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私が職業魔王の部下になるまで。

作者: 璃緒


 

 私はマリって名前で東京で生きていた。普通に女子高生をしていて、学校は楽しかったし、ちょっと気になる男子もいたりした。家族とも良好な関係だった。

 

 みんな過去形なのは私がもうあの世界に戻る事は叶わないから。

 

 流行りだかなんだか知らないけど、下校中に急に光に包まれて知らない場所へと召還された。

 聖女とか何とか言われて持ち上げられて、瘴気を払いながら旅をした。魔王を打ち倒して元の世界へ帰るために。

 

 けれど、最初からそんな物は用意されていなかった。

 

 魔王がいるとかいう城の中へ入って後ろを振り向けば、旅をしてきた仲間が扉を閉めようとしているところだった。

 驚いて何も言えないままでいたら、彼等は扉を固く閉ざして城を私ごと封印していった。

 

 泣いても喚いても扉が開く事はなかった。

 

 私は利用されるだけされて、最後は魔王の城ごと封じるための人柱だったらしい。

 

 彼等は私を腫れ物のように扱っている気がしたから、私も彼等に必要以上に仲良くなろうとはしなかった。そりゃ時々は早く元の世界に帰りたいと愚痴りながら泣いたりして迷惑もかけたけど、だからってこんな扱いされる覚えはない。

 

 勝手に元の世界から浚ってきておいて、散々持ち上げたくせに、最初から私はただの人柱だったわけだ。

 ふつふつと沸き上がる悔しさと怒りは生半可じゃなかった。私は聖女なだけあって不思議な力も使えたから、魔物とか怖くはなかった。

 

 だからだろう。

 

 単身で魔王の玉座へと赴いて開口一番に怒鳴っていた。

 

『私を元の世界へ帰して!』と。

 

 魔王はそんな私に怒る事も攻撃することも無くただ困惑していたようだった。

 

 そして、言ったのだ。

 

『元の世界は無理かもしれないけど、他の世界になら行けなくもないよ?……でも、キミが居なくなればこの世界は崩壊しちゃうけどいい?』

 

 私は迷いも無く頷いた。

 この世界の人達は呑気に幸せに暮らしていた私を勝手に連れてきて、そして捨てたのだ。どうなろうと知った事じゃない。

 

 魔王が、それじゃここでの仕事は終わりだな、と呟いてパチンと指を鳴らすと世界がぐにゃりと歪んだ。

 同時に激しく目の前が明滅して、頭を内側から叩かれているかのような感覚に立っていられなくなり、その場にうずくまりそうになったところを優しく抱き留められていた。相手が誰とか認識もできず、ただひたすらすがり付きながらぐるぐるとする気持ち悪い感覚に耐えた。

 

 気付けばガランとしただだっ広い白い空間にいた。

 

「気付いた?」

 

 そこには見たこと無い黒髪黒目のイケメンがいた。

 

「ここどこ?……あなた、誰?」

 

 苦笑いしながらイケメンは答えた。

 

「僕はジオード。職業は魔王だね」

 

「魔王が職業って……」

 

 呆気に取られたまま呟いていた。

 

「まぁ、詳しくは後で……で、ここは、僕の担当してる世界の狭間。つまり、僕の家だね」

 

「この何もない場所が家?」

 

 床は大理石みたいな感じはあるけれど、天井も壁も多分白だ。遠近感もよく分からないほど広いため、確信が持てないけれど。

 そんな場所なのにほとんど物もない。唯一目につくのは自分が寝かされていたベッド。

 これじゃ生活なんてできそうにもない。

 

「必要になったら出せばいいからね。」

 

 魔王…ジオードがそう言うとパッとベットは消えて代わりに椅子とテーブルが出てきた。

 マリはベットに腰かけていたはずなのに、いつの間にか椅子に座っている。

 

「えっ?!」

 

 マリが驚いてキョロキョロしていると今度はジオードが質問してきた。

 

「キミの名前は何?」

 

「……へ?あ、そうか。名乗ってなかったっけ……私は逆井マリ。さっきまでいた世界では聖女としか言われなかったけどね」

 

