昔の女が子連れで乗り込んできた。妻が怒っている…逃げ出したい
エリオット・イーストベルグ公爵は、整った男らしい顔。美しい銀の髪、綺麗な碧い瞳、鍛え抜かれた身体。仕事も教養も剣技も全て秀でた魅力的な男性である。
いやもう、この男は問題児だった。
結婚前も女性達と遊びまくり、結婚後も何かと問題を起こした。
妻のサリアは隣国の王女である。
大恋愛の末、結婚したのだが、それはもう男言葉の剣技にも優れた気の強い女性である。
サリアが留守の時、昔馴染みの女、リュシエール伯爵家のマリーネと浮気をした。
そうしたら、サリアが騎士団を引き連れて、討伐しに来たのだ。マジで。マジで…
騎士団を振り払い、国境まで逃げたのだが、騎士団長ジオルド、王太子ファルト、ついには破天荒の勇者まで乗り出して、捕縛されてしまった。
右足首に1mの鎖に繋がれた大きな鉄球を付けた生活を半年屋敷で送った末に、許されて、騎士団長ジオルド(親友認定しているのだが、ジオルドは嫌がっている。何故だ?)と酒を飲みまくり、そこで羽目を外したら、いつのまにかジオルドと共に女性達に身ぐるみはがされて、そこをサリアと騎士団長夫人イデランヌに乗り込まれてしまった。
ジオルドまで巻き込んで、今度は修道院へ送られた。
そこでの生活を楽しんでいたら、サリアがブチ切れて、迎えに来た…
王太子命で大人しくエリオットは今、王宮で仕事をしている。
王太子ファルトに気に入られて、彼の側近となり、その仕事を手伝っているのである。
今度こそ改心しないと、フェリクスとアイラという5歳の可愛い双子の男の子と女の子の父でもあるのだ。
王宮の廊下で、昔関係のあった女性に会う事がある。
その時も挨拶を軽くするだけで、互いにすれ違う事にしている。
身体の関係もあった女性もいたし、ただ恋を囁き合っただけの相手もいる。
彼女らも嫁いでいたりしているので、互いに昔の事を蒸し返したくはないのだ。
未だに嫁いでいない女性の中には、エリオットに声をかけてくる女性もいるが、エリオットは挨拶を軽くするだけで、足早にその場を去る事にしている。
それに、サリアの怖さは社交界でも知れ渡っているので、そういうおバカな女性は多くは無かった。皆、自分の身は可愛いのだ。
勿論、愛しいサリアを性病になんてかからせたら首が飛ぶ。命はない。修道院なんて生やさしい所ではすまない。
医者にはかかり、そこはしっかりと管理して貰っている。
今は浮気もせず、身も綺麗になったので、エリオットは安心して過ごしていたのだが。
しかし、そんなとある日、王宮で仕事をしていると、事務官から言付けを貰った。
「奥様が至急、屋敷に戻って来い との事です。」
戻って来い???
エリオットは青くなる。
戻って来いって事は相当サリアを怒らす事態が勃発したと言う事だ。
今すぐにでも、失踪しようか。
いや、それは出来ない。エリオットとて子供は可愛いのだ。
双子の子達はエリオットの事を父上父上と慕ってくれている。
公爵家の馬車が表で待っているとの事。
ファルト王太子に、家に戻る旨を言いに行けば、ファルト王太子は笑って、
「無事に明日会える事を願っている。エリオット。」
「他人事だと思って…それでは失礼します。」
この王太子殿下は人が悪い。まったくエリオットの事を心配してはくれない。
今までの事があるからだろう。
急ぎ、馬車に乗り込み、屋敷へ向かう。
帰りたくない…マジで…このまま失踪したい…
屋敷へ着いて、中に入れば、中央階段の踊り場で、サリアが仁王立ちをしていた。
「エリオット。ちょっと来い。」
「何があった?サリア。」
「お前の昔の女が子連れで尋ねて来ているぞ。お前そっくりの子を連れてな。」
「何だって??????」
避妊には気を付けていたつもり…つもりだ。
子が出来たなんて聞いた事がない。
どういうことだ???
