脅威を知る者ばかりだった。だからこそ、今の今まで信じられなかった事が事実だと分かった。


 あんなに幼い少年がホワイトベティを倒したんだ。


 皇帝の話の途中故、私語は一つも無かったが誰もが驚いていた。


「よって我はリュート・マイリヒト・リストに『準男爵』の爵位を与える事とする!」


 そして投じられた、皇帝陛下の爆弾発言。


 騎士爵よりもさらに一つ上の爵位だ。


 騎士爵は前例がある。闘技大会があったからだ。


 準男爵など、貴族学校ですら前例がない程だ。


 入学したばかりの子供が叙爵するなど前代未聞であった。


「まだ十六にも満たない子供が……」「士官学校出というのは問題が……」「何より半森人など……」


 当然、会場は喚き立つが皇帝が一声のもとに黙らせた。


「静まれ! 我は十五歳という若さで【マタンブラン】を討ち倒したリュートの実力は帝国の繁栄に必要だと判断した! 何よりも、これほどの実力者に爵位を与えずに、他国に流れてしまえば大きな損失となる! 違うか!?」


 反論は一つも無かった。


「リュートよ! 皆と共に今後も我に、帝国に仕えるのだ! 全ては帝国の繁栄のために!」

「「「全ては帝国の繁栄のために!」」」


 こうして前代未聞。半森人であったリュート・マイリヒト・リストは準男爵を叙爵された、歴史に名を残す晩餐会が終わった。



ちなみに書く機会が無さそうなのでここで書いて置きますが、リュートが来る前までアレックス先輩と同居だった奴は、かなり素行が悪い奴だったけどアレックスにぼこぼこにされて、礼節をわきまえて士官学校を卒業して行きました。

今は戦場で頑張ってますが、そろそろ軍司令部への配属が命じられそうです。


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