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第十六話 兄弟喧嘩

 試合開始と同時に魔力を練り上げる。


 ベルウェスト兄様の剣術の才能はアレックス先輩に比肩すると言っても過言では無い。接近戦では明らかに不利だ。まだ俺に分がある中距離戦で強引に圧殺する!


「「“炎弾(ファイアバレッド)”!」」


 しかし仮にも兄弟だ。全く同じタイミング、同じ数の炎の弾丸を放ち、互いに相殺されてしまった。


「テメェの考えそうな事だよなァ、リュート!」


 作戦を看破されてしまい、俺の心中に一瞬の動揺が生まれる。


 それによって魔法の発動が遅れてしまった。


「くっ、“炎壁(フレイムウォール)”!」

「遅ぇ!」


 ――――懐に入られた!?


 悠々と炎壁を搔い潜ったベルウェスト兄様は俺の正面にまで接近して来た。


 冷たい瞳と目が合い、背筋にぞっとする様な寒気が奔った。


「“三連斬”!」

「ぐっ、く……!」


 かち上げ斬り、上段振り下ろし、右肩から打ち下ろす袈裟斬り。


 流れる様に攻撃を繋げるベルウェスト兄様得意の型だ。


 俺は深蒼剣のおかげで何とか受け止めたが、剣身にかなり負担を掛けてしまった。


「チッ、生意気に良い剣持ちやがって。……“(ファイア)”」

「熱ッ!?」


 炎なんて、火を起こすだけの魔法で何をするんだと思えば、俺の剣を握った両腕が炎に包まれた。


 一瞬でも高温の炎に焼かれたのだ。


 手が焼け、剣の(グリップ)が高温に熱されて反射的に手放してしまいそうになった。


 駄目だと、自分に言い聞かせる。


「“(ウォーター)”!」


 すぐに水魔法で鎮火し、手と(グリップ)が冷まされた。


 これで剣は握っていられるが、少し滑るな。もしも鍔迫り合いの時に剣の持ち手が滑ってしまったら……。


「おい! リュート!」

「ッくぅぅぅ……!」


 二度、鍔迫り合い。完全にベルウェスト兄様に押し込まれ、数歩退いてしまうが、何とか態勢を立て直して踏ん張った。


 今度は何があっても手を緩めないぞ!


 そう思わされた時点で、俺はベルウェスト兄様の掌の上で転がされていたのだ。


「下ばっかりに気ィ取られてるんじゃねえよォ!」

「ゴッ、アアァ……!」


 腹に強烈な激痛。


 視線を下に向ければ、ベルウェスト兄様の蹴りが、深々と俺の腹に突き刺さっていた。


 二発、三発とさらに追撃されて胃酸が逆流する程の激痛に苛まれる。


 鍔迫り合いしていた剣から力が抜け、簡単に押し負けてしまった。身体ごと後ろに吹き飛ばされ、ベルウェスト兄様がトドメの一撃を入れるために急接近して来た。


「これで終わり――――「ゲホゲホッ、……“黒煙(スモーク)”!」だ!」


 反射的に黒煙を放つ。一瞬で黒い煙で場所(フィールド)全体を覆った。


 間髪入れずに横に転がると、甲高い金属音が響いた。


 恐らくベルウェスト兄様が振り下ろした剣が、地面に当たったのだろう。


 あと少し遅れていれば確実に重症、あるいは命すら奪われていた可能性もある。


 なるべく音を立てない様に横に転がり続け、俺は場所(フィールド)の端にまで避難した。


「チッ。面倒な真似を」


 そんな声が聞こえた。


 ベルウェスト兄様が使える魔法は炎魔法のみ。それに魔力量も多くないから、一気に黒煙を吹き飛ばす荒業は選ばないはずだ。


 ベルウェスト兄様程の実力なら、五感を研ぎ澄ませて接近して来た瞬間を返り討ちにする事も容易いはず。


 ならば、恐らくベルウェスト兄様は「待ち」の戦術を取るだろう。


 おかげで少し落ち着いて作戦を考える時間が出来た。


(――――クソッ! 俺の剣が通用しなかった!)


 声を出すわけにも行かず、心の中で叫んで悔しがる。


 ベルウェスト兄様と俺の近接戦のレベルが違い過ぎる。


 今だに魔法剣士を目指していて、この技量(レベル)。この差。


 仮に剣術だけに専念されていれば、俺は今頃……。


 ぞくっと背筋に冷たい汗が流れるが、今は頭を振って気を取り直す。


 今ある現実はベルウェスト兄様が、魔法と剣術を併用しているおかげで付け込む隙があるという事だ。


 単純な剣術勝負ではベルウェスト兄様には通用しないし、魔法で戦う方が現実的だ。


 しかしベルウェスト兄様は脚が速い。


 魔法を放つまでの僅かな時間で接近されて、一気に負けてしまうだろう。


 俺の勝利への必須条件は“ベルウェスト兄様が魔力切れを起こし、身体強化を失う事”だ。


 それに俺の切り札のあの魔法を使うには、ベルウェスト兄様の意識を上に向ける必要がある。



 ………。



 ……………。



 …………………整った。



 仕込みを終わらせた俺は濡れた(グリップ)を服で拭い取り、立ち上がる。


 それから大量の酸素を肺に取り込んで。


「――――ベルウェスト兄様ぁあああ!」


 叫んだ。


「ッ!“炎球(ファイアボール)”!」


 ベルウェスト兄様の反射神経は凄まじく高い。


 黒煙の中でずっと気を張った状態で急に聞こえた俺の叫び声だ。反射的に魔法を放ってしまうのも、無理は無いだろう。


 本当に思った通りに動いてくれて助かる。


「あ?」


 俺は軽々と避け、お互いの顔が伺える程、一直線に黒煙に穴が空いた。


 そこから少しずつ黒煙が晴れ、俺が用意していた数々の魔法が露わとなった。


 ベルウェスト兄様は、そのあまりの数に呆けていた。


「第二ラウンド開始だ」


 高々と掲げた腕を振り下ろす。


 それは周囲に浮かぶ、凡そ三十の炎弾が一気に放たれる事を意味した。

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