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吹雪のコテージからの生還。そして……

 豪雪に閉ざされたコテージに探偵と殺人鬼。となれば、他に誰が必要か?

 そう、『被害者』だ。

 私は、『被害者』の役割を与えられたが、辛くも生存することができた――


『おめでとうございます。クリア特典を付与した上で、次のステージへどうぞ』


 頭の中で声が響く。私をゲームの中に召喚した『何か』だ。先ほど述べた『豪雪×コテージ×探偵』のコラボレーション。もとい、殺人事件で、私は『雀部 由恵(ささべ ゆえ)』という被害者役だった。


 何とか生還することができたのは、『何度もこのゲームをプレイした経験があったから』だろう。特殊な能力や便利なアイテムを与えずに、縛りだけを残した『何か』。


(お礼参りに行くとしたら、真っ先に殴り倒したい)


 だがまあ、生還したので、ひとまずは置いておく。命あっての物種だ。しかし、どうしたら元の世界に戻れるのかとか、その後どうすればいいのかなどは、未だすべてが謎だった。


(クリア特典? 次のステージ? もしや、まだ続くのか?)


 私の疑問に答える素振りを見せずに、『何か』の声は影を薄くしていく。


 だが待ってほしい。せめて『クリア特典』の内容くらいは説明していかないと、不誠実過ぎる。私のそんな願いを聞き入れたのか、『何か』は断片的な情報だけを私の頭へ注ぎ込んでいき、視界が真っ白になった。


(特典は『セーブ&リセット』設定したセーブポイントに一度だけ戻れる……か)


 いかにプレイ経験があるゲームとはいえ、ありがたい能力だ。

 結果がランダムで変わる選択肢だって、このゲームには存在する。即BAD ENDに繋がる物は少ないが、シナリオ開始時に『セーブポイント』を作っておけば、多少の面倒はあってもやり直せるだろう。


 そんな思考を巡らすことができたのは、ほんの十秒程度だった。


 真っ白になった目の前の光が収まると、刺すような冷えは消えた。ほんのりした暖かさと窓からの日差し。春先から初夏だろうか。


 コテージから別の場所へ移動した、そんなことを思いながら、目を瞬かせる。すると、別の輝きが飛び込んできた。まさに、豪華。絢爛。壮麗。絶佳。


(どんだけ前世で悪い事したら、こんな金持ちになれるんだ)


 目の前に広がる光景は、庭に石油が湧きでもしないと拝めないような高級調度にルーレットやバカラ台。そして、金銀の散りばめられた燭台と光沢に溢れたテーブルクロスや深紅の液体を満たすワイングラスたちだった。



◇◆◇



(えらく雰囲気変わったけど、ここ、どこだっけ?)


 私は、探るように目を左右に動かした。だが、目より先に耳が仕事をした。


「雀部さーん! こっちですよ、こっち」

(いまのは……『服部 瞳(はっとり ひとみ)』か?)


 美少女高校生にして、名探偵鳩山の幼馴染『服部 瞳』。彼女の声な気がした。服部がいるなら、どこかに『鳩山 二(はとやま じん)』もいるのだろう。しかし、コテージで生き残った『雀部 由恵(ささべ ゆえ)』を呼んでいたような。


(なら、今の私は『雀部 由恵』じゃないのか)


 せいぜい数瞬の状況確認。しかし、配役を把握するのは一番の優先事項だ。


「どうぞ、お座りください」


 背後からの声に、私は我に返る。目の前にはテーブルがあり、椅子を引かれていた。着席せよ、との合図に従う。


「『ミモザ』で宜しかったですよね?」

「え? あぁ。うん」


 『ミモザとは?』と疑問を挟む間もない。前回の冬山コテージでは、開始までに少し猶予があった。でも、今回は違うらしい。


 既に衆目の中だ。

 『縛り』が引き継がれている以上、不用意な言動は避けておくべきだろう。


(逃げられない。誰が犯人か言えない。自分は誰も殺せない)


 それから、私の言動を縛る、最大の制限。


(『誰かに犯人を知っていると確信されたら即死亡』か)


 黒と白のコントラスト美しい装いの男性が、手元にフルート型のシャンパングラスを置いてくれる。中にはオレンジ色の液体。


 これが『ミモザ』らしい。


(で、私の配役は?)


 ゲームのシナリオを思い返すと同時に、『セーブ&リセット』を使用していないと気づいた。ここでセーブしておけば、シナリオの最初からやり直すことができる。


(豪華客船のシナリオか。なら、このオレンジの液体って……)


 どこかで見覚えのあるシルエットだった。オレンジの液体が揺らぐシャンパングラスを掲げているツンとした雰囲気のある女性。私は記憶の糸を手繰る。


 そのとき、前方からどよめきが聞こえた。続けて鳴り始める拍手に導かれるように、見覚えがある顔が主役とばかりに壇上へ進んでいく。


「皆さん、ようこそいらっしゃいました。我が『南海出版(なんかいしゅっぱん)』の創立五十年を祝う、この船上パーティへ」


 パーティを企画した大手出版社『南海出版』の会長『古竹 源太(ふるたけ げんた)』は続ける。


「多くの皆様に愛される書籍を、時代を超えて創出し続けることを、ここで改めて誓いましょう。それでは……」


(豪華客船『メリクリウス』。確か、この船上で起こる事件は……)


 『古竹 源太』がグラスを挙げる。

 その様子に私は総毛だった。周囲が立ち上がろうとするのも無視して、手鏡を開ける。そして、座っている『椅子』を確かめた。


(深紅の派手なドレスに、短く束ねた髪。そして紫のアイライン……)


 がたがたと席を立つ音がした。私は叫ぼうと息を吸う。


「待っ……」


 古竹によって、『乾杯』の音頭が高らかに宣言されようとした、その瞬間。

 耳をつんざくような轟音と閃光、そして熱風が顔を叩く。


 少し離れた席で女性の絶叫。そして、男の怒号が響く。


「な、なんだ!? 何が起こった!」

「お兄さま! お兄さま!」

「だ、旦那様……。お、おい。医者を呼べ! すぐに……すぐにだ!!」



 私はテーブルに拳を叩きつける。間に合わなかった。救えなかった。

 いや、正直に白状しよう。そんな、誰かを救えなかったとか、それだけでこんなに腸が煮えているだけじゃない。それに、私は一人救っている。


(いい加減にしろよ!! どこの誰だか知らないが……)


 私は、ようやく自分の配役を理解した。


 『龍屋 葵(りゅうや あおい)』本来なら、ここで立ち上がって死んでいたはずの女投資家だった。椅子に仕掛けられていた、圧力解放式の地雷型爆弾によって。


 もちろん、その地雷は今も静かに眠っている。『龍屋 葵』こと私の尻の下で。重さから解放され、その中に詰まった火薬を炸裂させる瞬間に備えて。


 わかりやすく言い換えよう。龍屋は地雷の上で座っている。つまり、『立ち上がる』ことも『ここから移動する』こともできない。


(ふっざけんなよ……今からセーブしてリセットしても、状況は同じやん。あまりにも、理不尽過ぎるだろう)


 考えられる中では最悪の状況で、第二のシナリオは始まった。龍屋に出来ることなんて、前回同様、一つしかない。


「頼むから、早く解いてくれよ……名探偵……」


本当は終わるはずだったのですが、急にふっと思いつき……。

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