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エストローゼ投入。何とか話はつきました。平和っていいなぁ…(じみじみ)

翌日の朝食はそれはもう、気まずかった。


シェリーヌがクリストフと共に、同じ席で食事をしたいと言い出して、

サリアが怒りまくりながらも、了解し、そこで女の戦いが始まったのだ。


「シェリーヌ殿は何故今更、子を連れて我が屋敷へ訪れたのだ?」


サリアが正面に座るシェリーヌに向かって、ステーキ肉を切りながら、にこやかに訪ねる。

シェリーヌもステーキ肉を切り分け、口に運びながら、


「夫に離縁をされましたの。ちょっと、他の男性と褥を共にしただけですのに。本当に心が狭い夫で…子供と一緒に追い出されましたのよ。わたくしの実家は兄が継いで、両親も他界し、頼れる所も無く…クリストフの将来を考えて、こちらへお邪魔した訳ですの。」


シェリーヌの言葉に、ステーキ肉にナイフをブスっと突き刺して、サリアはこめかみをぴくぴくさせ、


「ほほう。他の男性と褥を共に…夫を持つ妻と言う物は不貞は許されないと、私は思っていたが…ほほう。他の男性と褥を共に…」


「あら、サリア様。サリア様の考えは古いですわ。貴族男性たるもの、愛人を持つのは普通ですのよ。妻だって、たまには他の男性を摘み食いしてもよろしいのではなくて。」


サリアはエリオットを睨みつけて、


「エリオットーーー。」


「な、何だ?サリア。」


「お前はどう考えている。」


「いや、その…貴族の中には愛人を持つ者もいるが、ゴホン。私はそのような事は一切しない。妻一筋でありたい。可愛い我が子達の為にも。」


「だそうだ。シェリーヌ殿。」


「まぁああああああ…エリオット様。昔、熱く愛し合ったではありませんか。褥で、シェリーヌは最高だ最高だって…何度の何度も。朝まで愛し合ったあの熱い日を忘れてしまったの。エリオット様。」


エリオットは慌てたように、


「そんな若き日の事をほじくり返さないでくれ。それに、君と褥を共にした男性は他にも数人いたはずだ。連中と君との夜はどうだったと、酒の肴に話をしたぐらいだからな。」


「わたくしとは遊びだったとおっしゃるの?わたくしは貴方だけは本気でしたのよ。」


子供達は静かに食事をしている。


教育上あまりこういう場面は見せたくはないのだが…


サリアはきっぱりとシェリーヌに言い切る。


「出て行って貰おうか。」


「息子が…大事なわたくしとエリオット様の息子が…可哀想ではありませんの。」


「それならば、お前は出て行け。息子は置いて行くがいい。」


クリストフが、サリアに向かって、


「母上が出て行くならば、私も出て行きます。これでも大事な母上ですから。」


何とも気まずい雰囲気で食事が終わった。



サリアはエリオットに、


「私では手に負えない。明日、お義父様とお義母様がこちらへ来て下さるそうだ。

そうしたら、あのメギツネを叩きだす。エリオットは仕事へ。今日は仕方がない。あの連中を客室へ泊める事にする。」


「すまないな。サリア。」



エリオットは、王宮へ仕事をしに出掛けた。


廊下で、騎士団長のジオルドとばったり会った。


「聞いたぞ聞いたぞ。お前、命知らずだな。」


「何が命知らずだ。俺が呼んだんじゃない。勝手に訪ねてきたんだ。何で知っている?」


「さ、さぁな。」


王都の騎士団長宅であるキルディアス公爵家とイーストベルグ公爵家は通り一本隔てた向かい側である。


そして騎士団長の妻イデランヌとサリアは親友なのだ。

夜遅く愚痴でも言いに行ったのか?


