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愛田県の実家にひそむもの    作者: MAHITO
4/7

探し疲れて、光也は寝た

    4


 涙が渇くころまで寝室の中を探したが、ここでも何も見つけられなかった。

 あと、二階で残す部屋はふたつとなった。

 ひとつは父親が愛田県職員を退職してから、書斎として使っていた小部屋だ。


 光也が関東の大学で一人暮らしをするようになると、この家は夫婦二人の生活になった。

 父親が使っていた小部屋は、家の北側にある通りに面する納戸であったが、定年を機に安楽椅子を置き、自分の書斎にしたものだ。

 窓からは、眼の高さにある信号が見られ、小学校の登下校の時間には子どもたちの姿も見られた。

 父親は、その小学生の安全を見守るため、朝夕は、信号交差点に立って、登下校の指導をしていたと聞く。


 書斎のなかには、窓のほうに向かって安楽椅子がひとつ置かれていた。

 安楽椅子自体が古びた家具といったイメージがある。そのうえに、主人を失くして、使われていないから、なおさらわびし気に見える。


 壁際には本棚が三台立てかけられており、生前読んでいた書籍がずらりと並べられていた。

 ハードカバーのものは数少なく、小説類の文庫本が多かった。

 理工系の専門書か、漫画しか読まない光也にとっては、作家の名前を聞いたことがあるぐらいで、読んだことがないものだった。

 本棚に書籍が並んでいるといっても、ドラマや映画にに出て来るように、軽量な文庫本の裏側には、貴重品などを隠していることもなさそうだ。

 気の進まぬ作業に、光也の足は重りをつけられたように動かなくなってきた。


 最後だと言い聞かせて、幼いころから浪人時代まで使った勉強部屋に入った。

 自分の学習机とベッドと本棚がある部屋だ。

 この部屋は、光也が大学に合格して一人暮らしを始めたとき以来、そのままにしてある。

 ベッドにドスンと大の字になって倒れた。

 結婚してからは、この家に来るのはいつも家族と一緒で、そのとき泊まるなら、一階の和室を光也夫婦と子ども二人で使う。


 一人っきりでこの部屋で寝転ぶなんてことはもう何年も忘れていた。

 光也が十九年間を過ごしたこの部屋。

 天井には大きな雨漏りの染みが残っていた。

 光也が幼い頃に襲ってきた大型台風のときのものだ。

 風が吹き荒れ、天井から雨戸から雨が侵入してきた。

 あのときは父親も母親も若く健在で、泣き喚く幼い光也を、二人が順番に抱きかかえて嵐を乗り切ってくれた。

 ほろ苦さも楽しみも、一緒くたにして煮込んだような空間であった。

 父親の死とは別の意味で悲しくなった。


 光也は大きくため息をつくと、

「もう、探しもんやめた。いいわ。一晩ここに泊まって明日帰ろう……」

 天井の染みに、向かって泣いたあとの、しおれた顔で欠伸をした。

 ここまで父親の財産を探したけど見つからなかった。

 それでいい。

 光也には根掘り葉掘り探すことが父親と母親への思い出を汚すことのように思えた。


 まだ自分が使っていた勉強部屋は探してはいないが、こんなところにあろうはずもない。

 これ以上、探せとなると、それこそ天井裏に潜り込むか、畳をはがしたりしなければならない。

 もし明日香が心配するように、父親への請求書が相続人である自分のところに回ってきたら、こちらで払えばいいのだ。

 明日香が不満を漏らしたのなら、自分の小遣いで払えばいい。

 もう、顔色をうかがうこともやめだ。


 そんなことを考えているうちに、眠気が襲ってきた。

 朝からの会社勤め、四時間をかけての関東から実家までの移動、最後に、ここ実家での作業と、休みなしであった。

 疲れが出たのだろう。寝よう。

 愛田県の実家の、自分の部屋は、光也にとって今でも落ち着く場所だった。

 柔らかな優しい空気に包まれて、光也はうとうとした。


 どれほどの時間がたったのだろうか。

 肩を誰かに叩かれているような温かさを感じた。

 夢のなかで叩かれているのか――。

 光也はうっすらと目を開けた。

 幼いころの情景でも思い出しているのかなと思った。

 父親がベッドに寝る光也の顔を覗き込んでいたのだ。

「ああ……。父ちゃん」

「おぉ、光也。ここで休んでいたのかい。眠たいのか? すこしばかり目をさまさんか」

 聞き覚えのある父親の声だった。

 眼鏡をかけた父親が、光也をかたわらで見ている。なんだが自信なげ表情だ。

「眠たい……。もう少し寝かせて……」

 光也はそこまで言うと、我に返った。

「うぉっ!」

 発条ばね仕掛けのおもちゃのように、ベッドのうえで跳ね起きた。


     ( 続く )


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