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第十四話 風にも負けず

 何度、剣を合わせただろう。


「やるじゃねえか、一年坊主!」

「くっ、うおおおおおっ!」


 俺はスタン先輩が纏う“俊嵐鎧”の防御を崩せないまま、接近戦を繰り広げていた。


 魔法剣士としての闘い方を主とする、スタン先輩の“風魔流”。剣に風を纏わせる事で切れ味も速度も果てしなく上昇している。


 正直、前までの長剣(ロングソード)だったら、一度刃を当てられただけでスパッと切断されていただろう。


 こうして打ち合えているのは深蒼剣(リベリオン)のおかげだ。


「“乱土礫(ストーンラッシュ)”!」

「チッ、“風魔流 三の太刀 乱風斬刃(らんぷうざんば)”!」


 これまでの叩きで砕けた場所(フィールド)の破片を利用して礫を飛ばすが、スタン先輩の“風魔流”を前に簡単に撃ち落とされてしまった。


(解せない)


 スタン先輩はさっきから近距離に近付き、近接戦に持ち込もうとしている。


 それにあの鎧から向けられる風圧も、高速移動も長らく使われていない。


 俺がこうして接近して鍔迫り合い出来ているのが、何よりの証拠だ。


 振り下ろされた剣を受け止めながら思考を巡らせ、一つの結論に辿り着いた。


 ――――焦っているのか? もしかして魔力消費が激しいから?


 勝負を焦っているのも“俊嵐鎧”の魔力の消費が激しく、あの精密な魔力操作も身体に近い範囲だけのものだとすれば……。


「っ、“黒煙(スモーク)”!」


 黒い煙を発生させ、視界を奪った。


 効果範囲を絞ったから、場所(フィールド)全体には及んでいない。


 俺はすぐに黒煙の範囲外に出て、スタン先輩の背後に回る。


 そしてこれだけ時間が経っても風げ黒煙を吹き飛ばさないという事は、やはりスタン先輩の魔力量は限界に近いという事だ。


「“乱気流(ウィンド)”!」


 俺が背後に回ってからようやく、風を起こして黒煙を吹き飛ばした。


 一瞬も手を緩めずに俺は背後から突進する。


「くっ、“俊嵐鎧・防風”!」


 それに気付いたスタン先輩が、背後に向けて突風を放った。


 俺は押し戻されるが、風が止むと同時に“炎弾(ファイアバレット)”を放つ。


「無駄だ! こんな物、俺の風の前じゃ無力!」


 案の定、風によってかき消された。


 だが続けて俺は“炎弾”を放つ。何度でも。


「無駄だと……っ!」


 ――――見えた! 瞬嵐鎧の一部が確かに緩まった。


 ここが攻め時、突破口!


「“水槍(アクアジャベリン)”、“土礫(ストーンバレット)”!」


 残りの魔力、ほぼ全てを費やして、大量の魔法を用意して放つ。


 まともに狙ってもいないが、もう知らん。とにかく数で圧すんだ。


「“俊嵐鎧・防嵐”!」


 全て打ち消される。


 だが、確実に風が弱まっている。


「ウオオォォ!」


 突撃だ。身体強化で真っすぐに駆け抜ける。


「“突風”!」


 俺の正面に凄まじい風が吹く。


 身体ごと浮きそうになるのを堪え、俺は――――


「――――“(ウィンド)”」


 気流操作。といっても身体に近い部分だけだが、俺を押し戻そうとする突風の気流を、後ろに逸らすぐらいならわけないさ。


 高らかに、スタン先輩の頭よりも高く跳ぶ。


「クソ。俺が“風”に負けるのかよ」


 刹那の一瞬、スタン先輩と目が合った。


 そして小さな声で悪態を吐かれ、思わずふっと笑ってしまった。


 俺は深蒼剣(リベリオン)を高々と振り下ろし、スタン先輩を右肩から左腹に掛けて切り裂いた。


『決着だぁあああっ! その実力は確かなものだった! 勝者リュートぉおおおお!』


 鐘が鳴り、闘技場が歓声に包まれた。




 戦いが終わり、俺もかなり傷を負い、魔力を失ったので救護所に向かった。


 スタン先輩はかなりの深手だったので、特別治療室に運ばれる様だ。


「良い試合でしたね」


 救護所に向かうと、かなり幼いシスターがいた。ぶかぶかの修道服を身に纏い、たどたどしい言葉で労いの言葉をくれる。微笑ましいというか、肩が楽に合った。これがシスターの力だとすれば、凄い才能だ。癒しの聖女とか呼ばれてもおかしくない。


 こちらに。と招かれるまま、椅子に座る。


 まじまじと傷口を観察されるのは照れ臭かったが、真剣な目付きにすぐに姿勢を正した。


「軽傷がほとんどですね。これなら“回復(ヒール)”だけで事足りそうです」


 そうしてシスターが、俺の傷口に手をかざすと白い光が発せられた。光の粒が傷口に触れ、治癒して行く。


 これは聖魔法。神に愛されし者にしか扱えないとされる、治癒の魔法だ。使い手が限られる事から、聖魔法の素質がある者は教会に囲われる事がほとんどだ。

おそらくこのシスターもその口だろう。


「後はこれを飲めば、万全の状態で次の試合も臨めますよ!」

「ありがとうございます」


 渡されたのは二本の回復薬(ポーション)だ。


 その場で飲み干して体力を全快させて、立ち上がった。


「あのっ、頑張ってください!」


 健気な応援を背に受けて、俺は救護所を後にした。




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