ジオルドはハハハハと笑って、


「まぁ、領地からお前の両親も出て来るんだろう?何とかなるのではないのか。」


「確かに、サリア以上に母上は怖いからな。」


「これに凝りて二度と、浮気するなよ。」


「浮気なんてしていない。今はサリア一筋だ。」


「それならいいが。お前には修道院へ共に飛ばされた恨みが…プスプスと。」


「まだ根に持っていたのかっ。」


「俺だって妻は怖いし、義父も怖いんだ。」


騎士団長ジオルドの義父はキルディアス宰相である。婿としてキルディアス公爵家に入っているジオルドはエリオット以上に妻に頭が上がらない。


二人して恐妻家なのだ。


エリオットはジオルドと別れ、事務室へ入ると、ファルト王太子がにこやかに近づいて来て、


「で、どうだった?」


「どうだったって…何もありません。」


「サリアが怒ってお前を呼び出したと聞いているが。」


「大した事はありません。」


王太子は詳しい事は知らないようだ。ジオルドも余計な事は言ってはいないのだろう。


「仕事に入ります。」


人の家庭を面白おかしく、言われるのは、頭にくる。



何とか一日、仕事に集中して、迎えの馬車に乗り、門の前で降りて、ものすごーーく、重い足を引きずって戻ってみれば、両親が早々と戻って来ていたのか…


エリオットの顔を見るなり、母であるエストローゼに怒られた。


「エリオット。聞きましたよ。この騒ぎはどういう事です。だから、わたくしは常日頃、女性関係はほどほどにしておけと申しておいたはず。隠し子ですって?愛人ですって?」


エリオットは慌てて、言い訳をする。


「隠してなんていませんし、愛人を持つ気もありません。」


父であるジークファウゼン前公爵は、眉を潜めて、


「挨拶をされたぞ。愛人になりましたとシェリーヌ殿に。孫だと言うクリストフに。」


サリアが二人の前にやって来て、


「だから、あの女達をどうにかして頂きたいのです。義父上、義母上。我が公爵家に居座るつもりです。あの連中は。」


エストローゼがドレスを翻して、


「解りましたわ。わたくしが話をつけます。元、牢獄長を勤めたこのわたくしを舐めないでいただきたいわ。」


客室をノックして、エストローゼが部屋に入って行く。エリオットもサリアとジークファウゼンも共に後へ続いて、


「ちょっとよろしいかしら。シェリーヌとやら。」


「これはお義母様っーー。先程はどうも。何でございましょうか。」


「貴方にお義母様と呼ばれる筋合いはないわ。わたくしをお義母様と呼ぶのはサリアだけです。」


「そうなんですの??」


「我が公爵家の跡継ぎはフェリクスに決まっております。そこの馬の骨。本当にエリオットの息子ですの。」


「見ればお判りでしょう。この眼差し、髪の色。エリオット様にそっくりですわ。」


「成程、確かに見事な銀の髪、顔立ちも似ていますわね。それでも、我が公爵家の跡継ぎにする訳には参りません。我が公爵家の跡継ぎは正妻の産んだ息子と決まっておりますのよ。

でも、この子の教育には公爵家として責任を持たねばなりません。エリオットの息子の可能性はあるのですから。そこで、15歳から18歳までの王立学園の学費と寮費をこちらで負担致しましょう。今、10歳との事ですわね。入学までの5年間の生活費もこちらから出しますわ。王立学園を卒業致しましたら、18歳になるのです。自分の力でなんとか出来るでしょう。就職に困るようでしたら、こちらでお世話致しますわ。あくまでも、庶子と言う事をお忘れなく。これ以上の事は我が公爵家としては、クリストフに責任を持つつもりはございません。宜しいかしら。」


シェリーヌは涙を浮かべて、


「わたくしの事は?わたくしが飢え死にしても良いとおっしゃるの?」


エストローゼははっきりと言い渡した。


「貴方に対しては、どうして我が公爵家が責任を取らねばならないのです。所詮、エリオットが遊びで戯れた相手。さぁ、息子共々、お金を受け取って出てお行きなさい。勿論、受け取った証文にサインをお願い致しますわ。もし、これ以上の事を要求してくるようでしたら、騎士団に恐喝の罪で貴方達を訴えてもよろしくてよ。」


「解りましたわ。お金を受け取って出て行きます。」


さすが、エストローゼである。エリオットは安堵した。


ただ、自分の息子かもしれない、クリストフの事が気になった。

そのお金が正しくクリストフの為に使われるのであろうか?

