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第十三話 VS 風の剣士スタン・ソナー・ジュール

 アレックス先輩と、三年生の試合は決着が速かった。


 圧倒的な速度でアレックス先輩が場所(フィールド)を駆け周り、防御に徹していた三年生が攻めに転じた瞬間、俊敏な動きで懐に潜り込んだアレックス先輩が剣腹で頭を叩いて気絶させた。


「お疲れ様です」

「うん。ありがとう」


 勝者となって帰って来たアレックス先輩を出迎えた。


 圧勝だったにも関わらず、浮かな気な顔をしていた。


「…………ごめんっ! 多分次の対戦相手はヴィクターだと思うから、ちょっと集中したいんだ。だからリュート君の試合を応援出来ない! 本当にごめんっ!」


 意を決して何を言うのかと思ったら、そんな事か。


「そんな事で謝らないでください。アレックス先輩は自分のやるべき事に集中して下さい」


 アレックス先輩は今年で卒業だ。


 闘技大会に優勝して、騎士爵を獲得できる最後のチャンスなんだ。


 なら自分の事に集中する事が当たり前だし、恋人の俺が足枷にはなりたくなかった。


「ごめんねっ、ありがとう! リュート君も頑張ってね!」

「勿論です! 絶対に決勝で会いましょう!」

「うんっ!」


 そう言って、アレックス先輩は駆け出した。


 行き先は恐らく、忘れ去られた(オブリビオン)闘技場(メモワール)だろう。あそこ以上に集中出来て良い。俺もアレックス先輩との模擬戦以外にも何度も利用させて貰った。


『さあ、続きまして第三回戦の開始だぁ! 出場者は登壇せよ!』


 俺は深呼吸をして、腰に差した深蒼剣(リベリオン)を触って冷静さを取り戻し、光が差し込む階段を上がった。


『東の橋! 帝都士官学校創立以来、初の亜人生徒! その実力は本物なのか!? はたまた虚偽(ウソ)なのか!? 私達にお前の真実を教えてくれ! 一年生リュート・マイリヒト・リストぉおおおおお!』

「お、おお……!」「あれが半森人の」「本当にいたんだな……」


 申し訳程度の拍手が起こった。


「リュートおおおお!」

「頑張れぇ、頑張れぇえええ!」


 しかし一部の席から、熱烈な応援が聞こえた。


 仲良くなったクラスメイト達だった。


 むさ苦しい応援ばかりだが、気持ちは確かに受け取った。


『続きまして西の橋! 二年生にして勝ち取った、この舞台! お前が狙うのは騎士爵なのか!? それとも今日は自身が立ち上げた新流派“風魔流”を極めるための土俵に過ぎないのか!? 【風魔】スタン・ソナー・ジュールぅううううう!』


 会場が湧いた。


 大盛り上がりだが、気持ちは分かる。


 スタン先輩は自身で剣術と風魔法を融合した、【風魔流】の開祖だ。まだ十四歳だった時に魔法剣術大会にて他の追随を許さずに優勝し、その名を轟かせた天才児。


 一年生にして訓練兵から二等兵に出世した時も興味を示さず、士官学校に入って来たのも剣を磨くためなのでは?と誰もが疑問に思っているらしい。


 らしいというのは、この話は全部クラスメイト達から聞いた話だからだ。


 俺自身は全く知らなかったが、あいつらに聞かされたおかげで対策を練る事が出来た。後で感謝しないとな。


『試合開始ぃ!』


 鐘の音が鳴り響き、試合が開始された。


 さて相手はどう出るか、と様子を伺っていると「おい」と声を掛けられた。


「一年坊主。手加減は無用、で良いな?」

「勿論です。じゃないとそっちが死にますよ」

「……言うねえ」


 轟っ、と風が吹いた。


 これは魔力によって起こされた風だ。


 現に荒れ狂う風がスタン先輩の周囲に集まり、まるで鎧の様に纏わり付いている。


「“俊嵐鎧(テンペスト・アーマー)”。俺が作った魔法だ」


 正面に立っているだけで後退りしてしまう程、風が暴れていた。


「“風魔流 一の太刀 風斬り”」

「ッ!」


 一瞬でスタン先輩が視界から消えた。


 眼で追っても間に合わないと判断した俺は、直感で深蒼剣(リベリオン)を背中に構えた。


「――――良い勘いる。恐らくは風が吹く方向も操作している様に思える。


 聞いていた以上に厄介だな。


「おら、行くぞ」

「ッ!」

「“風魔流 四の太刀 風傾(かぜなだ)”!」


 高速移動から出現し、ほぼ同時に振り下ろされる風の太刀を俺は反射的に深蒼剣で受け止めた。滝の様にスタン先輩の剣から押し寄せる暴風に、俺は為す術無く吹き飛ばされた。


「グッ……、クソ! “炎弾(ファイアバレット)”!」

「効かねえよ」


 駄目か……。


 放たれた四発の炎の弾丸は呆気なく、風によって打ち消された。


 突破口が見つからない。だが、見つからないなら見つかるまで戦うまでだ。


「“炎槍(ファイアジャベリン)”!」

「“風魔流 二の太刀 風刃(スラッシュ)”!」


 スタン先輩は剣に風を纏わせ、振るって飛ばして来た。俺の炎槍は見事に相殺されてしまった。

スタン先輩はかつての英雄が使ったという飛ぶ斬撃を疑似的に再現して見せたのだ。


 凄い。強い。これが先輩の実力。


 正直、勝てる気がしない。


 でも。俺は絶対に。


「負けない!」

「ははっ、良い眼じゃねえか!」


 剣を振るい上げた俺にスタン先輩が呼応して、接近戦に突入した。



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