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第二十話 灼煉槍

照光剣(ライトス)


 照光を受ける事で刃が輝く、照光剣ライトス。アレックスの愛剣だ。


 酷く目立つ事から士官学校の演習には不向きなので、普段は別の剣を使用していた。


 ある条件が整った共闘できる仲間がいればその力は何倍にも跳ね上がる。


「ヴィクター!」

「ああ! “閃光(フラッシュ)”!」


 ヴィクターが目を瞑りたくなる程の光球を浮かばせ、閃光を放った。


「目を瞑って!」

「「「ッ!」」」


 ヴィクターの一声で、ブラントやスタンも目を瞑った。


 突然の光を受けた事により、黒衣のテロリストが動きを鈍らせた。


 しかしこれは、閃光によって視界を塞ぐ事だけが目的ではない。


 照光剣は“閃光”をその身に宿し、太陽の如き輝きを放った。


「“一刀流 刺突千閃(ジ・リエ)”!」 


 ――――照光剣の本質は光を宿し、光魔法の性質を発する力だ。


 光の性質とは“光速”である。一瞬にしてアレックスは、半数以上のテロリストを屠った。


「おいおい、俺も忘れるなよなァ!」


 スタンも“風魔流”で敵を切り裂いた。


「ククク。今年の士官学校は豊作だな!」


 騎士団長のブラントは猛々しい笑みを浮かべ、並みいる敵を薙ぎ倒す剛剣を振るった。

 




 氷漬けになった地面から冷気が立ち上る闘技場で、(リュート)(ホワイトベティ)が激突していた。


「氷剣乱舞!」

「“炎槍(ファイアジャベリン)・六連”!」


 無数に周囲を舞う氷剣を、こちらも炎槍で打ち落として行く。


 その隙にホワイトベティが接近して来るが、俺もまた深蒼剣を握り直して向かい合った。


「くううう……!」

「ほんと~に、厄介な事をしてくれたねェ~!」


 全快になった俺はホワイトベティにも押し負けなかった。


 しかしホワイトベティの本来の動きは、双剣による乱撃だ。


「しょうがないなァ! 本気を見せてあげるよ~ォ!」


 近距離から氷の礫を放たれて、距離を取ってしまう。


「“氷鎧”!」


 そして、さっきの様な目に見えない冷気の衣では無く、身を護る事が出来る氷の鎧を身に纏った。


 さらに両手に今までと比べものにならない魔力が込められた、双剣が握られていた。


「さァ……、殺し合いだ~ァ!」

「死んでも死ぬか!」


 そこからは死闘だった。


 下から振り上げる一撃をホワイトベティは軽々と避け、素早く身を翻して反撃(カウンター)をいれられた。


 左肩が微かに出血するが、すぐに深蒼剣(リベリオン)でホワイトベティを吹き飛ばす。それから“炎球”を放ち、距離を取らせた。


 態勢を立て直してもう一度接近する。


 深蒼剣を振るってホワイトベティの双剣を弾き、右肩から振り下ろす袈裟斬りを喰らわせたが、“氷鎧”が頑丈過ぎて傷一つ負わせられなかった。


 それで諦めてたまるかと、“炎弾(ファイアバレット)”を三発放ったが、全て直撃したのに全くの無傷。


「アハッ」


 それからホワイトベティが地面すれすれにしゃがみ、下段からの連撃を繰り広げた。


 深蒼剣(リベリオン)で何とか剣を受けたが、対応しきれずに跳躍して距離を取った。


「君との闘いはすっごく楽しいけど~ォ、そろそろ終わらせなきゃね~ェ」


 そう言って、ホワイトベティは胸付近に冷気を凝縮した弾丸を生み出した。


「“氷撃砲”!」


 一瞬にして、弾丸は俺の目の前に飛んで来た。


 慌てて深蒼剣(リベリオン)で受け止めたが、瞬間に刃が砕け散ってしまった。


 ――――これまでありがとう。ごめんな。


 最初の相棒に別れを告げ、それでも俺は前に踏み出した。


 これだけの威力なら連発は無いはず――――。


「“炎」


「“氷撃砲”!」


 二撃目――――!?