エリオットが客間へサリアと共に行けば、昔、関係のあったシェリーヌが嬉しそうに立ち上がって、
「エリオット様。久しぶりですわーー。」
「シェリーヌ。シェリーヌではないか。」
そしてシェリーヌの隣にちょこんと座っているのは、自分に似ている銀髪の10歳位の男の子だった。
あああ…ちょっと思い出したぞ。この女…どこぞの伯爵令嬢だったな。
男関係の激しい女で、数人の令息達と関係があって、面白半分に手を出した覚えが…
「この子は、私の子か?」
「ええ、そうですわ。エリオット様、今日から親子ともどもお世話になります。まさか、わたくしとこの子を路頭に迷わす事はないでしょうね。」
「いやその…」
「さぁ挨拶なさい。クリストフ。」
「クリストフです。父上。よろしくお願い致します。」
シェリーヌはオホホホと笑って、
「この子は10歳になりますわ。イーストベルグ公爵家の跡継ぎになりますわね。」
サリアが凄い顔で睨んで来る。
サリアはシェリーヌに向かって、
「私は認めない。私が正妻だ。イーストベルグ公爵家の跡継ぎはフェリクスに決まっている。出て行け。この子が本当にエリオットの息子と言うのなら、それなりの金は払おう。」
シェリーヌは、オホホホと笑って、
「出て行きませんわ。わたくしは愛人にさせて頂きます。息子はフェリクス様より年上。それにこの銀の髪に青い瞳、エリオット様にそっくりではありませんか。さぁエリオット様。わたくし達のお部屋はどこかしら。案内して欲しいわ。」
すると、ドアをバンと開けて、子供達が飛び込んできた。
5歳のフェリクスとアイラである。
「お父様ぁーーー。お母様を怒らせちゃ駄目っ。」
「お母様が怒ると、また、お父様と暮らせなくなっちゃうわっ。そんなの嫌っーー。」
二人の子供達がエリオットにしがみつき、ワンワン泣いている。
収拾がつかなくなってきた。
エリオットはシェリーヌに向かって、
「この屋敷に居座られても困る。」
シェリーヌは外を見て、
「日も暮れて参りましたわ。行くところもありませんの。わたくし達。」
エリオットは頭を抱えて、
「今宵は客室に泊まっていってくれ。明日の朝、出て行くように。息子の事は…改めて話し合おう。」
とりあえず、シェリーヌをクリストフと共に、客室へ泊って貰う事にしたのであった。
サリアがもの凄い目で睨んでいる。
子供達がワンワン泣いている。
サリアが低い声で、エリオットに詰め寄る。相当、怒っている。マジで怒っている。
「どうするつもりだ?エリオット。」
「どうするつもりだと言われても…いや、出て行って貰うが…」
「あの子はどう見てもお前の子だ。」
「そうだな…俺の子だ。」
「子は責任を取らねばなるまい。」
サリアはそう言うと、
「お義父様、お義母様に、戻って来てもらおう。味方は多い方がいい。」
「父上母上にっ??」
引退して今は二人でのんびり、領地の方で暮らしている父と母…
ジークファウゼン・イーストベルグ前公爵、その妻、エストローゼ。
特にエストローゼは気が強く、公爵令嬢でありながら、国王陛下ゼルダスの嫌がらせにより、ゴゼス牢獄の牢獄長を勤めたと言う変わった経歴の持ち主である。
見事、牢獄長を勤め上げた恐ろしい母なのだ。エリオットはその母に頭が上がらなかった。
父も厳しい男だが、母はそれ以上に怖い。
両親が帰って来る。
恐ろしい母と、妻と…そして突如現れた昔の女性と自分の子。
エリオットはマジで失踪したくなったのであった。
明日はどうなるのであろうか?




