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第十一話 恋人としてのデート

 アレックス先輩と交際する事になった。


 日常で変わった事と言えば、朝食はアレックス先輩と一緒にキッチンで料理を造り二人だけで食べる様になったくらいだろうか。闘技場で模擬戦(デート)をしたり、たまに時間が合う時は二人で昼食を食べたり。


 そんな幸せな日々だったが、闘技大会が近付き、俺はかなり焦っていた。


「こんな事じゃ駄目だこんなっ、この程度じゃ! もっと強くもっと速くもっと――――」

「リュート君!」

「グヘッ」


 でも、そんな俺を止めてくれたのがアレックス先輩だった。


「そんなに自分を追い込んでも結果は付いて来ないよ~?」

「でも、俺はまだまだ弱いし……」

「……僕、去年も闘技大会に出たんだ。でも一回戦負けしちゃった」

「アレックス先輩が?」


 信じられない。


 一年前とは言え、アレックス先輩の柔剣が破られるなんて。


「実力で負けたわけじゃないよ? 僕が緊張して追い込み過ぎて、ぼろぼろの身体で大会に挑んだんだ。悔しくて一週間は眠れなかったかな……」


 あまりにも今の俺の状況と似ていた。


 実力を出し切れずに敗北する自分の姿が、安易に想像出来てしまう。


「だから明日、デートしよう! ねっ?」

「えっ!? 何でそうなるんですか!?」

「だって、そっちの方が緊張が取れるでしょ? 僕も、リュート君もさ!」

「確かに、そうですけど……」

「よし! じゃあ、早く帰って明日に備えよ~っ!」 


 そのままアレックス先輩に手を引っ張られ、闘技場を後にした。


 寮に帰ると簡単な夕食を作り、身体を洗い、ベッドに入ろうとすると――――。


「はいっ、今日のリュート君はこっちね~!」


 布団の化け物に食われた。


「ちょっ、アレックス先輩!? 流石にまずいですって!」

「また深夜にこっそり抜け出そうとするから駄目で~す」


 ぎゅっと顔を胸元に押し付けられて、背中は腕を回され、俺の足にもアレックス先輩の足が絡みついて完全に身動きが出来ない。


 この前裸を見た時から薄々思っていたのだが、アレックス先輩は普段胸を隠しているのではないかと。


 聞いてみると、やはり胸を布で強く締め付けて目立たなくしているそうだ。


 それが今、実証された。


 例える事が難しいくらい柔らかくて、そして良い匂いがする。


 落ち着く匂いでウトウトとして来て……。


「いっぱい頑張ったね。おやすみなさい」


 ちゅ、と額に柔らかい感触があった。


 それが何かを確かめる前に俺は睡魔の波に呑み込まれるのだった。




 翌日。昼時。


 思ったよりも爆睡してしまったらしい。


 アレックス先輩も完全に寝過ごして、結局デートは昼からになった。


 今日は二人で一緒に寮を出る。アレックス先輩が着ているのは、前回のデートで買った服だ。やっぱり身長が高いからスタイリッシュな服装が凄く似合うな。


 デート予定の場所に向かう道で、思い出したかの様に聞いて来た。


「どうかな?」

「凄く似合ってますよ」

「ありがとう!」


 えへへ~、と笑うアレックス先輩。


 普段はクールだけど、やっぱり笑うと可愛いんだよなぁ。


 最近になって本当に女だってバレてないかが心配になって来た。


「リュート君もカッコいいよ!」

「ありがとうございます」


 そう言って貰えるようにファッションの勉強をしておいて良かった。


 まあ今日着ている服はアレックス先輩に選ぶのを手伝ってもらったコーデだから、気に入って貰えて当然かもしれないけど。


「あっ、そうだ」

「どうし―――ひゃあっ! リ、リュート君!?」


 大袈裟な反応だなあ。手を繋いだだけなのに。


「こ、こんなに人目の付く場所じゃ駄目だよ!」

「恋人と手を繋ぐのにどうして人目を気にしないといけないんですか?」

「それはっ! ……えっ、と」


 みるみる内に顔が赤くなって行くアレックス先輩。


 やがて諦めたのか、大人しく俺と手を繋いでくれた。


「二つずつ下さい」

「あいよ!」


 これから行く場所の近くには、料理店が無いのでサンドウィッチとお茶を購入して行く。


 目的地は帝都の外れにある。


 それでも人とすれ違うのは避けられないので、先ほどから多くの人達から鋭い視線を浴びていた。


「ごめんね。僕が女の子の恰好を出来たら良かったんだけど……」


 申し訳なさそうにアレックス先輩が呟くが、俺は全く気にしていなかった。


「俺は嫌われ者なのでこんな視線は慣れっこですよ」


 というより、視線の種類はあまり変わっていない。


 何だこいつ?という視線が、何だこいつら?という物に変わったくらいだ。


 帝都に来て最初の頃は確かに気にはなっていたが、これが帝国の現状なんだなって納得が行った。


「それに森人族(エルフ)は長命なせいか、恋愛も結構自由なんですよね。歳の差とか性別とか気にせずに自由に恋愛をしているって、本に書いてありましたっ」


「そうなの? じゃあリュート君って元々、どちらも行けるタイプだったんだ」

「どうなんですかね? 男の人どころか、初恋がアレックス先輩だったので」

「へ? そ、そうなんだ……。へぇ~……」


 何とか表情は誤魔化しているが、アレックス先輩はかなり嬉しそうだ。


 と思ったら、今度は俺の頬をぷにっと指で押し、「私もリュート君が初恋なんだからね!」と告白された。


 え? 何この人、天使?