「ゴアァッ!!」


 俺は防ぐ手段を持たず、無防備な腹に大砲の直撃を受けてしまった。


 骨が砕け、内臓が潰れた音が聞こえた。


 地面を転がりながら血反吐を吐き、何とか視線をホワイトベティに向けた。


「アハハハハ! アハハハハハハハハハハ!」


 ホワイトベティは勝利を確信して、狂気的な高笑いを上げる。


 優越感に浸っているから、今すぐに追撃は来ないだろう。


 俺はふらつきながら、何とか膝で立った。


 勝てない。普通にやっていたら勝てないぞ。


 疑似噴火(フレイム・ボルケーノ)も恐らく、簡単に防がれてしまうだろう。


 アレを使うか? だが…………まあ、いいか。人外だし。


「ありがとうな、ホワイトベティ」

「はァ~~~?」

「助かったよ……、本当に……」


 この魔法が完成した時、二度とお披露目する機会は無いと諦めていた。


 人に使って良い魔法じゃなかったから。人外には丁度良い。


 闘技場の壁に背がぴったりと付くほど、俺は大きく跳躍して後退した。


「どうしたのォ? もう諦めちゃったァ?」

「いや、俺にも周囲を水堀に囲まれた闘技ルールじゃ使えない魔法っていうのがあるんだよ」


 闘技場の壁に体重を乗せ、右腕を突き出し、左腕で支える様に右肘を掴んだ。


「―――あまりにも反動が強すぎてね」


 鎮めようとしても抑えきれない炎が、右腕が深紅に燃え上がる。


 燃え上がる灼熱。あの時よりももっと、ずっと。熱く。


 まだだ。もっと一点に、もっと凝縮するんだ。


「【灼煉槍(グングニル)】」


 瞬間、紅い閃光が闘技場に満ちた。


 何が起こったのか、誰も分からなかった。


 技を使った俺と、その槍を向けられた本人(ホワイトベティ)以外にはな。


「何それ。反則(チート)じゃん」


 すでに狂気に満ちた笑みをやめたホワイトベティは、真顔でそう言った。


「ゴボァッ!」


 次の瞬間にホワイトベティは大量の血を吐血した。


 その細い腹には風穴が空いていた。それどころでは収まらず、俺の腕の先から一直線に、ホワイトベティがその身に纏った“氷鎧”や闘技場の壁すらも焼き貫かれていたのだ。


 俺がベルウェスト兄様に勝つために開発していた、切り札がこれだ。


 本来なら灼熱の業火を放つ、広範囲を焼き尽くす魔法だ。あの“闘技場”で初めて使った時も、空に繋がる穴の岩盤を溶かしてしまった程だ。


 単純に火力が強過ぎて人間には使わないと自分で禁じたが、ホワイトベティ程の人外ならこのぐらいがちょうどいいだろう。


「このっ、クソが……」


 ホワイトベティは地面に倒れ伏したまま、悪態を吐いた。


 腹に穴が空いて、かなりの量を吐血しているからもう動けないだろう。


「そーだな……」


 だが、俺もただじゃ済んでいない。


 反動が強すぎるせいで踏ん張りがきかずに後ろに吹き飛んでしまうのだ。だから何か頑丈なものに背中を預けなければ俺が身体ごと吹き飛んでしまう。


 それでも衝撃は吸収しきれずに支えとして背中を預けていた壁も、蜘蛛の巣上にヒビが入り、魔法を放った衝撃で右腕は砕けてだらんと下がっていた。背中も痛いし、他にも何か所か骨が折れているだろうな。


 全身がめり込んだせいで身動きが取れない。


 だがもうこれで終わりだ。


 そう安心しきっていたのに、ホワイトベティは立ち上がった。


「ま、だァ……」

「嘘だろ」


 眼は虚ろとして、立ち上がったといっても、まるで死ねない人形の様だ。


「ハァ、ハァ……! ウチは、ウチは死ねないんだよ! 来る聖戦に向けて、絶対になァ!」


 ホワイトベティはそう叫び、足元から冷気を放った。


 来る――――。


 そう思っても、構える事すら出来ずに成り行きを見守る事しか出来なかった。


 ホワイトベティがやったのは、自らを氷結に閉じ込める。という行為だった。


 足元から徐々に氷結して行き、ゆっくりと全身を覆って行った。


「気を付けなよォ~。マタンブランにはウチ以上の化け物がいっぱいいるからね~ェ」

そして狂気的な笑みを浮かべたホワイトベティは「またね」と言い残して、自らが封印された。


 死なないために自分を封印したのか。


 結局、何が目的か分からないまま、逝ってしまったな。


 まあ、もう俺の役目は終わったし、倒れてもいいかな……。


「リュート君!」


 その時、愛しい人の声が聞こえた。


 激痛の中、何とか首を動かすと走って来たアレックス先輩が見えた。


「アレックス先ぱ――――んっ!?」


 柔らかくて、甘い。アレックス先輩とのキスの味だ。


 戦いの後でクタクタなのにキスだけはしっかりと感じた。


 ただ声を聞いてキスをしただけなのに、一瞬で全身から力が抜けて、俺は意識を手放した。




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