 少々間抜けな返答になってしまったけれど、まだ驚きから回復していないのだから仕方がない。

 

「ここに連れて来る前にも言ったけど、マリを元の世界に帰すのは難しいと思う」

 

「聞いたわよ……でも、あんな世界よりはマシかなって思ったの……私は許せなかったんだもの。何の断りも無く勝手に、のんびり平和に暮らしてた私をあの世界はさらったんだから……どうなろうと知った事じゃないわよ」

 

「うん。少しは事情を把握できてるつもりだけど、マリはあまりいい待遇を受けてなかったよね……」

 

 そう言うとジオードは少し寂しそうな顔をした。魔王だったくせに嫌に人間くさい。

 

「知ってたの?」

 

 ジオードは肩を竦めてみせた。

 

「まぁ、自分を討伐に来る相手くらい少しは調べるよ……まして、僕の仮の居城内での出来事くらいは把握しなきゃ」

 

「それもそうね……でも、仮の居城って……」

 

「僕の本当の家も姿もこっちだからね。あの世界は今回の派遣先みたいなものだからさ」

 

「派遣先……? そういえば職業が魔王ってどういうこと?」

 

 マリが訊ねれば、ジオードはどう説明しようか少し考えているような素振りをしてから手を中空で横に滑らす。

 

「え……何これ……」

 

 目の前に現れた光景にマリは目を丸くしていた。

 

 そこに現れたのは、どこかの景色。無数に中空に浮かぶ丸いモニターのような何かが様々な景色を映し出していた。

 

「沢山の世界の景色だね。……パラレルワールドとも言えばいいのかな? 似て非なる、本来重なり合わない世界だね」

 

「……はぁ?」

 

 マリの返事が生返事なのは仕方がない。あまり理解もできていなかったのだから。

 

 ジオードはそんなマリを気に留めず話を進める。

 

「僕はこのどの世界でも魔王をしているんだ……魔王をしに行くとも言うけどね」

 

「……何のために?」

 

 マリが心底不思議そうに呟いたのに対し魔王は苦笑しながら質問を返してきた。

 

「魔王は何のために現れたとされる事が多いと思う?」

 

 マリは目を瞬かせた。それはあの世界でも散々言われていたし、何ならマリの元いた世界の創作物での魔王も大体そうだった。

 

「……世界を滅ぼすため?」

 

 目の前の少し寂しそうにしているジオードに言うのに少しだけ気が引けて小声でマリは答えた。

 

「そうだよ……ここにある世界はどれも魔王によって終焉を迎えるか、或いはそれを打ち倒して安寧を手に入れるかの2択に迫られている世界だよ……そういう世界は世界の敵が必要になってくる。それを担うのが職業魔王」

 

「……それって、誰が雇い主になるの?」

 

「神様みたいな存在かな」

 

「……つまりあなたは」

 

 マリが言いかけたのをジオードが手で制す。

 

「ジオード。あんまり名前呼ばれないから、なるべく名前で呼んでほしいんだよ、マリ」

 

 急に子どもみたいに口を尖らせるジオードにマリは目をぱちくりとさせてしまうが、どうにか気を取り直す。

 

「……分かった。ジオードは神様の部下みたいな存在って事?」

 

「まぁ、そうなるのかな……直接会った事も無いんだけどね」

 

「直接会った事ないの?」

 

「そうだよ……そういうものだから。仕事の指示とか連絡がある時は天から声が直接降ってくるんだよ……なんならここに他の人がいるのも初めてだね」

 

 そう言って柔らかく微笑むジオードはどことなく嬉しそうでもあった。

 それは仕事が好きだからなのか、他の人がこの場所にいる事に対してなのか……マリはなんとなく後者な気がした。

 

「……ずっと1人だったの?」

 

「うん、そうだね……この仕事を割り当てられてからざっくり千年くらいかな? あ、でもずっと1人って言うのはちょっと違ったね。仕事すれば現地の魔物とか魔族みたいなのとも関わるし」

 

「……せ、せんねん?」

 

 マリの想像の範疇を越える長さにめまいを感じる。

 