 しばらくアレックス先輩の可愛さに悶えていると、目的地に到着した。


 そこには巨大な湖畔があった。水面に空や山が反射し、太陽が水面を煌めかせて幻想的な風景を作り出している。


 周囲には俺達の同じ様に景色を見に来たり、湖畔の周辺を走っている人もいた。


「あっ、あそこに良さげなベンチがありますね」

「うん。あそこにしようか」


 アレックス先輩の服が汚れない様に(ウォーター)で洗い流し、(ウィンド)で乾かしてっと。


「どうぞ」

「ふふっ、ありがとう」


 そして二人で寄り添いながら座り、買って来たサンドウィッチを食べる。色々な具が入っていて終始、美味しく昼食を楽しめた。


 ポットに入れられたお茶は暖かくて、湖畔の傍で冷えた身体が芯から暖まった。


 それから綺麗な湖畔を眺めながら傍らにアレックス先輩がいる。そんな時間に和んでいると、ランニング中のおじさんに「ちっ、帝国の塵共め」と暴言を吐かれた。と言っても所詮は戯言だ。気にする事も無く、俺は景色を眺めているとアレックス先輩から質問された。


「そう言えばリュート君はどうして我慢できるの?」

「えっ、何がですか?」

「リュート君って種族について何か言われても、あんまり反撃しないでしょ?」


 思い返せば、手を出した事は一度も無いな。


 しいて言えばベッカムが、母さんの悪口を言った時ぐらいか。


「あー……、そうですね。目の前の事だけを解決したって意味が無いですから」

「目の前の事だけ……? じゃあリュート君は何を解決しようとしてるの?」

「そもそもみんなの潜在意識にある、「人間こそが他者を支配する上位種なんだ」っていう根底を揺るがさないといけないんですよ。でもそんなの、口で「差別をやめろ」って言っただけじゃ変わらないですよね」


 そう言えばアレックス先輩は納得した様に深々と頷いた。


「そうだね。特に貴族には誇りや面子っていうのがあるし」

「だからまずは認めさせるんです。亜人でも、半森人(ハーフエルフ)でもやれるんだぞーって」

「……そっか」


 それっきり会話が続かずに、長い沈黙が流れた。


 鳥が鳴き、声が響くと同時にアレックス先輩が口を開いた。


「何年かかるかな」

「どうでしょう」


 こればかりは俺にも分からない。


「三十年か、百年か、それとも三百年か。もっとかかるかもしれませんね」

「あははっ、そんなに長かったら僕はもう生きていないよ」


 種族による寿命の差。こればかりは仕方が無いものだ。


 人間は長くても百年前後。半森人は三百年は生きるし、森人なら千年は生きる。


 悲しきかな。アレックス先輩は俺よりも先に死ぬ事になる。


 でも――――。


「いやいや! アレックス先輩には三百年生きて貰いますから!」

「あははっ、もう! それじゃ僕が大変だよ!」


 ――――こういう未来の話をする事が出来る事に、幸せを噛み締める。


 いつか子供が出来て落ち着いたら、世界中を回る旅をするのも良いかもな。


「……アレックス先輩」


 子供が出来たら、なんて想像したせいで気持ちが昂った。


 俺は自然と唇を近付ける。


 アレックス先輩は顔を背ける事無く、目を瞑って受け入れてくれた。


「ぷはぁ」

「んっ」


 突然過ぎてキスを味わう暇も無かった。分かったのは幸せだって事だけ。


 アレックス先輩と視線が重なり、惹かれ合う様に二人の唇を再び重ねた。


 駄目だ。このままじゃ理性が限界を迎えてしまう。


 俺は立ち上がると、アレックス先輩が物足り無さそうに潤んだ上目遣いを向けて来た。


 このまま抱きたい気持ちを抑え込み何とかアレックス先輩を連れて、その場を後にする。


 お互いの顔を見る事が出来ず、けれど手だけはしっかりと繋がれて体温の交換を行いながら、すでに暗くなった道を進み続けた。


 寮に着き、部屋に入るとアレックス先輩に無理やり身体の方向を変えられて唇を塞がれた。


 瑞々しくも柔らかい、けれど乾燥しているのか若干のかさつきがある唇を味わる。


 さっき食べたサンドウィッチのソースの味がする。


 ってそんなに暢気じゃだめだ。


「あ、アレックス先輩、明日、試合……」

「僕的には、今しかないって感じなんだけど」

(あっ、これ駄目なやつ――――)


 そのまま俺はアレックス先輩に押し倒され、お互いの初めてを交換した。




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