シェリーヌが自分の為に使って、クリストフにお金が一銭も行かなかったら…


ジークファウゼン前公爵が、クリストフに向かって、身を屈めて話しかける。


「君の母上にお金を渡した。君が18歳になるまで、ちゃんと生きていけて、王立学園の寮に15歳から18歳まで入って教育を受けられるお金だ。もし、君がお金に困ってそれが執行されないようであったら、私に連絡をよこしてくれ。これが私の連絡先だ。その時は私が君を引き取り、養育する事を約束しよう。」


「有難うございます。」


クリストフは連絡先を大事そうに受け取った。


エリオットはよく出来た両親にこれから先、尚更、頭が上がらない…そう思った。


親子はお金をもらって出て行った。



そして、エリオットと言えば、


エストローゼがエリオットの真正面に座り、


「これだから、お前は…どうして、結婚後も問題を起こすのかしら。」


「いや、俺は真面目に働いております。母上。」


「でも、まさか隠し子が出て来るとは思わなかったわ。」


「ですから、隠してなんていないし…俺だって今更昔の女が…」


「おだまりなさい。エリオット。サリアに土下座しなさい。」


「男として土下座は嫌だ。」


「何を言っているのです。素っ裸で土下座した事、わたくしが知らないとでも?」


エリオットは思い出した。友、ジオルドを巻き込んだあの修道院行き事件の時、

素っ裸でサリアとイデランヌに土下座したのだ。


サリアは両腕を組んで、エリオットを睨みつけている。


「エリオット…」


「すまなかった。」


エリオットは、仕方が無いのでサリアに土下座した。


サリアはフンと顔を横にそむけて、


「本当にお前と言う奴は今度こそ愛想が尽きた。離縁してやろうか。」


すると子供達がドアから駆け込んで来て、


「離縁はいやだっーー。お父様について行くっ。」

「あたしもっ。お父様について行くっーー。」


泣きながらフェリクスとアイラが、エリオットにしがみついている。


サリアは怒り狂って、


「お前達の母は私だぞ。何でエリオットに懐いているっーーー。」


エストローゼが呆れたように、


「明日は、サリアとデートしていらっしゃい。子供達は私達が面倒を見ていますわ。」


ジークファウゼンも頷いて、


「うんとサリア殿の機嫌を取る。それがお前のするべきことだ。私だってこうして、離縁の危機を乗り越えて来た。」


「え???父上も浮気をっ?」


「いや、浮気はした事はないが、夫婦と言う物は色々とあるのだ。」



確かにそうだ。


エリオットはサリアと明日、デートする事にした。





カフェのテラス席で、二人で座ってお茶をする。


秋の木の葉が舞い散ってとてもロマンティックだ。


エリオットはサリアに、


「今日はどう過ごそうか。お前の行きたい所へ付き合うぞ。」


サリアは珈琲を飲みながら、


「私はお前とこうしてのんびり過ごせればいい。ああ、後で子供達と義父上、義母上に菓子の土産を買わねばな。子供達はおとなしくしているだろうか。暴れてはいないだろうか。」


サリアは双子達の事が気になるようだ。


エリオットはハハハと笑って、


「お前はこうしている時も母親なんだな。」


「それはそうだ。あの二人は愛しい愛しい可愛い我が子だからな。」


エリオットは立ち上がり、サリアに近づいて、


「この度の事は申し訳なかった。俺の過去の事があのような事になるなんて。」


「もういい。解決した事だ。先々、あのクリストフと言う子が道を誤まらず、ちゃんとした大人に育てばよいな。」


「ああ、有難う。サリア。」


身を屈めて、サリアの頬にチュっとキスを落とす。


ふと、顔を上げると騎士団長ジオルドがイデランヌと一人娘リアーゼを連れて、手を振る姿が見えた。


やれやれ。二人きりのデートはお預けになりそうだ。


イデランヌとサリアは仲がいい。


あの家族と出会ったら、カフェの奥の席に移動して長話になる事は間違いなく…


エリオットはサリアと共に立ち上がると、ジオルド達の元へとにこやかに近づいて行った。


平和な秋の木の葉が舞い散るとある日。



エリオットは平和っていいなぁと心から幸せを感じているのであった。


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