「まぁ、人の時間に換算すると、って話ね……実際はそこまで長く感じてはいないよ? というよりは時間の概念そのものがあんまり無いかな。ただ、魔王って職業上、人と同じ時間軸に身を置く事もあるから、なんとなーくざっくりそれくらいかな、って」

 

「……想像もできない事をさらっと言わないで……」

 

 マリはため息を吐き出す。

 そして、無数にあるモニター?へと目を向けていた。

 

「ねぇ、あの世界ってこの後どうなるの?」

 

 モニター?には、どれもどこか似ているような気がする光景が映し出されていて、マリにはどの光景がさっきまでいた場所なのかが分からなかった。

 

「えーと……どれだったかな……あ、これだ」

 

 ジオードも少し探すような仕草をした後に、1つのモニター?を引き寄せて少し大きめにしてくれた。

 

「……ひび割れてる?」

 

 そう聞くのも無理はない。

 映し出されている場所は少し前までマリと魔王が対峙していた場所だ。その場所に幾つもの亀裂がある。地面や壁だけではない。不自然に空間にも。そう、まるでモニターの方がひび割れているかのように。

 

「マリがいなくなったからね。ここの世界の住人は召還を使って僕を倒そうとしたけど、それは世界そのものへの負荷が高すぎる行為なんだよね……一応彼等の中には反対した人もいたけど、聞いてはもらえなかったみたいだよ」

 

「そう……で、何で私がいなくなった位でこんな事になってるの?」

 

「マリを召還するのにあの世界の人達は、世界に穴を開けたんだけど、マリはその穴の蓋になってたんだよ」

 

「蓋?」

 

「そう、蓋。異界への穴って極々稀に自然に開いたりもするんだけど、それって小さいから世界そのものがすぐに直すんだ。だから、何か生き物がそこに紛れ込むって事はあんまりないんだけど、それを意図的に、しかも人が通れちゃう位大きいの開けちゃったからね。まぁ、あの世界はそれには耐えられなくて、もっと小さければ世界そのものが直せたんたんだろうけど……蓋も無いし、今はもう直すよりも広がる方が早くなってるんだよ。しかも一旦それが始まればもう誰にも止められないかな」

 

「それって他の世界に行き来し放題になるんじゃないの?」

 

 マリは眉をしかめてしまう。

 

「そうはならないよ。通常、世界を渡るには、体の情報が全部書き換えられちゃうからね。殆どはそれに耐えられなくて越える前に崩壊するよ……あの世界もあの亀裂に巻き込まれた瞬間に崩壊して消えちゃうんだ」

 

「どこか別の世界に転移なり、転生ってできないの?」

 

「基本はできないかな。できても記憶は保持できない。生まれる前の記憶が有ります、他の世界です! さぁ大変って事にはならないんだ……つまり、何も思い出せなくなる。というよりも他の世界の事は消去されて新たにその世界の生き物に書き換えられちゃうんだ。魂の記憶のリセットみたいな感じ、かな」

 

「私は記憶があったけど……」

 

「まぁ、召還って崩壊に耐性持ってる人をピンポイントで連れてくるって事だからね。かなり特殊で物凄く稀だけど、一定数いるにはいるんだよ。記憶持ったまま他所の世界に行けちゃうのが……ここに浮かんでる無数の世界には対象者がいなくて、遠くかけ離れた世界から連れてくる事になったんだろうね……だからマリの元々の世界はここには無い」

 

「……そうなんだ……こんなにあるのにね……」

 

 マリは無数にあるモニター?へと目を向けた。なんだか情報量が多すぎて頭がパンクしてしまいそうだった。

 

「……で、マリはこれからどうしたい?」

 

「へ?」

 

 唐突に訊ねられてマリは間抜けな声を出してしまう。

 

「僕がどうにかしてあげられるのはあの世界からマリを引き離すこと。まぁ、後はここにある世界のどれかに転移なり転生する事かな。ここにマリが元いた世界があればいいんだろうけど、マリの世界はここには無いし……」

 

「……私の元の世界じゃ魔王なんていなかったからね。いても、創作物の中かな……」

 

「そうなると、僕の担当じゃなくなるからどうにもできない……つまり、帰してあげる事はできない」

 

 マリはため息を吐き出す。こんなに沢山世界があるのに、マリの帰るべき所はどこにもないのだ。

 

「……ジオードはどうするつもりでここに連れてきたのよ」

 

「あの世界はマリを召還して、マリを城ごと封印してしまった時点で僕の中では滅ぶのが決定してたから、一番手っ取り早い滅びを選んだだけなんだよ。だから、その後マリをどうするつもり、とかは考えてなかったんだよね」

 

「……そうですか……すぐに別の世界に行く気にはならないんだけど……しかもここにある世界ってどれも魔王が現れるんでしょ? それって魔物がウロウロしてるような世界って事だよね? それに、下手すればあれみたいに滅ぶんでしょ? もうそういうのお腹いっぱいで嫌なんだけど」

 

 言ってる内にだんだんと状況が理解できてきて、腹が立ってきた。ジオードは滅びるかどうかの選択に迫られているような世界にマリをやろうとしてるのか……

 

「ま、まぁ、そうだよね……それじゃ、どうしよう……」

 

 ジオードはあからさまにオロオロしだす。どうやら本当に何も考えてなくて、このどこかにマリを転移なり転生させて終わりにするつもりだったみたいだ。

 

「ジオードは職業が魔王なんだよね?」

 

「え? うん。まぁそうだね」

 

「なら、私はジオードの部下になる」

 

「えっ?!」

 

 ジオードは目が飛び出るんじゃないかというぐらいに目を見開いて驚く。

 

「ほら、魔王って強い部下みたいなのいっぱい連れてるでしょ? それの1人って事で」

 

「ちょ、ちょっと待って……本気で言ってる?」

 

「もうあんな風にゴミみたいに捨てられるの勘弁して欲しいんだよね」

 

「そうならない世界をなるべく選んであげるから!」

 

「だって、あいつらが言ってたけど、私、召喚される時に魂そのものに聖女みたいな役割が刻まれたって言ってたよ……それってここにある他の世界に行っても変わらないんじゃないの?」

 

「……知ってたの?」

 

 ジオードは表情を厳しくさせていた。

 

「適当に言ってみただけ。その顔は当たり、って事かな……魔を祓わない聖女って魔女になるのかな?」

 

 少し自棄になってそう呟いた瞬間、少しだけ自分が黒くなった気がした。

 

「マリ!」

 

 焦ったようにジオードが叫び、マリの気が逸れるとなんだか元に戻った感じがした。

 

「な、何よ。急に大きな声を出さないで」

 

「そんな事言わないで! 本当に魔女になっちゃうよ……聖と魔は表裏一体で同じものなんだから……」

 

「ふーん。いいこと聞いた。なら、私が魔王の部下になっても問題ないじゃない」

 

 流石に魔王の部下なのに魔を祓うのは洒落にならないな、とは思っていた。

 

「でも、そうなったらここにある世界はマリを受け入れてくれなくなっちゃうよ」

 

「だ、か、ら、どこにも生まれたくないんだってば。今の話だとどこに生まれても私、聖女にされちゃう可能性があるんでしょ? それは嫌! 勘弁してよ!」

 

「そ、そうだけど……本来なら喜ばれる職だよ?」

 

「い、や。嫌ったら嫌! いいように利用されるだけなんて真っ平なの! それともジオードは私がいると迷惑?」

 

「いや、そんな事はないけど……」

 

 ジオードが言い淀む。その隙をマリは見逃さない。

 

「なら、決まり! 私は魔女になってジオードの部下になります!」

 

 私が大きな声で決意を込めて言えば、体が一瞬黒いモヤに包まれる。

 

「マ、マリ……」

 

 ジオードが心配そうな声を上げるけれど私の方は黒いモヤが晴れても特に変わった、という意識はまるでない。

 

「マリ、僕と同じものになっちゃったよ……」

 

「……そんな悲しい声で言われても私自身には何も変化が感じられないんだけど?」

 

「まず、体感の寿命が物凄く長くなったよ。魔王って職業柄、ここの世界全部に行くから、寿命は長くなきゃやれないんだ。その点聖女なら人と共に歩むモノだから寿命も人と同じくらいだし、人にずっと囲まれて過ごせるんだ。変わりに何度も生まれる事になるけど……」

 

「へぇ、そうなんだ。今言われても実感はないなぁ」

 

「魔王の眷属になっちゃったんだよ! 仲間もいないし、何よりずっと1人だよ!」

 

「……1人はやだなぁ。早く言ってよ……ん? でも私はジオードの部下だよ? 部下に成り立ての右も左も分からない私をジオードはどっかに放り出すの?」

 

「え? そんな事はしないよ」

 

 ジオードはキョトンとした顔で返す。

 マリも同じような顔になる。

 

「……なら、1人にはならなくない?」

 

「……あれ? ……そ、うだね?」

 

 ジオードが半ば放心したようになる。

 

「ちょっとジオード、どうしたの?」

 

「僕、1人じゃなくなるの?」

 

 ジオードが呆けた顔のまま問いかける。マリはそんなジオードに困惑する。

 

「……そうなるんじゃない?」

 

「マリは僕の部下だもんね? どこでも一緒に仕事に行ってくれるんだよね? それに、ここにも一緒に帰ってこれるんだよね?」

 

「そりゃ、部下になったから。そうしないと意味ないんじゃない?」

 

 マリが答えた途端にジオードは目をキラキラと輝かせて、マリの手をガシッと掴む。

 

「マリ!」

 

「な、何?」

 

 急なジオードの変化にマリはついていけない。

 

「僕の部下!」

 

「だから、そうなったんだってば。あんまり言われるとだんだんムカついてくるんだけど?」

 

 不機嫌を隠さないマリと正反対でジオードの機嫌はどんどん良くなっているようだ。今にも舞い上がってしまいそうだ……と言うより文字通り空中に舞い上がって奇妙に体をくねらせている。

 

「ふふふふふー。嬉しいよ! ようこそ! 僕の部下!」

 

「呼び名はマリにしてくれる? 本当に急にどうしたの?」

 

「僕、今気付いたんだけど、ずっと1人で寂しかったみたい!」

 

「……」

 

 唐突な重たい話にマリは一瞬何も返せなくなる。

 

「だから、マリが部下になってくれてとっても嬉しいみたいなんだ! 今なら10個位一気に世界を滅ぼして来れそうだよ!」

 

「……物騒な例えね……あ、でもそれが仕事なのか」

 

 魔王の仕事に思い当たりマリは奇妙に納得する。ここにあるどこの世界にも思い入れが無いし、それが仕事ならまぁ、世界を壊して回るのも致し方ない。

 

「やだな、マリ。滅ぼすだけが仕事じゃないよ! 時にはちゃんと倒されないと! というか倒される事の方が多いんだから。それで世界の均衡を保つのが仕事。滅ぼす方が労力使うことが多いから面倒なんだよ! その面倒が一辺に10個はできるなって例えだよ」

 

「反対してた割りに随分な喜びようじゃない」

 

「だって! 気付かなかったんだから仕方ないよ……そうか、部下ができるっていいなぁ。中々ここに連れてきて耐えられる人もいなかったし……でも、これからはもっと積極的に探そうかな」

 

「何か、本当に魔王なの? 威厳も怖れも抱けないんだけど」

 

「しょうがないよ。これが本当の僕だしね。怖れられないっていいなぁ……マリ、これから末長くよろしくね」

 

「……それって微妙に……」

 

 プロポーズみたいじゃないか? とは言えなかった。体感としてはついさっき知り合ったばかりだ。それでも、まぁ、顔は好みだし、悪い奴じゃないのは会話の端々から感じられる。長くいれば絆されそうではある。ジオードはとても疎そうだけど。

 

 マリは、まぁいいか、と心の中で呟く。

 

「こちらこそよろしくね。ジオード」

 

 こうしてマリは職業魔王の部下になったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジオードとマリのその後…気になります!(笑) 一人ぼっちはツラいもんねぇ… しかもほぼ永遠に… マリが来て良かったね!ジオード!(笑)
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